第63話 地位の確立

 二十一層から一番変わったことを述べるなら――――魔石が変わったことだ。


 一層から二十層までの間、普通の魔物から手に入る魔石は全てがFランク魔石だった。それが二十一層からは全てがEランク魔石に変わった。


 魔石のランクが上がることはものすごい意味を持つ。単純に値段がものすごく変わるのだ。


 Fランク魔石の買取価格は1,500円だ。それでも十分に高いと思うのだが、Eランク魔石となるとそこから三倍跳ね上がり、5,000円となる。出現する魔物数、倒す速度が下層と比べて遅くなるなら下層でいいのだろうけど、うちのパーティーメンバーに限ってはそんなことはなく、下層のように倒しているので、単純に収入が三倍増となると思われる。


 そうやって三日間の狩りが終わって、屋敷に戻った。




「二十一層でも十分に戦えることはわかったんだけど、問題は二十二層に向かう方法が分からないね」


 妹が用意してくれたお茶を飲みながら凪がおもむろに声をあげた。彼女の言う通り、二十二層に向かわなかったのは何もまだ早いと思ったからではなく、向かう方法が分からなかったからだ。


 今までだとわりと分かりやすかったのに、まさかここまで見つかりにくいとは思わなかった。


「どこかで情報を仕入れた方がいいのかな?」


「そうね。このまま闇雲に探しても大変なだけだから、一度情報を買う・・方がいいかもね」


 情報一つで相手に出し抜かれることも多い世の中では、情報は大きな商売の一つだ。


 特にダンジョン内の情報ともなると普通には手に入らないので、より高額に取引されるという。


 となるとアルカディアを通せば、ある程度格安で手に入ると思うんだけれど、アルカディアとの関係性を深めるべきなのか悩ましいところだ。


「どの道、明日アルカディアでEランク魔石を売り払ったら、私達が二十一層に辿り着いたのはわかるはず。それを見越して・・・・私から一つ提案があるよ」


「提案? ぜひ聞かせてくれ」


 そして凪は秘策を授けてくれた。


 情報がなくて進められず、どこからか情報を仕入れるとしたら、いずれアルカディア組織の耳に入ってもおかしくない。となるとそれを逆手にとって極力こちらの利益になるように仕向けた方が得策だ。


 ここは凪の提案を全面的に採用する運びとなった。




 次の日の金曜日。


 今日は二十一層に向かわず、一層からダンジョン内を走って駆け抜ける。


 ヘイストがあるとはいえ、十層まで向かうのには時間が掛かる。これさえなければ、フロアボスのカード狙いで定期的に回りたいとさえ思うんだが……こればかりは仕方がない。


 十層でゴブリンジェネラルを、二十層でグランドリッチを倒して魔石を回収した。


 それにしてもゴブリンジェネラルはともかく、グランドリッチすら簡単に倒せるようになった気がする。やはり慣れって怖いなと思えた。


 魔石を回収して、ゆっくりと源氏さんの店に向かう。


「源氏さん。この前のダークキャットの革助かりました」


「!? …………お前たちだったのか」


「はい。源氏さんにはいつもお世話になっていますから、これ今回の分の魔石です」


 タイミングよく店内には誰もいないので、ダークキャットの革の話を繰り出す。


「はあ…………まさか小娘っ子が回復魔法持ちだったとはな。だがそれを俺に言うって事は、どうなるのか知っているのか?」


「ええ。源氏さんの味方・・なら信頼に値します。僕達は何も誰彼構わず敵対したいわけではありませんから」


「…………わーったよ。はあ、あの時の小僧がここまで成長するとは、ダンジョンという場所は恐ろしいな。明日空いてるか?」


「はい。空いてます」


「じゃあ、明日迎え・・に行く」


「分かりました。お待ちしております」


 源氏さんと挨拶を交わして、今度は喫茶店『黒猫』に向かった。


 いつも通り、食事を頼んで、僕だけアルカディアに向かう。


「あの~今日から魔石の種類が変わりますけど、大丈夫ですか?」


 そう話すと受付嬢さんの顔がより真っ青に変わった。引き攣った顔で「ど、どうぞ……種類は別々に……分けて……ください……」と力なく答えた。


 僕のために用意された魔石入れの大きな籠に三日間採取したEランク魔石を大量に入れる。


 それとは別に今日フロアボスを目指しながらなぎ倒した分のFランク魔石を数十個取り出して入れた。


「上で食事してきますので、会計は後で大丈夫です」


「か、かしこまりました……」


 そして喫茶店の上に戻り、みんなと一緒に食事を楽しむ。


 こんなにも長い時間一緒に時間を過ごしてもみんなの話題が尽きることなく、何気ないことから色んな話題でずっと話し合うみんなの仲良さに嬉しくなる。特に一番声を出している妹を見ながら、パーティーメンバーの実力だけじゃなくて性格の部分も恵まれたと嬉しく思う。


 食事を終えて、みんなのためにも僕達の地位・・を確立させるためにも頑張るためにアルカディアに向かった。


 そして、そこには凪が予想していた通り、紳士服に身を纏った老紳士が待ち受けていた。


「栞人様。私はアルカディアの店長・・をやっています京極きょうごくと申します」

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