第53話 いつもの朝食
「六花~」
「あい~?」
朝の眠さに目を擦りながら、洗面台に並んでいる妹を呼ぶと、眠そうな可愛らしい声で返事が返って来た。
「今日用事ある~?」
歯ブラシを口に咥える。
「らいよ~」
「ほうか~」
もぐもぐと歯ブラシで懸命に歯を磨く。
外には優しいパンの匂いが充満しており、美味しい朝食を想像するとすぐにぐ~と腹の虫が音を響かせる。
「ほうしたの~?」
「ふんとね~ひょうは~ひゅくを~」
「ひょ~?」
「ひゅく~」
「う~ん………………ええええ!?」
妹よ。可愛い顔が台無しだぞ。
落ちた歯磨き粉をタオルで拭き取りながら、口をゆすぐ。
「さて。美味しそうな朝食を食べたら早速行こうぜ~」
「に、にぃ!?」
汚れたタオルを洗濯機の中に入れる。シェアハウスにも住んでいる人も沢山増えて来て、洗濯機も常に動いていたりする。
僕だけ男で、女性が四人いるけど、みんな僕の服と一緒に洗ってくれるのは助かる。
服も妹の浄化魔法でいいんだけど、こういうのは気持ちだからって凪たちが当番でやってくれている。
洗濯に関しては僕は全く手を付けていない。その理由も何となく分かっているので、申し訳ないけど女性組にお願いしている。
そろそろうちのシェアハウスにも男が増えて欲しいけど、そうなると妹の朝の姿を男に見せてしまう点があるからちょっと遠慮したい気持ちにもなる。
「ケントくんが変な表情で黄昏ている?」
「あ~本当だ~栞人さんはきっと女の子のことを考えているんですね」
凪と花音が美味しそうなパンやスープを持ってきてくれた。
いや、確かにボーっとこれからを考えていたけども!
「ん……確かに女の子のことを考えていたな」
「えっ!? もしかして梨乃さん?」
梨乃さんか……いつもメイド服で元気いっぱいの笑顔で……胸は大人らしい…………。
「って! 何を想像させるんだ! 違う違う。六花のこと」
「六花ちゃん? あ、おはよう~六花ちゃん」
「私が何かしたの?」
顔を洗ってシャキッとなった妹がやってくる。
「ケントくんが六花ちゃんのこと可愛いってさ」
「へ?」
「そうだな。六花は世界一可愛いぞ。当然のことだ」
「ふふっ。ケントくんはぶれないね」
僕の妹への愛は世界最強である。
朝食運びを手伝おうかなと思ったら、凪から先回りして肩を押されてそのまま座らされた。
「今日の当番は私たちだから。二人は待ってなさい」
「「は~い」」
いつも洗濯機を担当してもらってるんだから食事くらい運んだり洗ったりしたいけど、そういうのも基本的に女性陣が殆どする。
さらに掃除に関しては手分けしたいと思ったのに、花音が全て自分がやりたいとわがままを言って、結局は花音がシェアハウスの掃除を担当している。
彼女曰く、家に対してかなりの潔癖症があるらしくて、他人に任せられないから気にしないで欲しいという。スカウターを手に入れてからは、高い場所はスカウターを使って効率よく掃除をしてくれている。
みんなが朝食を運んでくれて食べ始める。
料理は圧倒的に凪と六花が上手い。凪は洋食、六花は和食が得意で、逆は不思議と不得意だったりする。同じ料理でも違いが出るのは僕にとって不思議なことだ。
「ん? 肉まん? 珍しいね。――――――美味しい!?」
「ふふっ。美味しい?」
「いつもとは少し違うけど、味付けも美味しくていつもと違う変化球な感じもして僕は凄く好きかな。毎日でも食べられそう」
絵里さんが俯く。
「それは絵里さんが作ってくれたんだよ~」
「絵里さんが!?」
「お料理はそんなに得意じゃないけど……中華をちょっとだけ…………」
「これでちょっとだけ!? 凄い美味しいですよ絵里さん。美味しい朝食をありがとう」
「も、もう! ほ、褒めすぎだよ! 凪ちゃんと六花ちゃんに全く敵わないから…………」
絵里さんの隣で肉まんを頬張る花音が口を開く。
「それを言ったら、花音はお料理は全くできませんからね~」
自虐ネタだったか……でもそれを言うなら僕もだな。できないというか、基本的には妹がやってきたからやったことがないけど、練習すれば花音よりは上手い自信がある。
「それにしても絵里さんってここまで料理ができるなら、どうしてうちに?」
「何を言っているのよ……少し料理ができるからって凪ちゃんや六花ちゃんのようにプロ顔負けの料理なんて、普通できないわよ? 毎日あの食事ができるって凄いことだからね!?」
食いしん坊の絵里さんがそう言うとものすごく説得力があるな。
そもそも、僕は六花の料理しか食べてこなかったけど、スーパーで売っている普通のお惣菜を食べても微妙だったのは覚えている。そう考えると六花の料理って凄いんだな。
可愛い。愛嬌がある。可愛い。料理が上手い。可愛い。優しい。可愛い。天使。
うちの妹って色んな属性を持っているんだな。
「あれ……!? もしかして六花って実はとんでもないスペックなのでは!?」
「いまさら!?」
みんなの笑う声が部屋に響いた。
その頃、栞人たちが朝食を食べているシェアハウスを遠くから見つめている人が一人いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます