第61話 黒猫団
久しぶりにやってきたスラム街は懐かしさすら感じる。
ここはスラム街と呼ぶべき場所ではないのだけれど、通称としてスラム街と呼んでいる。
暗闇に紛れて、一番前の黒猫を追いかける。
先陣を走っていた花音が手の合図を送ってきた。止まった場所からひと際大きめの家屋がある。
そこから少し放たれた家の屋根の上に被り物をして隠れている人達が見える。
それにしても彼らは一体何の存在なのだろう?
「みんないい? 絶対にスキルは禁止。特に六花ちゃんと栞人くんね」
「「了解」」
絵里さんから小さい声で念を押された。
全員でアイコンタクトをとって、作戦を開始した。
衣服に通わせていた魔素を切ると闇に染まっていた衣服が姿を現す。そもそも黒色がベースになっているので暗闇の中なら捕捉されにくいと思われる。
ただ、見張っている人達は怪しいゴーグルを掛けている。赤外線ゴーグルというやつかな。
僕達は一気に屋根を伝い家屋に降り立つ。
家屋は普通の家というよりは、大きな――――教会の跡地だ。
少しぼろい扉を開いて中に入ると、中から「誰!?」という女の人の声が聞こえる。
「ここが
「あ、あの! うちにはお金になるものは何もありません! お願いです! 病気の姉弟がいるんです!」
「…………」
両手を開いて必死に訴える彼女は、今日見送った女性だ。
僕が手で合図を送ると、凪が一瞬で移動して彼女を――――抑える。
「んんん! んんんんんん!」
拒むけど、凪のような高レベルの探索者に敵うはずもない。
家屋には広間があり、そこの両脇に座敷があって、多くの子供たちが辛そうに眠っている。
女の子が六人、男の子が三人。計十人で暮らしているのか。
花音の調査通り、彼女達が辛そうにしているのは、顔に何か黒い斑点が無数に広がっていた。
決して喋ることなく、アイコンタクトを合わせると六花が前に出て両手を前に出す。
淡い黄色い光が溢れて、どんどん広がって子供たちを包み込んだ。
その様子を見ていた凪に抑えられた彼女は大粒の涙を流したまま茫然と見つめていた。
六花が放った光はどんどん広がってやがて
彼女達の顔から黒い斑点がどんどん消えていくのが分かる。
数十秒というあっという間で黒い斑点が全て消えて、辛そうにしていた彼女達は安らかな表情に変わった。
凪に合図を送って彼女を子供達に向けて解放してあげると、真っすぐ走って行き子供達の無事を確認した。
これで僕達の出番は終わりだ。その場所を後にする。
「あ、あの! あ、ありがとうございました! 本当に……本当に! ありがとうございました!」
暗い夜の中に彼女の大きな声が響き渡る。
僕達は見張り達から見られながら、周辺を周り始める。
次々に家に勝手に侵入しては苦しそうにしている人達に六花の回復魔法を与える。
一晩中回復に勤しんで、見張りを気にしながらもなんとか家に帰って来れて、眠りについた。
◆
次の日。
「いや~昨日は大変でしたね~」
花音がやれやれ~と言いながらソファで僕を見上げる。
一番活躍したのは言うまでもなく六花だが、花音がいなかったからそもそも無理だったからな。
「花音のおかげで助かったよ。ありがとう」
手を伸ばして花音の頭を撫でてあげる。
「えへへ~いつでも任せてください!」
「六花もお疲れ~」
「あ~い」
昨夜の疲れなのか、ソファでだらけている。
実は昨日やってきた彼女を断った後、気になって梨乃さんに聞いたところ、最近スラム街で流行り病が広がっているらしく、全身に黒い斑点が無数に現れてずっと熱が続く病気らしい。
まだ死者は出ていないが、それを回復させる方法が見つからず、国も手を焼いていると聞いた。
まだ六花の力を周りには明かしていないが、少なくとも光の槍を使っているのは確認しているはずだ。
絵里さん曰く、光の槍という攻撃魔法を連続で撃てる時点で、回復魔法まで使える存在は今まで確認されておらず、六花の髪が金色になったとしても光の槍を使っている姿を捕捉されていて回復魔法の線はなくなっているという。
現状、治せる力を唯一持つのは六花だけ。だからこそ、妹は悲しい表情を浮かべた。
家に帰ってすぐ会議を開いた。
真っ先に六花が「助けたい」と話して、誰一人反対することなく助けるための作戦を練り始めたのだ。
花音の特殊スキルの隠密を使ってスラム街や屋敷周囲を探ってもらった。探知スキルも持っているので花音には適任だった。
その間に僕達は六花が思い出したダークキャットの革を使った衣装を作ったのだ。
今日もいつもの日程をこなして、喫茶店『黒猫』に向かうと、梨乃さんが嬉しそうに「真夜中に現れた黒猫団によって流行り病が全部治りました~!」と教えてくれた。
もちろん言うまでもなく、六花が一番嬉しそうに笑顔を咲かせた。
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