第50話 国からの先行投資

 二十階でのグランドリッチと戦ってみて、その強さをしっかり体験したのでダンジョンを後にして対策を練ろうと思う。


 ダンジョンを出て真っ先に向かうのは源氏さんのお店だ。


「ほぉ。グランドリッチに挑戦するのか」


「そうなんです。それで源氏さんにお願いがあるのですが、魔法に対する盾を作っては頂けませんか?」


「いいだろう。ただし――――」


「グランドリッチの魔石は真っ先に持ってきます」


「乗った! 三日後に来い」


「ありがとうございます!」


 無事源氏さんとの交渉を終えてFランク魔石を売るために久しぶりに喫茶店『黒猫』にやってきた。


 久しぶりに会う梨乃さんが可愛らしく膨れて「最近全然来てくれないんですね」と怒った。


「最近色々と大変で……それより紹介します。新しいメンバーになった絵里さんです」


「初めまして。喫茶『黒猫』の店員の梨乃です」


「絵里です。よろしく」


 いつもの席に案内してもらい、すぐに食べ物を注文する。


 料理ができる間、絵里さんが入れないので、僕一人で地下にあるアルカディアに入っていく。


 絵里さんは入れるお店が違うので、まだ梨乃さん達に認められたわけじゃないので、こちらの入口からは入れないようだ。


 結局は同じ場所に辿り着くんだから変わらないと思われるけど、入口はそれぞれのお店のオーナーが責任を持って推薦しているからこそ、オーナーが認めた人だけしか通れないように決めているそうだ。


 久しぶりにアルカディアに着くと、なぜか受付嬢の表情が引き攣っていた。


「い、いらっしゃいませ…………」


「魔石の買取をお願いします」


「かしこまりました……あちらに……お願いしてもよろしいでしょうか」


 受付嬢さんが指差す場所に大きな籠があって、そちらにFランク魔石を大量に入れていく。


 籠はいくつも並んでいて、まるでここに魔石を入れてくれと言っているようだ。


「この籠は栞人様専用の籠です…………」


「ええええ!?」


「いつも魔石の量がとんでもなくて……これからこの籠いっぱいでいくらみたいな計算でお願いしてもよろしいでしょうか?」


 前来た時に魔石を全部数えるのに大変そうだったからな。


 僕は出してる身だから数を知っているけど、買取する以上、それを数えないといけないからな。


 今日は一千個以上持ってきているので、数えるとなると大変だったと思う。


「もちろん構いませんよ」


「籠いっぱいで二百個くらい入るはずなので、箱一つで二百個分の買取とさせてください」


「分かりました」


 籠にどんどん詰めていく。


 用意されていた五つの籠が満タンになった時、受付嬢が絶望的な表情で「まだ出しますか?」みたいな表情で僕を見つめて来る。


「今日は五つまでにします」


「今日…………」


 天を仰ぐ受付嬢さんが少し可哀想に思えた。


 籠一つで四十万円で買い取ってもらうことになった。つまり今日だけで二百万円となった。


「ここってモンスターカードも買ってくれるんですよね?」


「そうですね。何か売られますか?」


「ブラックハイエナのモンスターカードを買ってくれたりしますか?」


「もちろん買い取らせて頂きます。現在の相場は――――――、一枚八十万円ですね。こちらで買い取りですと一枚九十万円で買い取らせて頂きます」


「分かりました。次来るときに拾った分を持ってきます」


「拾った……分?」


 これでモンスターカードも収入になるなら色々助かる気がする。


 そのままアルカディアにあるシェアハウス管理部門で家賃を支払う。家賃の支払い方は代表である僕が払えば、そこに何人が住んでいても問題ないようだ。ちなみにアルカディアに関係しない人でも問題ないそうだが、その場合はアルカディアのことは言ってはいけないそうだ。


 シェアハウスは月十万円と高いと思っていたけど、この収入なら全く苦労しない気がする。半年分の六十万円分を先払いしておいた。


 喫茶店に戻ると料理が運ばれていて、みんなが食事をしていた。


「遅かったね?」


「どうやら魔石が多すぎて数えるのが大変だったみたい。これから籠での買取でお願いされてしまったよ」


「あはは~ケントくんらしいね。魔石を籠売りできるのはケントくんだけだよ」


「本当ですよ! これはいつも魔石を売ってくださるケントさんへのサービスです」


 と言いながら渡された皿には食べ物ではなく封筒が乗せられていた。梨乃さんは人差し指を唇に当てて秘密にするように促してくれた。


 恐る恐る封筒を開けてみたら中から一枚のモンスターカードが出て来た。


「ラッキーラビット!? す、凄いモンスターカードを貰えたね」


「そうなのか?」


「確かに今のケントくんなら十分買える範囲ではあるけど、タダで貰える額のカードではないと思う。何よりレアカードだし」


「レア!? い、いいのだろうか……?」


「それくらい国が魔石を欲している証拠だね。魔石が増えれば増える程、多くの人達が助かるからね。せっかくだから貰っておいた方がいいかもね」


「そうだな。感謝するとしよう」


 帰り、みんなで一緒にマスターと梨乃さんに感謝を伝える。


 の者からの投資ということらしい。


 その日から三日間、毎日グランドダンジョン十六階に向かい、ブラックハイエナを呼びよせる戦法で狩りを繰り返しながら、グランドリッチとどう戦うか話し合った。



---------------------

 『ラッキーラビット』

 あらゆる事象の運気が上昇する。

---------------------

 『ラッキーラビット+』

 ノーマルモンスターカードのドロップ率+1%(※同カードの効果は重複しない)

---------------------



 頂いた『ラッキーラビット』も+になることでとんでもない効果をもたらしてくれたので、僕のステータスが少し下がってしまうが『ラッキーラビット+』を装着した。


 そして、三日が経過し、源氏さんのお店にやってきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る