第57話 メンバーの重要性
次の日。
リビングに降りると、みんなが黒い衣服を着こんでいる。黒龍素材で作られた防具だ。
まだ屋敷の中だというのに、みんなの表情はやる気に満ちている。
屋敷を後にしてダンジョンに向かった。
「――――ヘイスト! にぃ? このまま走っていく?」
「そうだね。一応走って行こうか」
やっぱり妹も気づいているようで
いつも通り走って二階に向かった。
「あそこに隠れて待とうか」
所々にある平原にある瓦礫の後ろに隠れる。
少し待っていると一階からの入口に息が上がっている女性が入って来た。
見るからに女性だと分かる胸の膨らみがあるのだが、髪型も衣服もボロボロで俺達が住んでいた『スラム街』と呼ばれている所でよく見かける人に見える。
「やっぱり私達を追っているみたいだね。屋敷からだったよね?」
「そうだな。昨日も一瞬だけ気配を感じたけど、気配を断つスキルでも持っているのかな?」
「ありますね。私の『探知』スキルに引っ掛かってしまうので、まだ弱いですが隠密系のスキルを
花音がそういうなら間違いないなさそうだ。
周りをキョロキョロと見回した彼女は肩を下して一階に降りて行った。
「さて、気にしても仕方がないので、今日はこのまま二十一階に向かうとしようか」
「「「「は~い!」」」」
そして、僕達はいつも通り、二階から一気に走り抜けて十階のゴブリンジェネラルを倒し、十階から十九階に行き二十階に入った。
「今日は珍しくパーティーがいるね」
二十階に入ってすぐに戦う音が聞こえてきたので、入口の影から中の様子を覗く。
自分達以外のパーティーがグランドリッチと戦っているとこは初めて見た。
メンバーは全員で六人。
白い鎧を着た剣士がグランドリッチの注意を引いており、後ろから魔法使い二人による魔法が炸裂した。
グランドリッチの上部に爆風を当ててグランドリッチを物理的に下降させる。
その機を逃さないように長い槍を持った女性のスキルと思われる突き攻撃がグランドリッチに直撃する。
当たった所に雷が発生するのは雷属性を発生させるスキルだからだ。
吹き飛んで地面に倒れたグランドリッチはバチバチと音を鳴らしてびくびくする。
雷属性ならではの麻痺効果か。見た
すぐに剣士二人による攻撃と槍士の攻撃でフィニッシュを決めてグランドリッチがその場から消えた。
とても手慣れた感じがして初めて倒したとは思えない。
「恐らくもっと上位層の人達だね。多分装備の試し斬りじゃないかな」
「試し切り?」
僕の疑問を見抜いたように凪が話した。
「ケントくんの武器はマスターに作ってもらったでしょう? でもね。それはとても特別なことなの。マスターに武器を作ってもらえる人なんて数えるくらいしかいないよ。となるとオーダーメイドではなく既存商品か、はたまた駆け出し鍛冶屋のオーダーメイド品を購入しなければならないよね? 手に馴染んでない武器を実戦で使うのは命取りだから、ああやって手に馴染むまで下層で試し斬りをするのさ」
凪の答えに納得する。
確かに源氏さんが作ってくれた武器は、その場で握っただけで長年使い込んだ武器のように手に馴染んでいたし、初めての試し斬りでも一寸の違和感もなく、まるで自分の体の一部かのような使い心地の良さだった。
僕にとってはその経験しかなかったから当たり前だと勘違いするけど、みんなが得られるものではない。さらに言うなら凪や六花、花音、絵里さんとパーティーを組んでいるのも今では当たり前だけど、決して当たり前な出来事ではない。
うちのパーティーメンバーが揃ってから、装備まで揃った後のバランスは非常に良いと言える。まだ足りないが黒龍盾による前衛を僕が担って、凪の速度を活かした迎撃、花音の多彩なスキルと遠距離攻撃、六花の回復魔法や補助魔法に光の槍も高い火力を誇り、絵里さんの強力な魔法で殲滅もできる。
そう思うと隙のないパーティーメンバー構成になっている。
それに比べたら、彼らのパーティーに六花のような補助魔法や回復魔法が使える人は見当たらないし、花音のように弓を担いでいる人も見当たらない。となるとバランス良くパーティーを組むというのもハードルが高いと分かる。
今一度、メンバーになってくれたみんなには感謝だ。僕にできることを頑張って行こうと思う。
戦っていたパーティーはグランドリッチの魔石を採取せず次の階層に向かった。
放棄した時点でドロップ品は捨てたのも一緒らしいから、こっそりグランドリッチの魔石を採取して戻った。
「ん? みんなどうしたの?」
何かニヤニヤして僕を見つめる。
「ケントくんって私たちがパーティーを組んでくれてありがたいと思ってるでしょう?」
「へ? な、何でバレた!?」
心の声でも漏れていた!?
するとみんな顔を合わせて「やっぱりね~」と言い合い始めた。
「ケントくん。君は十分に凄い。私達では魔石は取り出せないよ。君の数多い長所の中でもそのたった一つだけでも凄いし、寧ろ組んでくれてこちらこそありがとうだからね?」
こう目を真っすぐ見つめられてそう伝えられると嬉しいというか……恥ずかしいというか……ますます僕は素晴らしい仲間に出会えたんだと思えた。
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