第39話 三十億円

 絵里さんが急遽パーティーに加入する事になって、僕の力を伝えた。


「う、嘘よ……そ、そんな凄い才能……聞いたことも…………」


 絵里さんの両肩に凪と花音が手を挙げて、同意するかのように首を縦に振る。


「それにケントくんにはもう一つとんでもないスキルがあって…………ごにょごにょ」


 今度は六花が近づいて、遠い目をして「うんうん……本当に……うちのにぃ凄いんだから……」と話した。


 こうして無事に(?)パーティーメンバーも増えたところで、フロアボスのカードをどうするか相談した。




「なるほど……つまり、選択肢は、ゴブリンジェネラルカードを通常の二枚を獲得するのか、特別なものにして獲得するのか、獲得しない代わりにドロップ率を上げるか……だよね?」


「簡単に言うとそうなります。二枚獲得も魅力ですが、将来を考えて二枚獲得ならドロップ率かなと考えてます」


「つまり二つね…………私的には特別な方が良さそうなんだけどね」


 絵里さんはアップグレード品にするに一票か。


「でもね。私はまだドロップ率を上げるメリットというか、実績を目にしていないので、できれば今回の意見は全部無視して欲しいわ」


 僕もドロップ率を直接目にするまでは不安だったし、現実味がなかったのだから、絵里さんの気持ちはよくわかる。


「私はドロップ率かな~」


「ん~私もかな~?」


 二人ともドロップ率の方だ。


「理由を聞いてもいい?」


「ノーマルのモンスターカードのドロップ率上昇で恩恵があれだけ大きかったから。ケントくんが以前言っていた通り、今はノーマルカードのドロップ率しか上がっていないはずだから、ゴブリンジェネラルならレアカードだし、ドロップ率を上げておいた方が将来を考えたらいいと思う」


「えっと、私はあまり難しい事はわからないけど、ドロップ率をあげたら、ジェネラルをまた倒したらすぐ手に入るんだし、ドロップ率でいいじゃん~ってならない?」


 六花のまた倒したらいいじゃん? という当たり前のような話し方にクスっと笑みがこぼれる。


「そうだな。やっぱり、僕の能力を最大限に活かすためにもドロップ率を最大にするのを目標にしたい。それに実は気になる事もあったから、いつかそれも検証したいし、今回はひとまず、ドロップ率にするよ」


 こうして、初めて獲得したレアカードのゴブリンジェネラルカードはドロップ率に変更された。



【スキル『カード』の特典により、ゴブリンジェネラルカードを使用し、レアモンスターカードドロップ確率を0.001%から0.1%に上昇させました。】



「やっぱりレアモンスターカードらしい。でもこれで最初の最低限度に引き上げられたから、ドロップ率がぐっと上がったのは助かるかな。そういや、凪。ゴブリンジェネラルカードっていくらくらいするの?」


「ん~確か――――――三十億円くらいだった気がするかな?」


 …………。


 …………。


「あ~そっか~三十円ね! 凪が珍しく冗談を…………えええええええええええ!?」「ええええ!?」


 同じタイミングで妹も声をあげた。


「さ、ささささささ、三十億!?」


「フロアボスのカードの中では一番安いカードね」


「一番安い!? ちょ、ちょっと待ってくれ! ほ、本当にそんな高価……?」


「そうよ? だって、フロアボスだもの。一回向かうのに時間がかかる上に一時間に一体しか出現しないからね? 寧ろお金では誰も売らないかも?」


「…………」


 僕は文字通り、膝から崩れ落ちた。




 ◆




「た、頼む! 落ちてくれええええええ!」


 そして、目の前にゴブリンジェネラルが倒れた。


 …………。


「落ちないかあああああ」


 ダメもとで二度目のゴブリンジェネラルを倒してみたけど、やはり0.1%ではそう簡単に落ちるはずもなく。


 三十億円というとんでもない大金を聞いて、居ても立っても居られなくてやってきたのに、やっぱり落ちないか……これなら二枚獲得していれば六十億円…………。


「ふふっ。ケントくんも初めての大金には目がくらむのね~」


「…………それだけ大金があれば、六花をもう戦わせなくても済みそうだったから」


「!? にぃ! 私はモンスターカードを売るのは反対かな~!」


 それから妹が色々不思議な理由を並べたが、結局は僕も二度と戦わないならいいけど、それ以外は一緒にいたいとのことだ。


「あ~そういやさ。六花」


「うん?」


「僕に何か隠してない?」


「えっ? 隠してないよ?」


「髪の事とか、髪の事とか? 髪の事とかさ」


「ひぇっ!? え、え~っと、実は昨日少しだけ前髪を切った……かな?」


「いや、一ミリも切ってないじゃん」


「ひぇ!? わ、分かるの!?」


「当然だろう。僕が妹の身に起きた出来事を見抜けないはずもない。と思ってたけど、髪は気づかんかったわ」


 花音の言い分と、強い才能を開花した人は髪の色が変わることから、あれだけ光の槍を連発しながら珍しい回復魔法まで使える六花が普通なはずがない。


「…………にぃ? 嫌いにならない?」


「そんなバカな。僕は六花が例え、体重二百キロになっても嫌いにはならないよ。少しだけ幻滅するかも知れないけど」


「え~!? それは私自身が嫌だ!」


 みんなで笑い声をあげた。


 そして、妹は恥ずかしそうに髪の色をの色に戻した。


 僕が知っている妹のはずなのに、あまりにも美しい金色の髪は、黄金よりも美しく、太陽よりも美しい。


「キレイ…………」


「へ!? えへへ……髪の色が変わったら、にぃの妹じゃいられないと思ってて…………」


「そんなはずないだろう。僕は六花の兄で、六花は僕の妹だよ。永遠に」


 髪色が変わっても、うちの妹の笑顔は最高に可愛かった。

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