第64話 交渉。その一。

 物腰は柔らかい。でもその目の奥には凄まじく強い意志を感じる。


「初めまして。田中栞人と言います」


「これはこれは、丁寧にありがとうございます。本日は急なお声がけに大変失礼しました」


「ちょっと驚いてしまいましたよ~」


「ふふっ。まだお芝居は弱いみたいですね。こちらにどうぞ」


 店長と自己紹介した京極さんに付いていくと、とある部屋に通された。


 小さな会議室で、テーブルと椅子だけが置かれているが、テーブルの上には僕と京極さんのお茶が用意されていた。


 対面に座り、お茶を一口飲むと、京極さんが目を光らせた。


「今までFランク魔石を大量に売って頂き、本当にありがとうございました。アルカディアを代表して感謝致します」


「こちらこそ。普通の買取センターでは売れませんから、とても助かります」


「そう言って頂けると助かります」


「それに、シェアハウスの件もものすごく助かりました。非常にセキュリティ対策も凄くて僕達が買うには、とてもじゃないけど、不可能でした・・・から」


 一瞬の沈黙のあと、二人で同時に「ははは!」と声を出して笑う。


 そしてお互いに鋭い目で睨み合う。


「単刀直入に言いましょう。どうやって魔石をあれほど大量に?」


「機密事項です」


「これからもアルカディアに卸して・・・頂けるので?」


「それはアルカディア次第です。いま、とある機関・・・・・とも接触しています」


「鍛冶師源氏派閥ですな?」


「ええ。もう知っているとばかり思ってました」


「…………彼からの支援の方が大きかったのでしょう。それは理解していますが、こちらも何もなしに支援するわけにはいきませんから。ですからあの屋敷人材はこちらの支援だと思ってくだされば」


「はい。もちろん感謝しております。ですが最近……僕達の屋敷の周辺に凄まじい数のがいて困っているのです。これも支援してくださった人材・・・・・・・・・・・のおかげで調べることができました」


「それはよかったです。一つだけ言っておきますが、我々アルカディアは関わっていません」


「そうだと信じています」


 一度大きく溜息を吐くと、お互いにお茶で口を濡らす。


「みなさんの情報はもちろん機密情報として扱わせてもらってます。が、それだけでは納得しないでしょう。では指定依頼を別の形で出させて頂きます」


 指定依頼。アルカディアに所属している以上、指定依頼を受けないといけない。いや、厳密にいえば、彼らが用意してくれたシェアハウス及び買取センターをこれからも利用したかったら、そこから逃げることはできない。


「毎週、どのランクの魔石帯でも構いません。Eランク魔石百個分を売ってください。それを受けてくださるなら、アルカディアから他の指定依頼は絶対に出しません・・・・・・・・


それだけ・・・・ですか? 今の僕達なら別に屋敷一つ買うのは難しくないのですが」


「…………分かりました。シェアハウスの守りを請け負いましょう。ただし、それには一つ条件があります」


「どうぞ?」


「こちらの隊員を一人、屋敷の中に住まわせてください」


「男性ですか?」


「いえ。女性です。みなさんのメンバーを考慮させて頂きます」


 こちらの内情を知っておくことで、アルカディアと決別を許さない・・・・・・・という意志表示だ。


「分かりました。その提案を受けましょう。それとダンジョンの情報を頂けますか?」


「クラウンダンジョン二十一層ですね?」


 さすがに魔石のランクがFからEに上がってるから簡単に気づくようだ。頷いて返す。


「一番高いビルがあります。あの入口は実は幻影でそのまま入れます。二十一層から三十層では全て同じです。一番高いビルは一番遠く・・に建っています」


「ありがとうございます。助かります。ちなみにですが、クラウンダンジョンの踏破層は何層ですか?」


「四十九層です。五十層には誰もたどり着けておりません」


「四十九!? フロアボスに到達できてないんですね?」


「ええ。四十九層にやっかいな魔物がいて、フロアボスよりも遥かに強く、踏破は難しいとされています」


 これで僕達の目標が一つ決まった。四十九層踏破を目指して登っていく。


「それではこれからもアルカディアと良き関係でいてくださることを心から期待しております」


「こちらもです。向こう・・・にもしっかりアルカディアとの関係は伝えておきます」


「ぜひそうしてください」


 京極さんと握手を交わして会議室を後にして、Eランク魔石を売ったお金を受け取って喫茶店に上がって行った。


 四日間のEランク魔石の収入だけで、一千万円を超える買取額だった。

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