第34話 それぞれのパーティーの形

 九階に到達した。


 ここで出て来る魔物はゴブリンナイトが一体、ゴブリンウォリアーが二体、ゴブリンアーチャーが二体、ゴブリンメイジが一体。


 今回は凪が先行し、僕が追いかける。


 六花は光の槍で前方のゴブリンナイトをけん制し、花音のスキルによる攻撃で後方のゴブリンアーチャーとメイジを撃ち落とす。


 凪がゴブリンナイトを通り抜けてゴブリンウォリアー二体を制圧している間、光の槍で盾がはじかれたゴブリンナイトを僕が斬りつける。


 正面からの攻撃の場合、ゴブリンナイトは『背後移動』は使わないらしくて、正面での戦いならこちらに分がある。


 六体ものゴブリンパーティーでさえ、今の僕達には相手にならず、十階への道を駆け抜けながらゴブリンを次々と倒す。


 そして、僕達は問題の十階にやってきた。




 十階は今までの雰囲気を少しだけ変え、景色は廃墟の草原に変わらないんだが、空の色が違う。


 ここまでの下層は明るい空だったのに対して、十階の空は曇りの空で暗い雰囲気に染まっている。


「もう十階だね。ここにいる魔物は――――――フロアボスと呼ばれている魔物が出現するよ。十階毎にいるフロアボスは今までの魔物よりも遥かに強いから気を付けてね。ここを守るのはゴブリンジェネラルだよ」


 ゴブリンジェネラル…………という事はゴブリンの将軍。つまり、相手は――――


 視界の遠くに他のパーティーが戦っていて、その相手はここに来るまで相手していたゴブリン、アーチャー、ウォリアー、メイジ、ナイトが何体も見えていた。


「ざっと五十体は見えるんだけど……?」


「五十という事は半数を減らしたってことだね」


 つまり……ゴブリンジェネラルと戦うだけでも百体のゴブリンと倒さなければならないのか……。


「だからね。ここを攻略するために広範囲攻撃スキルを持った探索者を臨時募集しているパーティーも多いよ。ほら、あそこに魔法使い格好の人がいるでしょう?」


 凪が指差した場所には、尖った帽子とローブを身にまとって、高価そうな杖を持っている魔法使いが詠唱を繰り返して魔法を準備していた。


 杖に赤い魔力の粒子が集まりどんどん大きくなっていく。


「――――ファイアストーム!」


 魔法使いが杖を高らかに掲げると、杖から真っ赤な巨大な火の玉が帆を描いて空高く打ち上げられた。


 戦っていたメンバーが一斉に魔法使いの方に避難する。


 上空に放たれた火の玉がゴブリンの群れに落ちると、爆炎の竜巻が起きてゴブリンたちを火の海が飲み込んでいく。


「す、凄いね…………」


「この上からは、ああいう上位探索者の戦いも見れるよ。それに、ケントくんには酷だろうけど、ここからはスキルや魔法での戦いを強いらせるからね」


「僕は諦めないと覚悟を決めているからね。スキルも何もない僕と組んでくれた凪と花音に応えるためにも頑張るよ」


「栞人さんって意外なところが男らしいですよね~」


「意外って!?」


 みんなが大声で笑う。


 向こうのパーティーの魔法使いがちらっとこちらを見つめた。


 強い才能が発現すると髪や瞳の色が変わる事がある。


 例えば、凪は銀髪の黒い瞳、花音は水色の髪と瞳だ。


 彼女も爆炎の竜巻魔法を使える程の才能の持ち主なだけあり、髪の色も目の色も燃えるような深紅色だ。


「あれ? そういや、強い才能を開花したら髪の色が変わるっていうよね」


「そうね」


「ん? 六花って凄い強いし、特殊な才能なんだよね?」


「!? あ、あはは……き、気のせいだよ!」


 じっと妹を見つめる。


 その時、隣で花音が口を開いた。


「あれ? 金……」


「うわあああああ! にぃ! ほら、見て! ゴブリンたちがまるで燃えるゴミのように」


 誤魔化すように爆炎の竜巻が終わった焼け野原を指差す妹。


 これは絶対に何か隠しているな…………まあ、帰ったら問いただすとして。


 視線を向けた焼け野原は文字通り焼け野原状態で、ゴブリンが殲滅して遠くに巨大なゴブリンが一体佇んでいた。


「あれがゴブリンジェネラルか……強そうだな」


「ゴブリンナイトの数倍強いと思ってくれたらいいかも?」


「そんなに強いのか。まあ、向こうのパーティーのお手並み拝見だね」


 魔法使いのパーティーとゴブリンジェネラルの戦いの火蓋が切って落とされた。




 ゴブリンジェネラルの戦いは三十分にも及ぶ熾烈な戦いだった。


 というのも、後ろの魔法使いさんは爆炎の竜巻以来全く攻撃していない。


「凪? あの人はどうして戦わない? 魔素MP切れ?」


「そういう可能性もあるけど、恐らく違うと思う。多分一時的な契約パーティーじゃないかな~」


「契約パーティー?」


「ええ。私達の場合、正規のパーティーだよね? だけど、誰しもがパーティーを組み続けたい訳ではない。例えば私と花音ちゃんもずっとそうだったように、ソロで動きたい人も沢山いるの。でもフロアボスを倒すには一人では難しい場合が多い。ここもゴブリンジェネラルだけならまだしも、その前に百に近いゴブリンを相手しなくちゃならないからね。十一階に行きたい人には厳しいでしょう?」


 ここまで多くても六体。凪と花音はここを突破しているけど、適正レベルの時ですら強い方だと思う。だから六体くらいなら何とかなるけど、さすがに百体は厳しそうだ。


「だから探索者ギルドに行くと臨時パーティー募集があるよ。それにパーティー以外に臨時パーティーという欄もあるでしょう?」


「えっ!?」


 急いでステータス画面を開いて裏面を見ると『パーティー』の下の方に『臨時パーティー』と薄い灰色の文字で書かれていた。


 透明だから気づかなかった……。


「臨時パーティーには名前すら載らないよ。人数しか書かれないの。だから臨時パーティーを組む人も多いわね。そして、本題に戻るけど、あの人は恐らく十層の一掃係として雇われて臨時パーティーに入った人で、一掃する魔法を放つだけの契約だと思う」


「なるほど……魔法一発で報酬を貰えるってことか」


「そういう事。ちなみにケントくんが想像しているより――――十倍は貰うと思う」


 心を読まれたようで、凪はいたずらっぽく笑う。


 臨時パーティーという仕組みがある事を初めて学んだ。

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