第44話 ヘイスト
「わ~い! 凄く速いよ~!」
目の前を走る妹が嬉しそうに声をあげる。
妹が覚えた新しい魔法『ヘイスト』は、全ての行動が二倍速になるというとんでもないスキルだ。
もちろん言うまでもなく走る速度が二倍になっている。
走る速度というのは、ステータス『素早さ』が大きく関係している。
数値が二倍になると二倍で走れるわけではない。体の脂肪の量でも変わってくるらしいので基本となる素早さ500を基準に、素早さ500の二倍に走るためには素早さが4000を越えなければならなかったりする。
僕はそもそもステータスの数値が低いので最高速は大して早くない。が、凪のように素早さのステータスが高い人はゆうに500を超えているはずだ。だから素早さのステータスを底上げしても動ける速度が上がる量は低い。
だからこそ、倍率で上昇する能力は非常に重宝される。六花が
そんな中、妹が覚えた新しい魔法『ヘイスト』は全ての行動速度を強制的に二倍にする魔法だ。
凪は自分の最高速を試してみたいと全速力で走ってみせたが、僕では目で追うのがやっとだった。本気の凪ってやっぱり凄いんだな。
ちなみに効果は何も走る速度と凪の最高速度だけではない。
「花音姉!」
「あい~!」
いつもの美しいフォームから放たれる矢。撃つまでの速度も凄まじく速くなっているが、まさかの恩恵は矢にまで及んでいる。
飛んでいく矢が倍速化して飛んでいき、トカゲを貫通した。
そこでもう一つ加速化の恩恵がある。
それは単純に動かせる速度が倍に増えることで、加速による追加効果があるのだ。
例えば、花音が放つ矢は、今までならトカゲの体を貫通できない。でも矢の速度も二倍に増えているので貫通することができる。
これは速度による『貫通効果』が上昇するからだ。
それにもっと言うなら僕にも恩恵があって、剣で
十三階に入ると、建物の中からレッサースパイダーが三体まとまって飛んでくる。
絵里さんを守るために飛んでくる蜘蛛を斬り抜ける。
空中ですら速度上昇によって自由に動けられる気がする。
まるで剣が通る道が見えるように剣を流すだけで、蜘蛛を空中で撃ち落とせた。
直後に僕に向かってレッサースパイダーが六体飛んでくる。
「――――ファイアバレット!」
すぐに小さな炎の弾丸が数十発飛んでいくと蜘蛛六体を撃ち落とした。
「凄いわね。詠唱時間まで倍速化か~六花ちゃんって本当に凄いわね」
「ええ。自慢の妹です」
「ふふっ。君も十分凄いわよ。さあ、今日は上を目指すんでしょう?」
「ですね。みんな! このまま上に向かうぞ!」
「「「お~!」」」
三人娘が可愛らしく声をあげた。
そして、僕は初めての十四階に足を踏み入れた。
十四階に入ると、今度現れる魔物は少し毛色が変わり、四足歩行で歩き鋭い目つきの大型の犬のような魔物。真っ黒い肌で毛は全くなくて、少しやせ細った姿はハイエナと呼ぶに相応しい。
「ブラックハイエナ。群れで動くから吠えられるととても厄介な魔物よ。だからできるかぎり一撃で仕留めた方がいいわ」
「「「「了解!」」」」
花音の矢によってハイエナを一撃で仕留める。
歩き回りながらハイエナを倒しながら進む。
「ケントくん? どうしたの?」
「…………ちょっとハイエナを呼んでみよう」
「呼んでみようって……まさか吠えさせるってこと?」
「そう」
「ふふっ。任せるよ」
ほかのみんなも了承してくれて近くのハイエナを一発蹴り飛ばしてみた。
飛ばされたハイエナは起き上がるとすぐにその場で吠え始めた。
ハイエナの声ってキャンキャンと鳴くのか…………。
すぐに周囲の建物や物陰からブラックハイエナたちが現れ始めた。
ざっと十体ってところか。
「意外と少ないね?」
「上の階にいくと凄いよ?」
「そうか。じゃあ――――ここから、ガンガン呼んで倒してみるか!」
「「「「は~い!」」」」
ブラックハイエナを蹴り飛ばして周囲のハイエナたちを呼び寄せて倒すを繰り返す。
下層のゴブリンと魔石は同じだが、ここ最近で一番の効率の高さを感じる。
それに十四階というだけあって、レベルの上昇まで見込めるのは非常にありがたい。
まだ凪たちのレベルには追いつかないけど、ゆっくり一歩ずつ進んで行けたらなと思う。
それから暫くの間はブラックハイエナ狩りを続けて十四階から十六階に進んだ。
十四階から十六階は同じブラックハイエナばかりだったが、その数が下の階よりも倍に増えていたので、一気に倒せる広範囲攻撃が猛威を振るい絵里さんの爆発魔法が何度も見れた。
ハイエナ狩りを続けて四日目。
今日の狩りを終えて食事の前に源氏さんのお店にゴブリンジェネラルの魔石を納品するために向かった。
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