第66話 出雲の正体

「『聖女』というのは、日本というよりはイギリスを主体としたヨーロッパ諸国で伝わっています」


 僕が元々知識が低いのかも知れないけど、確かにここ日本で暮らしていてあまり聞かない名だ。


「では本日僕達を呼んだ理由を聞いてもいいでしょうか?」


「回復魔法が使えるというのはそれだけ強力であり、逆に言えば奪われたくない・・・・・・・ですね」


 織田さんの鋭い目線が僕とぶつかり合う。


「こちらの条件としては回復魔法で我々の活動を手伝って欲しい。その代わりにこちらからできる保護は全て約束しましょう」


「残念ですが、僕達は既に・・アルカディアと契約を結んでいます」


「ふふっ。それは知っていますよ。上面・・だけの契約なのもね」


「上面ではありませんよ。昨日までは」


「ですが、それすら『魔石』を売りつける条件とかなのでしょう? そんなことはただお互いに名前を繋げているに過ぎませんからな。それを繋がりというのなら笑い者ですぞ?」


 こればかりは凪と話し合っておいてよかった……僕では力不足を感じてしまう。


「では『出雲』は僕達とどういう繋がりを持ってくれるんでしょうか?」


「そもそも既に繋がっていると思いますかね? 我々の最高職員と」


 みんなの視線が源氏さんに移る。源氏さんは大袈裟に溜息を吐く。


「まあ、元々小僧達には目を掛けていたからな。赤いのが組んだパーティーというだけあって、ここまで来ると思っていたから。俺の関係は変わることはない。だが――」


 源氏さんの目が煌めく。


「お互いに持ちつ持たれつ。お互いが困った時はお互いを支えるべきだと思うがな」


「ええ。僕は源氏さんに大きな恩義を感じていますし、メンバー全員も同じ意見です。ですが、妹を商品・・にはしません」


「がーはははっ! ――――――小僧。それは当然だ」


「では『出雲』は僕達に何を求めるんですか?」


「それはたった一つ。我々では対処できない事を解決してもらいたい。『黒猫団』としてな」


 一緒に参加していた伊狩さんが数枚の紙を前に出した。


 そこには人の肌が写されており、黒い斑点が無数に広がっていた。


「これは……」


「以前『黒猫団』がスラムで治した病気、我々は『漆黒病』と呼んでいます」


 漆黒病……。


「私達『出雲』は、日本国の平和を守りたいことが根にあります。ここにいる長の織田も鍛冶師の源氏も、その理念に変わりはありませんし、みなさんに求めているのもそれらです。私達の力でどうしても治せない病気に対応して頂きたい。それが私達の提案です」


 六花の待遇については全て僕に任されている。僕が首を縦に振れば、それは決定事項になり、六花もそれに従うという。


「残念ですが、それに『はい』と答えるのは難しいです。確かに六花にしか治せない病気もあるでしょう。ですが、それを際限なく押し付けられたら困ります」


「ええ。妹君を守りたい気持ちは理解できます。それに回復魔法の悪い点は、成長しないことも知っています」


「成長しない?」


「ええ。回復魔法が使えるなら、レベルを上げた方がより強力で楽に回復魔法を使えるようになるはずです。ですからみなさんの普段の生活を妨害するつもりは全くありません。ただ今のところ漆黒病だけはどうしても治せない。あれが感染病であるのは突き止めました。ですからより手が付けられなくなる前に止めて頂きたいのです」


「僕達が協力できる部分はします」


「それで充分です。六花さんの実働も必要最低限に抑えます。そこまでの道のりもこちらで全て確保しますし、その報酬もしっかり支払って頂きます。それが――――ここにいる長である織田の娘、織田由衣ゆいさんの願いでもあります」


 織田由衣?


 一緒に聞いていた絵里さんが小さく咳払いをする。


「こほん。みんな。以前話した前例・・の人の名よ」


 前例…………間違いなく、京都の聖女だ。


 必死に人々を治し続けて、人々によって壊れてしまった聖女であり魔女と呼ばれる人だ。


「あの子のように潰される真似はしない。だが、あの子が願っていた世界の平和をいつか実現したい。そのためにはみなさんの力が必要です。我々に力を貸してください」


 織田さん始め、源氏さん、伊狩さんも深々と頭を下げた。


 ここまで見てきた源氏さんだからこそ、『出雲』もまた信頼できる団体だと思う。だからその提案を受けることにした。


 ただ、妹には無理させないようにしたいと思う。

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