第73話 ゴブリンジェネラルカード

「あ~ん」


 凪……?


「あ~ん」


 六花……?


「あ~ん」


 花音?


「あ、あ~ん……」


 絵里さん?


「うふふ。あ~んしてください~」


 由衣?


 気が付けば、リビングのソファに座っていた。


「あ……れ? ここは?」


「あっ、にぃがやっと元の状態に戻った」


「ケントくん~? 私がわかる?」


「へ? 凪ぃ……?」


 手を伸ばして僕のおでこに手を当てて目を合わせている凪が見える。


 綺麗な銀髪も目立つけど、凪の目や顔もまた可愛らしい。


「ほら、ケントくん。テーブルの上は見れる?」


 凪に言われたままテーブルの上を見る。


 虹色に光り輝いているモンスターカードが一枚。そこにはゴブリンジェネラルの絵が描かれていた。


「ゴブリン……のカード」


「違うのよ?」


「ゴブリンが一体……ゴブリンが二体……」


「一体しか写ってないでしょう?」


「う、嘘が………ゴブリンジェネラル? 本当に?」


 ゴブリンジェネラルって売値で三十億円はする。これを売れば……六花をもう二度と苦労させなくて済む。


「よし、売――――」


「売りません!」


 バーンと優しくテーブルを叩きながら僕を見つめるのは、妹だった。


「にぃ? 前にも言ったけど、私のために売ってお金にするのなら嫌だからね?」


「六花……」


「それに今のにぃはパーティーのリーダーよ? 私一人のためにメンバーみんなで手に入れた大事なカードを売るのはいくらにぃでも怒るからね?」


「そ、それは……」


「それに、私ね……昔みたいに一人で家で待つ生活はもう嫌なんだ。ずっと不安でにぃが帰って来るのをただ待つだけでずっと不安で……だから今の生活が凄く好き。それにさ、うちのメンバーは強いからこれからも一緒に頑張りたい!」


 前にも妹に言われたけど、超高額モンスターカードを目の前にするとまた気持ちが揺らいだ。


 凪たちはどういう気持ちで聞いていたのだろうと少し心配になって顔色を伺ってみる。


「ふふっ。私はケントくんがそうしたいならそうしてもいいよ?」


「花音ですか? う~ん。花音はそのカードがなくても今のままでも十分に戦えるので売ってもいいと思いますけど~?」


「わ、私は美味しいご飯が食べられればそれでいいというか、お金が欲しいところはもうないからね。いずれモンスターカードは栞人くんが拾ってくれるだろうし、装備も揃っているし、お金はもういらないよ?」


「ほえ~私はケントさんが好きな方でいいですけど、六花ちゃんと一緒に旅がしたいですわね~」


 みんなが各々の気持ちを語ってくれた。


 これで二度目だからもうちょっとしっかりしないとな……。


 今一度みんなのリーダーとしてしっかりしなきゃいけないかなと決心した。


「それにしてもゴブリンジェネラルの効果ってどんな感じなんですかあ?」


「ケントくん、ほら」


 凪がモンスターカードを僕に渡してくれる。


 受け取ったモンスターカードは今までで一番重く感じる。今までモンスターカードがこれほど重いと感じたのはこれが初めてだ。


---------------------

 『ゴブリンジェネラル』

 力+100、器用+50、速度+50

---------------------


「す、凄い……! 力100も上がって、器用も速度も50も上がるよ!」


 僕の答えにみんなが大きく驚く。


 通常モンスターカードと上がる度合いが全く違う。フロアボスともなれば当然といえば当然かもしれない。それに、十層というフロアボスでは一番の下層でこの性能なら、もっと上層のフロアボスのカードの性能はもっと凄そうだ。


「にぃ、それももちろん凄いんだけど、アップグレードしたらどうなるの?」


「そういやそうだったな。ちょっと待っててな」


 今度は装着してアップグレード品を確認する。


---------------------

 『ゴブリンジェネラル+』

 スキル『カードスラッシュ』及び『カードバースト』の範囲と判定が増加する。

---------------------


「えっと……ステータス上昇が全てなくなる代わりに僕の攻撃スキルが凄く強くなるらしい」


「ほえ~他のゴブリンカードみたいに十倍になるわけではないんだね」


「そうみたいだ。このまま僕が装着してしまうとステータスじゃなくてスキルになっちゃうから、これは六花が装着してくれる方が一番良さそうだな」


「でもにぃのスキルが強くなれば、それも戦力アップになるからステータスより先にスキルを確認したらいいんじゃない?」


「それもそうだな。明日にでもダンジョンで確認してくるよ」


 明日は土曜日で、土日は休みにしているので僕一人で確認して来ようと思ってる。


 それから色々話し合って、僕と立花はダンジョンに向かって色々試してそのまま休日を過ごすことにして、凪と花音、由衣は街の散策に行くそうだ。絵里さんはいつも通り屋敷でゆっくりしたいらしい。


 それと凪が使っているカード『エンシェントウルフ』が速度50上昇するだけで一億円、花音が使っているカード『エンシェントオウガ』が力50上昇で五千万円と聞かされた。


 その値段から考えたら十層のフロアボスで三十億円という破格の値段にも納得だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る