第67話 新しい同居人
とあるマンションの一室。
壁や床、天井は黒色に統一されていて、置物もそれ程の数はないものの、独特な置物が並んだ部屋で背もたれが斜めになっているふかふかのソファーに座り、赤い液体が入ったワイングラスを片手に優雅に外を眺めている少年がいた。
「ミカエル様」
後ろから落ち着きのある女性の声が聞こえる。が、姿は見えない。
「ラファエルか。久しぶりだね。どうしたんだい?」
「『祝福』の件は実証が進みました」
「どうだった?」
「レベル1なら広範囲で確実に広げられます。ですが、レベル2以上はどの個体も祝福には至りませんでした」
ゆっくりとワイングラスの飲み物を口に運ぶ少年。
「そっか~それは残念だったね。でもレベル1なら確実に広げられるならいいんじゃないか。これからレベル1の祝福を量産してくれ」
「かしこまりました。それとルシファーの件です」
「ほぉ……」
無表情だった少年の口元が緩み始める。
「例の仕掛けの調整が終わりました。範囲は大体になりますが半径五十メートルくらいで発動を確認しました」
「ほぉ……なんて素晴らしいんだ。やっぱり仕事はラファエルに任せるに限るね」
「滅相もありません」
「じゃあ、レベル1の祝福を集める間の余興として、ルシファーを遊んでやるか」
「はっ。すぐに準備を整えます」
「任せたよ」
そして部屋はまた静寂に包まれた。
ゆっくりとワイングラスの飲み物を飲み干した少年がゆっくりと起き上がる。
「くっくっくっ…………ルシファー。僕の手を取らなかった君を――――」
右手で持っていたワイングラスを握りしめる。硝子が割れる音が響いて、その場にボロボロと光りの粒子となり落ちていく。
◆
「んあああああ! 疲れたあああああ~!」
「お疲れ様」
ソファに身を投げた僕の肩に柔らかい感触が伝わってくる。
「!? な、凪!?」
「うん?」
「そ、そ、その…………」
僕の肩を優しく揉み始める。
「あ~にぃが凪姉に肩を揉まれて顔が緩んでおります~」
「ち、違っ!」
向かいのソファから目を細めてこちらを見つめる六花。
ただ単に普段やったことがない交渉事に疲れただけなのに……。
「ケントくん? 凄くかっこよかったよ?」
ダメ押しまでされてもうどうなってもいいとまで思えた。
その時、勢いよくチャイムの音が鳴り響く。
花音がスキップしながらインターホンを受け取った。
「はいはい~ここは栞人さんの愛の巣でございます~」
「ぷふっ!?」
「初めまして。アルカディアから派遣された者です」
「は~い。今出ます~」
花音が僕を通り抜けながらいたずらっぽく笑う。
うぅ……このままでいいのだろうか…………。
玄関が開く音が聞こえて来て、花音と一緒にもう一人の女性が入って来た。
服装は普通のボーイッシュな衣装で、うちのメンバーが全員スカートなのに対して、彼女はジーンズを履いていることに不思議と違和感を感じてしまった。
そもそもダンジョンで狩りをするのにスカートなうちのメンバーの方が異質なのだろうけど。
「初めまして。アルカディアから派遣された
「代わりに中で恵奈さんが見張るということですね?」
凪の鋭い質問に彼女は眉一つ動かさずに返事をする。
「そう受け取られても仕方ないと思います。確かにみなさんのこれからを私も聞くことでこれからのみなさんの安全を目指すことにはなります」
「これからよろしくお願いしますね。恵奈さん」
「はい」
「あと、こちらのケントくんが私達のリーダーになります」
「ど、どうも……あはは…………」
できれば肩のマッサージは終わって欲しいんだけど、凪が離してくれない。離れようとするとそのまま肩を鷲掴みにされて体が動かせないのだ。
「じゃあ、恵奈さんの部屋は花音が案内してきますね~」
「ああ。頼んだ」
花音が恵奈さんを連れて部屋に案内する。
部屋はやはり僕達と並んだ部屋にするんだな。これで一番左手に僕、そこから六花、凪、花音、絵里さん、恵奈さん順になる。
他にも風呂場やリビングなどを案内して、シェアハウス内のルールを花音が丁寧に伝えた。
全てメモに記載している彼女の真面目さが分かるようだ。
それから六花が作ってくれた料理を堪能した恵奈さんは初めて表情が緩んだ。やはり人って美味しいものの前では無力なんだなと改めて分かった。
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