第45話 増える借金

 相変わらず重々しい雰囲気の源氏さんのお店に入っていく。


 ただ、毎日訪れているので最初よりはだいぶマシになってきた。


「マスタ~。また来たよ~」


「おう。小娘っ子。ほら、食べるか?」


「食べるっ~!」


 真っ先に挨拶する妹に、手のひらサイズの袋に入ったお菓子をくれる源氏さん。


 最近仲良くなって源氏さんと良く喋るようになっている。


 ゴブリンジェネラルの魔石も僕から妹に、妹から源氏さんに手渡されるくらいには仲良くなっている気がする。


「今日は小僧達に少し用事がある」


「僕達にですか?」


 そう言ってカウンターの裏扉に入ってすぐに出て来た。


 そして、次々カウンターに――――――衣服が並んだ。


「わあ~! マスタ~これどうしたの?」


「おうよ。小僧はともかく小娘っ子の装備・・があまりにも貧弱過ぎてな」


 ん? 装備が……貧弱?


「そもそも探索者やってるのにどうしてそんな身軽・・なのかと思っていたが、それなりに実力があったとは思うが、命が掛かっている探索者に最も大切なものは自分の身を守ってくれる防具だ」


 ふと僕達が着込んでいる服を見る。


 凪や花音の服装もそう変わらないと思うけど……珍しいのは絵里さんがローブを着込んでいるくらいか。


「私のローブもちゃんと防具・・も。ただし、魔力が上昇する防具だけどね」


「なるほど…………凪と花音も?」


「私は速さで戦うタイプだからできるだけ身軽にしているの。防具って足が遅くなるからね」


「花音は遠距離攻撃するから防具はいらないのです! 周囲を探知するスキルも持っているからそんなヘマはしないのです!」


 そ、そうか…………。


「実力あるパーティーだからこそだと思うが、防具は持っていることに越したことはない。五人分だから少し時間はかかったが、パーティーメンバーらしくデザインや色合いも似た感じにしておいたぞ」


「おおお!」


「可愛い~!」


 許可もなく目の前の衣服を持ち上げた妹が嬉しそうに声をあげる。


 僕も前に置かれた服に手を掛けて確認してみる。


 材質は内側はサラサラしてとても着心地が良さげだが、外は不思議と硬い感触で内側からは簡単に曲げられるのに、外側からは曲がらない不思議な材質だ。


「マスター? こんなに高価な物貰ってもいいの?」


 服を確認した凪がマスターに疑問を投げかける。


「小僧のパーティーにはこれからも活躍してもらいたい。理由は分からないが毎日ゴブリンジェネラルの魔石を持ってこれるパーティーは俺が知っている範囲ではそう多くない。いや。毎日それだけで手一杯になるはずが、小僧のパーティーはさらに上まで目指しているんだろう?」


「そうね。今は十六階まで進んでるよ」


「つまり、二十階にも行くという事。小僧たちの力は知らないがここまで綺麗に魔石を持ってこれるんだ。二十階のフロアボスの魔石だって夢じゃないだろ? これはある意味先行投資のようなものだ。小僧の剣もまさにそうさ」


「そうだったね。ケントくんの剣がたった一億円ぽっち・・・な訳もないからね」


 えっ!? 黒龍漆聖刀って一億円よりも高いのか!? そもそも単位が非現実的でよく分からないよ!?


「がーはははっ。でもあれは製作に一億掛かっただけだ。元値を取ってるだけから気にするな」


「材料費だけ……いつもありがとう。マスター」


「だーから。俺も善意でやってるんじゃねぇ。赤いのが認めた人だからな。只者じゃないと先行投資してみたら大当たりだったわけじゃ。だから防具も材料費だけで五人分一億円で十分だ」


「ありがとう! マスター!」


 …………数か月前までスーパーで千円のお肉が高くて買えない生活を送っていた僕にとって、そもそも万という単位でもめまいがするのに、単位がもう一つ上がってしまって、億という単位が飛び交う現実にめまいがしてくる。


「ケントくん? どうしたの?」


「い、いや…………まさか借金二億円なんて…………」


「ふふっ。ケントくんならすぐ貯まるよ~もっと自信を持ってね? だって毎日百万円は貯まるし、一年も掛からないよ?」


「そう言われるとちょっと現実味を帯びて来たけど……そっか…………魔石だけでそんなに稼げてはいるもんな……でもこれは僕のお金じゃないというか」


 すると凪が一歩近づいて来て、人差し指を立てる。


「前にも言ったでしょう? 生活ができるなら報酬とかいらないって。それにこれはパーティーのために使うお金だからケントくんが気にすることないよ? 全部返し終わったら、みんなのために使ってくれるといいと思う!」


「そうよ。私も毎日美味しいご飯さえ出て来るなら文句はないわ。何より、このパーティーには未来・・があるからね」


「絵里さんまで…………分かりました! 頑張って借金を返すよ! 源氏さん。素敵な武器と防具、本当にありがとうございます!」


「おうよ。小僧のこれからの活躍に期待しているぞ。何か珍しいモノを手に入れたら持ってこい。だからといって無理はしなくていいからな」


「はいっ!」


 いかつい顔と言動とは裏腹に源氏さんからは暖かい心が伝わってくる。


 それに源氏さんは善意で僕達を助けてくれる訳じゃないことも心地よい。


 お互いにお互いがメリットがあるからこそ、仕事のパートナーとして同等にいられるということだ。


 凪も善意で僕達を助けてくれたと勘違いしていたけど、きっと凪も先行投資だったんだろうなと思う。


 だからこそ、みんなと対等になれるように明日からも頑張って行こう。


 帰り道、新しい防具をもらいご機嫌になった妹の後ろ姿を見て、とても幸せな気分になった。

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