第75話 カードのアップグレードの真価

「にぃ? これどうするの?」


「…………り、六花が着けてくれ……」


「は~い」


 一気にステータスが上昇した感覚を味わう。


 パーティーメンバーが一枚目に装着してくれたら、恩恵によってメンバー全員に効果が与えられる。


 恐らく離れた凪たちにも効果が与えられたはずだ。


「にぃ? このまま二十層にも行こうよ」


「へ?」


「にぃのキラキラしたので倒せるか試してみようよ~」


 ちょっと妹が何を言っているのかわからないまま、気が付けば二十層にやってきていた。


「ええええ!? もう二十層!?」


「そうだよ?」


 目の前にフロアボスと戦いますかの画面が現れている。


 まあ、倒せなかったら全力で逃げればいいか……ステータスが底上げになったから何とかなるか。


 戦闘開始ボタンを押すと上空にグランドリッチが現れる。


「――スキル! カードバースト!」


 剣を前に突き出すと前方に眩しい虹色光の嵐が荒れ狂う。


 グランドリッチが嵐によって激しくあっちこっちに飛んでいき、ボロボロとなって姿を消した。


 上空からは大きめの魔石が地面に落ちる。


「わあ~! にぃのスキルだと一撃なんだね~!」


「あ、あはは……はは……は…………」


 いくらなんでも強くなり過ぎではありませんか? アップグレードさん……。


 それと、グランドリッチのカードが出なくて本当によかった。出ていたら心臓が止まる自信がある。


 魔石を持ってダンジョンを後にした。




 ◆




 その日の夕方。


 シェアハウスに帰ってくると、今日はみんな集まっていた。


「あれ? 今日は珍しく絵里さんが料理?」


「うん。由衣ちゃんが中華食べてみたいってことで、花音ちゃんが手伝っているよ」


 厨房では絵里さんと花音が料理していて、由衣が覗いている構図だ。


「それより、ゴブリンジェネラルカードは六花ちゃんが着けることになったの?」


「あ~あはは…………ううん……」


「あれ? でも……」


「実は…………」


 今日あったことを報告した。


「あはは~ケントくんらしいよ。これからフロアボス戦は私達の出番はなさそうだね~」


「ううっ…………い、胃が……胃が痛い……」


「リーダー、ふぁいと~!」


 凪の可愛らしい応援が胃の痛さを少し和らげてくれる。


「そんなにドロップ率が上がるなら、全員分を集めるのもいいかも知れないね」


「ぜ、全員分!?」


「う~ん。欲を言えば、メンバー全員の五枚分ずつ?」


 な、凪が……恐ろしいことを……。


「私も賛成~」


 り、六花まで…………。


 料理しながら聞き耳を立てていた絵里さんたちも手を上げて承諾の意志を示す。


「じゃあ、これから暫く攻略じゃなくて十層と二十層を繰り返す感じかな~」


 どんどん話して進んでいく……選択肢はなさそうだ……。


 その時、地下・・のチェックを終わらせた恵奈さんが帰ってきた。


「栞人様。明日時間を作って頂きたいのですが」


「僕ですか? もちろんいいですよ」


「以前仰っていた件の交渉が終わりましたので、栞人様さえ宜しければ、明日に面接をと思いまして」


 先週お願いしていたことだ。


「わかりました。ぜひお願いします。みんな~明日面接するから参加できる人はよろしく~」


 明日の面接はみんなが参加してくれるみたいで良かった。


 恵奈さんも込みで久しぶりに絵里さんが作ってくれた中華を堪能する。


 由衣も美味しいと何度も声をあげた。六花と凪の料理ももちろん美味しいけど、たまには中華の油っこい感じの料理もとても美味しく感じる。定期的に食べたくなる味だ。


 その日はみんなと一緒に食事をとって、テラスで夜空を見て楽しんで眠りについた。




 ◆




 次の日。


 朝食を食べて少し経った頃、迎えの車が来てくれてみんなで乗り込む。


 『出雲』で迎えてくれる車と似た感じの高級車で乗り心地はもいい。


 伊狩さんが恵奈さんに変わった感じだ。


 車が向かった場所は、今住んでいる街のとある体育館だった。


 そういや最近学校にも行かなくなったな。


 ダンジョンの出現によって一定の層は学校よりも生活を優先しないといけない。


 せめて妹だけでも学校に通わせたいのだが、本人が拒否している。学校でいい思い出もないので、仕方ないと思う。


 止まった車から降りて広々とした体育館に入ると、何人かのボディーガードと共にアルカディアの店長さんが出迎えてくれた。


「この度はこちらの要望に応えて頂きありがとうございます」


「栞人さんには魔石を多く売って頂いているのでこれくらい容易い御用です」


 遠回しにちゃんと魔石を売ってくれと言っている気がする。


「ではこれから例の方々の面接とさせていただきます」


「よろしくお願いします」


 僕達は並んでいる椅子に座ってこれから訪れる人たちを待った。


 数分しないうちに扉が開いてとある集団が中に入ってきた。

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