第58話 ストーカー?

 二十一層に入る。


 二十一層は下層の廃墟から一気に変わり、今度は建物が美しく並んでいた。まるで人が住んでいるかのような景色。道路も綺麗に整備されていて、壊れている個所は全くない。一つ気になるのは、自然が全く感じられないことだ。


 人工物で溢れている印象を受ける。


 今日はここで狩りをする予定ではないので、前回同様魔法陣から外に出た。




 外は相変わらず多くの人がクラウンダンジョンに出入りしている。各階層にこれだけ多くの人がいるのかと驚くけど、意外と多かったりするのだな。


 そんな中、とある存在の視線を感じる。


 事前にみんなと打ち合わせていた通り、最初は源氏さんのお店に行っていつもの魔石を渡す。


 相変わらず源氏さんは素材のための魔石を嬉しそうに受け取ってくれる。


 源氏さんのお店を後にして、今度は喫茶店『黒猫』に向かう。


 いつもの席に案内されて、みんな好きな食事を頼んでいつも通り、僕だけでアルカディアに向かい魔石を売る。今日は二日前同様に上層階に向かう間に倒した魔物の分しか取っていないから、あまり多くない。


 数が少ないと受付嬢の安堵した表情に苦笑いがこぼれた。


 上に戻りいつもの食事を進める。


「それにしても、諦めないわね。あの子・・・


 絵里さんが言うあの子というのは、今朝僕達を追って来た女の子だ。


「そもそも僕達を追ってくる理由が分からないですね。心当たりはありませんか? 絵里さん」


「私をトラブルメーカーみたいに言わないでくれる? トラブルメーカーなら私ではなくて――――」


 みんなの視線が一人に集中する。


「ひぇ!? か、花音は何もしていませんよ? そもそも花音が誰かに声を掛けてトラブルを起こすなんて、する訳ないじゃないですか~」


 そ、そうか…………でもそれを自分で堂々と言うのはあまり良くないと思うな。


「となると――――六花だな」


「え!? わ、私?」


「彼女が現れたのは昨日と今日。丁度六花が髪を解放してからだからね。多分六花だね」


「え~そもそも私はにぃとずっと一緒にいるし、心当たり何てないよ?」


 そう言われてみればそうだな。


「じゃあ、凪?」


「ケントくん? 私も最近はずっと一緒だし、昨日だって私が出かける前から彼女は見張っていたからね」


「それもそうだな……となりと理由が分からないな」


「私に思い当たる節があるよ?」


 凪が珍しく不敵な笑みを浮かべて僕をじーっと見つめる。


「それはね~――――――ケントくんに一目惚れしてるのかも?」


「「ぷふっ!?」」


 妹と同じタイミングで吹き出してしまった。


 顔が熱くなるのを感じる。


「最近のケントくんは凄くカッコよくなってるし、前みたいにやせ細ってなくて、最近人気の細マッチョだと思うから。きっとケントくんのファンなのかも知れないね」


「そ、そ、そんなことないよ! ま、ま、まさかね…………」


 そもそも僕には六花がいる!


 だ、誰かに好意を向けられても、守らなければいけない人がいるんだ!


 ちゃんと断ろう。僕には……君を思いに応える事ができないと。


 食事を終えて、僕は満を持してお店を後にした。


 隠れているつもりが、気配がバレバレだ。というのも僕のレベルも随分と上がったからだと思う。


 彼女が隠れている裏路地の前に立った。


「そこにいるのは分かっている」


「!?」


 裏路地からこちらを見つめる視線が一気に感じられる。


 彼女は諦めたように前に出て来た。


 少し震えながら、両手を合わせてゆっくりと出て来る。


「すまないが僕――――」


 そして彼女が走り、僕を――――――通り抜けた。


「あ、あのっ!」


 えっ?


 後ろに振り向くと、彼女が手を握っていたのは――――


「えっ? 私?」


 可愛らしい目を大きく見開いて驚く妹だった。


「し、失礼だとは思います! 日本人の方で金髪ということは、きっと強い回復魔法の力を持っている方だとお見受けしました! ど、どうか……私たちを助けてくださいっ!」


 必死に訴える彼女に、隣で見守っていた絵里さんが彼女が握っていた手を叩いて離させる。


「いい加減にして頂戴。人の力を勝手に見誤るのもそうだし、探索者に力を乞う・・のも失礼よ」


「も、もちろん知っております! それでも……それでもっ! な、何でもします! 毎日掃除でも草むしりでも私にできることなら何でもします! 家族を……みんなを助けてください……」


 大きな涙を流しながら崩れた彼女は、


「そうでないと……みんな……死んでしまうんです…………お願い……います」


 彼女の悲痛な声が周囲に響き渡った。

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