第59話 京都の聖女と魔女

「ダメよ。六花ちゃん。貴方の力はそういうモノに使うための力ではないわ」


 きっぱりと言い跳ねる絵里さんの言葉が響くと、六花の足下で泣き崩れている女性が地面に足を擦り付けてきた。


「あ、あの……」


「そもそも六花ちゃんは回復魔法の使い手ではなく、光攻撃・・魔法の使い手だから貴方の望みのようにはならないし、こうして彼女のスキルを話さないといけなかったのだから、それ相応の罪になるわよ」


 あっという間の出来事に僕は動けないまま、話しが進み始める。


 その時、六花の後ろにある喫茶店『黒猫』の扉が開いて店長と梨乃さんが出て来た。


 状況を把握したようで、梨乃さんが彼女を介護して中に入るように促して、僕達は中に戻ることになった。


 アルカディアに繋がる扉ではなく、休憩場に繋がっている扉を通して中に入る。


 幸い店内には誰もいなくて、すぐに扉を閉めて話し合いになった。




「はあ……全く何ということをしてくれたのかしら……」


 怒りを露にする絵里さんに圧倒されて妹は顔色を伺う。


「絵里さんそこまで怒らなくても」


「あのね。栞人くん。貴方はさっきの行動をもっと重く受けるべきよ」


「どういうことですか?」


 絵里さんが大きく溜息を吐く。


「強い才能を開花させたら、自然と髪の色が変わることは知っているわね。その中でも大事なのはなの。私は赤。火魔法に特化した強い才能だからよ。凪ちゃんも花音ちゃんもそう。そして、六花ちゃんもまたそうなの。彼女が発現した色は金色。以前も少し話したけど、この色は色々問題があるわ」


 実は黒髪で金髪を隠していたのを知った日に、髪色の大切さを聞いている。


 それでも妹に窮屈な生活は嫌だなと思い、色々話し合って黒髪で隠さないようにしてもらってる。


 彼女の才能は光攻撃魔法特化型才能。それが僕達の中での決まりだ。


「あんな人が多い前であんなデタラメ・・・・な噂を流されると困るのよ。もし彼女の一家が回復してみなさいよ。明日から私達の屋敷の前は人だかりができるわよ」


「「!?」」


「人の親切心って時には刃物になりかねないのよ。そもそも彼女達は報酬・・を支払えない。体で払うと言ってもそれは報酬にはならないわ。となると、もし六花ちゃんに回復魔法が使えるとして、それでタダ・・で治してくれる心優しい人だとすぐに噂が広まるわ。そうなれば、この町だけでなく世界中から回復魔法に頼りたい人が殺到するわ」


「そ、そんなこと…………」


「あるのよ。そういう事例が」


「!?」


「京都の聖女と呼ばれた彼女は強い回復魔法を開花させて、それは美しい金色に髪が染まったそうよ。幸い彼女は正義の心があり、困った者全員に無料で回復を施したそうよ。最初はそれ程大人数ではなく彼女の目が届く範囲の人を救っていたそうよ。でも京都の聖女の噂はすぐに広まった。今の医学では治せない病気すら回復魔法なら治せられる。それを知った全国の人々は彼女に押しかけたのよ」


 一度大きく深呼吸した絵里さんは続けた。


「でもね。魔法って無限ではなく、有限なのよ。どんな優れた魔法使いも魔素を使い果たしたら眠らないと回復はしないわ。しかし、連日朝から晩まで彼女を訪れた人は、そんなことなどお構いなしにお願いしたのよ。家の前には長蛇の列ができて、彼女が目を覚ます時間を待ち続けた。それがまた彼女の不眠の原因となってしまったの。もちろん負のスパイラルに入るのは言うまでもないわね。彼女は毎日頑張っていたけれど、とある日の事よ…………」


 両手を握りしめた絵里さんが悔しそうに続けた。


「順番で回復を続けていた彼女の丁度魔素が切れてしまって次の日となった人がいたの。でもその人の限界はその日までで…………残念ながら彼女の魔素が回復する寸前に命を落としてしまった。母親の命が落とした幼い息子は、現れた彼女に罵詈雑言ばりぞうごんを浴びせ、最後には石まで投げてきたそうよ。それでも彼女は毎日人々のために回復魔法を使い続けた。それでも彼女の前で命を落とす人が後を絶たず、やがて彼女は――――――京都の魔女とまで呼ばれるようになったわ。ありもしないお金でしか患者を診ないだの、目の前で死んでいく患者を見て喜んでいるだの…………そうやって彼女はつぶれてしまった。それが回復魔法使いが日本で初めて発見された結末なのよ…………」


 自分の事ではないけど、切なくて悔しくて、涙が溢れた。


 彼女は毎日懸命に自分ができることを精一杯頑張ったはずなのに…………。


 ふと六花を見ると六花もまた涙を流していた。


 彼女の苦しかったことも、彼女の想いも、今の六花なら全て分かっているのだろう。


 六花が才能を開花して才能を国に報告しなかったのは、もう普通の生活ができないと知ったから。もしかしたら……絵里さんが話してくれた話を知っていたのかも知れない。


「私達の妹たちがこのままでは死んでしまうんです! あのままだと……誰も助からない…………何でもしまうから……どうか……助けてください…………」


 それと共に、僕達に助けを求めた彼女の想いを無視するのも辛いと感じた。

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