第71話 やってきた京都の聖女

 初めての京都の旅は、あっという間に終わった。


 僕達が訪れたのは由衣さんが過ごしていたお寺のみ。


 本当なら京都の街並みだったり、色々堪能したかったのはあるけど、それよりも由衣さんをいち早く京都という場所から救い出したかった。


 いつか由衣さんが落ち着いたら、案内してもらうのを楽しみにしながら、僕達の弾丸ツアーは幕を下ろした。


「わあ~! 西洋風の屋敷なんですね!」


「僕の持ち物ではないんですが、色々あって僕達パーティーで使っています。これから由衣さんの家にもなりますから」


「わあ~!」


 新鮮な風景に驚いて、ずっと笑みを浮かべる由衣さん。


 実は『出雲』にもう一つ提案したのは、由衣さんに会わせて欲しいということ。由衣さんはずっと京都のお寺で時折回復魔法でのお仕事をしながら、ゆっくりと過ごしていたらしいけど、外に歩けなくなってしまったらしい。


 生きる目標もなく、ただただ目の前の傷ついた人々を治し続ける由衣さんをうちのパーティーメンバーにしたいと提案した時は、みなさんが驚いたのは言うまでもない。


 それにしても由衣さんと六花が一緒に並んでいると、同じ金色に輝いている髪がものすごく目立つ。


 六花は言わずもがな世界一可愛いけど、由衣さんは和製美人というか、長いストレート黒髪と着物がものすごく似合う。今は金髪になっているから少しだけ違和感があるけど、金髪と着物が意外と似合う気がする。


 外はすっかり暗くなって、屋敷の中で入り恵奈さんに紹介する。


 恵奈さんも仕事とはいえ、殆どを屋敷内で暮らしていて辛くないのだろうか?


 すぐに料理に取り掛かった六花と凪に興味津々な由衣さんは、じっと厨房の中を覗き込んでいた。


 どうやら料理はしたことがないらしくて、やってみたいと言っていたけど、料理初心者が二人の料理人の隙間に入れるのは難しく、わがままを言わずに眺めるだけだった。


「美味しい~!」


 二人が作ってくれた料理を食べると、すぐに満面の笑みで声をあげた。


 うんうん。やっぱり二人が作ってくれる和食と洋食はとても美味しいものだな。


 食事を終えて、女子陣で風呂に入っている間に、僕は電話で源氏さんに報告を入れる。


 既に伊狩さんから報告は受けているだろうけど、それとこれは別で源氏さんにもしっかり僕から直接報告をしたかった。


 源氏さんは豪快な笑いで、明日彼女を連れて工房に来て欲しいと言った。恐らく、彼女用の防具を作ってくれるのだろう。


 風呂から上がったみんなの中から、六花が慌ただしく僕に近づいて来た。


「にぃ」


「ん?」


「えっとね。由衣さんができれば一緒に寝たいらしくて、一緒に寝てもいいかな?」


「いいんじゃない? でもベッドはどうしよう?」


「ベッドなら私が運ぶね~」


 凪が手をあげて二階に上がって行った。


 まあ、みんながそうしたいならぜひそうしていいと思う。


 由衣さんの部屋に入った凪がすぐに出て来る。


 凪……いくらレベルが上がってるからって……自分の体よりも倍は大きいベッドを片手で持つのは…………。今後凪に逆らうのはやめておこうと心の奥で決心した。


 その日は六花と一緒に寝るらしくて、遅くなりすぎないようにとだけ伝えて、僕は風呂に向かった。




 ◆




 次の日。


 朝一で工房を目指す。

 

 工房がある場所まで道を歩くと、金髪着物の美女は目立ちすぎて通り過ぎる人々がこちらを見つめて来る。


 まあ、六花だけでも十分に振り向いてくるけど。


 降り注ぐ視線を通り抜けて源氏さんの工房に入る。


「源氏さん。お久しぶりです」


「久しぶりだな。少しは元気になったようでいいじゃねぇか。由衣」


「ふふっ。これも全部ケントさんのおかげです」


 いや~そこまでは~。


「にぃ? 顔が緩んでいるよ?」


「!? ごほん。それより源氏さん?」


「おう。もういいぞ。由衣の専属防具を作るから、四日後に来い」


「分かりました」


「私もみなさんをお揃いを作ってもらえるんですか?」


「ああ。一人だけ仲間外れだとな」


 確かに、一人は着物で僕達は黒い服だし、僕以外に至っては全員が可愛らしいスカート姿の衣装だからね。


「ではよろしくお願いします」


「おう。任せておけ」


 源氏さんの工房を後にして、今日は由衣さんのデビュー戦ということもあって、久しぶりにクラウンダンジョンの一層にやってきた。


 着物姿で動きにくいのかなと思ったら、意外にもちゃんと動きやすいらしくて、特に辛そうな表情は浮かべていなかった。


 それから一層のゴブリンとの戦いを試してみて分かったのは、由衣さんは六花とは違い、完全なる回復魔法しか使えないようだ。


 光の槍のような攻撃魔法は使えないみたい。となると、戦闘というよりは後方でいいのかな。


「ケントくん~提案が一つあります~!」


「いいよ?」


「まだ戦いになれていない由衣ちゃんのために、このまま二層でゴブリンを大量に狩りたい!」


「ん? まあ、いいんじゃないか? 今日はあまり移動せずに下層で戦った方がいいかもね」


 凪の提案通り二層にやってきて狩りを始める。


 布陣は僕が由衣さんを守りつつ、魔石回収をする。他のメンバー四人は各自広がってゴブリンを狩り尽くし始めた。


 幸いなことにこの層で狩りをする初心者はいなくて、殆ど僕達パーティーが独り占めすることとなった。


 そもそもどうしてゴブリンなのかな?


 僕はひたすら彼女達が倒し続けたゴブリンの後を追い魔石を回収し続けた。由衣さんは意外と楽しそうに一緒に草原を歩き回った。

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