第38話 魔法陣

 ――【スキル『カード』から生まれたカードには特典が付与されます。以下の特典から選んでください】


 僕の震える手がモンスターカードに触れると、いつも通りの文言が流れる。


 いつもなら選ぶのはドロップ確率上昇だ。


 しかし、一旦落ち着いて本当にドロップ確率上昇にしていいのかを考える。


「ケントくん!」


「!? な、凪…………」


「ふふっ。驚きすぎて凄い表情になっているよ? は~い。深呼吸をしてみよう~」


 凪がわざとらしく両手を大きく開いて深呼吸を始める。


 僕も彼女と同じく両手を開いて息を深く吸う。


 体中に冷たい空気が巡り、固まっていた頭がスッキリする。


「ありがとう。凪」


「ううん。私はケントくんの判断ならどんな判断でも良いと思うよ?」


 そう言って笑顔を見せてくれる。


 それだけで何でも許されそうで、少し嬉しくなる。


「こう見えて、私って見る目あると思うんだよね~だからケントくんは自分が信じた道を歩いていいよ? 六花ちゃんも花音ちゃんも私も信じているからこそ、こうして一緒にいるんだからね」


 両手を腰の後ろに向けて、少し頬が赤くなった凪はまるでダンジョンに舞い降りた銀の天使のように美しかった。


 ひとまず落ち着いたのでスキル『カード』をもう一度確認する。


 これってこのまま保留状態にできるのか?



 ――【スキル『カード』の使用を保留とします。保留中はスキル『カード』が発動しないのでご注意ください。】



 保留中は発動しない……って事は、もしかしてドロップ率にも影響するのか。


 となると今日中に決めないといけないんだな……。これはみんなに相談するとしよう。


「にぃ~!」「栞人さん~」


 六花と花音、魔法使いさんも笑顔でやってきた。


「みんな。何とかフロアボスを倒せたよ。六花も花音も――――魔法使―――」


「え、絵里えりよ……名前」


「!? 絵里さんもありがとう」


「ま、まあね! それにしても、まさか一発でモンスターカードがドロップするなんて、一体どんな豪運よ」


「あはは……」


 まだスキルのことは伝えられないし、まあいいか。


 次の階に向かう前に魔石採取のためにジェネラルの分を採取して、走り回ってゴブリンの魔石を採取していく。


 採取を終えて、次の階層へ向かった。




 ◆




「景色が変わった~!」


 六花が声をあげる。


 今までの階層は廃墟がちらほら見える草原だった。平坦で見渡せるくらいだった。


 それに比べて十一階は景色がまるで違う雰囲気で、草原の姿は消え去り廃墟が続いていた。


 壊れたビルが斜めになっていたり、崩れ落ちた瓦礫が至る所にあったり、かつては栄光を極めたと思われる文明の名残が続いている。


 それに空気も下とはまるで違うもので、廃墟ならではの埃まみれの空気が飛んでいる。


「何だか暗いな……」


「廃墟がベースになっているみたいだね。二十階はどうなのか分からないけどね。ひとまず、ここから出ようか・・・・


 凪の後を追って、入口の脇にある初めて見る魔法陣の中に入った。


「転送。外」


 凪の声が聞こえて、不思議な光が立ち上り、視界が一瞬で変わりダンジョンの外の景色が広がった。


「わあ~! これが転送陣なんだ! 凄いね!」


「ああ。本当に凄い。これならいつでも十一階に入れるのもいいな」


 転送陣。


 ダンジョンに存在する不思議な力であり、十一階、二十一階など、各十階のフロアボスを倒して次の階に入る事で使えるようになる。


 だからこそ臨時パーティーを組んでまでフロアボスを無理矢理倒したい人が大勢いる。


「絵里さん。うちに食事に来ませんか?」


「えっ!? いいの?」


「もちろんです。僕達の祝勝会になってしまいますが、妹と凪のご飯凄く美味しいんですよ」


「参加するわ!」


 意外と食べ物に釣られる気がする。


 急いで買い出しに向かい食材を買いこんでシェアハウスに戻って来た。




「「「乾杯~!」」」


 コップにシュワシュワの炭酸ジュースが注がれていて、みんなで空高く持ち上げて声を揃える。


「美味しい~!」


 フォークを口に加えたまま、たまらず声をあげる絵里さんにみんなで笑いが漏れる。


 そのままシェアハウスに泊まる事が急遽決まって余った部屋、花音の部屋の隣部屋を準備した。




 次の日の朝。


 朝食を食べ進めて、今日はどうしようかなと話し始める。


 その時、


「あ、あの! 順番とかめちゃくちゃだと思うんだけど、私もパーティーに入れて欲しい!」


 そういや絵里さんってまだパーティーメンバーじゃなかったな。


 というのもたった一日だけど、すっかりみんなと仲良く一緒に風呂に入っていたから忘れていた。


 それから凪と花音から色々条件を言われて、全て納得した上でパーティーメンバーになることになった。


「そういや、絵里さんってどうしてうちのパーティーのメンバーになりたいんですか?」


 一応念のために聞いておく。


 彼女の顔色が髪色に近い色に変わっていく。


「え、えっと……笑わない?」


「もちろん?」


 もじもじする彼女は小さい声で呟いた。




「ご、ご飯が美味しくて……毎日こんなに食べれるなら頑張れるかな……」




 言うまでもなく、リビングが笑い声に包まれた。


「笑わないでよ~!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る