第36話 ジェネラル戦-前編

 ゴブリンジェネラルが再出現するまで待ち続けて一時間が経過した。


「そろそろリポップ時間ね」


 リポップというのは、魔物が再度現れる事を指す。


 少し緊張の面持ちで待っていると、アナウンスが聞こえてきた。



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 クラウンダンジョン十階のフロアボスと戦いますか?(Y/N)

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 なるほど……フロアボスというのは、自然出現ではなくてこうやって聞かれるのか。


「フロアボスに挑戦できるって。みんな行ける?」


「「「はい!」」」


 選択肢の中からYを選択する。


 暗い空に大きな光が舞い降りる。


 不思議なのは光なのに直視できること。普通の光ではない。


 ゆっくりと降りてきた光が周囲に広がると共に巨大なゴブリンが現れ、すぐに追いかけるかのように多くのゴブリンが現れた。


「百体のゴブリンって壮観だね~下層でもゴブリンは沢山いたけど、ここまでまとまってはいないから」


「最初に見た人はみんな口を揃えてそう言うわよ?」


 もう何度も見た光景だから驚きもしないと小さい声で呟く魔法使いさん。


「さて、リーダー。作戦はどうするの?」


「ん~なんも考えてないですね」


「え!?」


「そもそも今日初めて見ましたから、見てから考えようかなと」


「本当に大丈夫? このパーティー…………」


 さて、魔法使いさんの言うのもごもっともというか、これだけ多いゴブリンを一体ずつ倒したのでは埒が明かないし、フロアボスであるゴブリンジェネラルは単体でも今までのゴブリンとは比にならない程強いみたいだしな。


 ここは一つ、メンバーの力を借りるとしよう。


「凪はできるだけ力を温存しながら迎撃。六花と花音は殲滅を優先に戦ってくれ」


「「「了解!」」」


 三人はすぐに行動に移す。


 六花は光の槍を連射、花音はスキルを使って広範囲を攻撃する矢をどんどん撃ち放つ。


「へぇ……水髪の子ってさすがね。それに妹ちゃんもあれだけ連射できるなんて、只者じゃないね」


「やっぱり規格外ですか?」


「ええ。驚くくらい。銀髪の子がメンバーになりたい理由もわかるわね。さて、このまま殲滅されたら私の見せ場がなさそうだから急いで私もやらないとね」


 魔法使いさんが詠唱を唱え始める。


 魔法の詠唱って初めて聞くというか、六花はいつも魔法名しか唱えないから、こういった詠唱を直に聞けるのは不思議な感覚がする。というのも、詠唱って人語ではない。全く聞き取れない文言を話している。


 凪と一瞬目が合って、凪が少し前に出てこちらに向かってくるゴブリンを斬り捨てていく。


 俺はこのまま魔法使いさんに向かってくる魔物を相手しようとするが、さすがの六花。こちらに向かう魔物を先に落ち落としていく。


 魔法使いさんが言うように、凪はもちろんの事だけど、六花も花音も常にパーティーを意識していて、それぞれがパーティーメンバーを支え合うかを考えてくれる。


 こういった乱戦でさえも、敵より味方をしっかり見ているのがうちのパーティーの強みな気がした。


 あとは――――――僕がもっと強くなって、戦いでもみんなの役に立てるようにならないとね。


 一体も漏れる事なく、魔法使いさんの魔法が完成した。


「――――ファイアストーム!」


 近くから見たら思っていたよりもずっと巨大な火の玉が完成して、ゴブリンの群れの上空に向かって飛んでいく。


「はぁはぁ……ちょっと力を込め過ぎてしまったわ…………」


 到着した火の玉は、爆炎の竜巻となりゴブリンたちを巻き込んでいく。


 圧倒的な火力の前に魔法の凄さを再認識する機会となった。


「広範囲の戦いではさすがに勝てないですね……」


 花音が近づいて来て、魔法使いさんに肩を貸した。


「栞人さん。今度は栞人さんの出番ですよ」


「ありがとう。行ってくるよ」


 花音と魔法使いさんを置いて、ゴブリンジェネラルに向かって走り出した。


「凪! 行くぞ!」


「うん!」


 素早さのステータスのおかげで最高速もかなり上がったので、一気に近づいていく。


 後ろから魔法の気配がしたので真っすぐ突き進むと、後ろから光の槍が飛んで来てゴブリンジェネラルに直撃する。


 左手に持っていた大盾で光の槍を簡単に防ぐ。


 僕よりも先に走り込んだ凪がそのまま死角になっている足下を斬りつける。


 突然の痛みに大きな声を響かせて、標的を凪に移して後ろ姿を見せる。


 全身鎧なので、普通に斬っても全くダメージにならないはず。


 全力で飛び上がり、五メートルに近いジェネラルの頭部に届いたので、そのまま首筋を斬りつけながら通り抜けた。


 凪との連続攻撃により、ジェネラルの標的が入れ替わる。


 ただ、一つだけ誤算だったのはジェネラルの動きが僕が思っていたよりもずっと早かった。


 振り向いたジェネラルの盾の薙ぎ払いが早くて、そのままもろに直撃を受けてしまう。


「ケントくん!」


「大丈夫!」


 直撃でも無事な理由。咄嗟の状況で試してみたら意外と使えたのは――――魔石による盾だ。


 ジェネラルの薙ぎ払いでFランク魔石十個がボロボロに砕けて消えてしまったが、その分威力を減らしたので大したダメージは受けていない。


「凪! 六花! 気を抜くな!」


「「!?」」


 一瞬二人の視線が僕に集まっていたのが、ジェネラルに向く。


 巨大なジェネラルが真っ赤な目を光らせて、僕を見下ろした。

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