第33話 強敵ゴブリンナイト

 花音が加入してから狩りのペースがさらに上がり、スキル『カード・レプリカ』のおかげで僕も六花も力が大幅に上がったおかげで一気に六階までやってこれるようになった。


 六階まで走り続けても疲れないのは不思議にも思えるが、凪曰く速度をもう少し落とせば、多分数時間は走り続けられるという。それ程までに力というステータスは重要だという。


 ちなみに、力を上げるカードを持っているのは花音。理由はレベルアップの時に力だけが伸びなくて悩んで、稼いだ額の殆どを投資して買ったカードだという。


 素早さのカードは凪で、以前言った通り、全てのカードは素早さ関連のカードにしているそうだ。


 せっかく上昇したステータスとパーティーメンバーなので一気に進める事を決意した。


 それにはまた違った理由があるのだけれど、それはまた――――




 七階に辿り着く。


 ここではゴブリンウォリアーが三体、ゴブリンアーチャーが二体、ゴブリンメイジが一体出現する。


 凪の情報だと、初心者パーティーが最も壁を感じる階がここだそうで、ここでの死亡率もかなり高くなっているそうだ。


 確かに、ゴブリンが六体と多いし、バランスも非常に良い。


 前衛三体と後衛三体の強烈な盾と援護射撃は、初心者パーティーには非常に高い壁になるだろうね。


 だが、俺達は急成長を遂げた事で、難なく突破できた。


 凪と花音は一人でも余裕で倒せるけど、俺と六花もそれ程苦労する事なく倒せた。


 ずっと下層で下積みを疎かにせずに実戦を続けてきたのもあり、人数が多くなっても無理せず、自分の力と相手の連携のなさを利用して斬り捨てる事ができた。




 八階にやってきた。


 ここから見えるゴブリンは――――初めて見るゴブリンだ。


「あれはゴブリンナイト。今までのゴブリンの中では最も強いゴブリンだね」


 剣と盾、鎧を着こんでいるゴブリンが一体、その後ろにはゴブリンメイジが二体いるパーティー構成だった。


 これまで通り、ゴブリンナイトと僕が一対一で対決し、後衛はみんなが倒してくれた。


 先に僕の剣がゴブリンナイトを斬りつけるが、大きな盾で僕の剣を塞ぐ。


 ただの飾りではないな。それに下層よりもずっと知能が働く。


 盾で防いですぐに剣で突いてくるのを、後ろに飛んで距離を取る。


 ゴブリンウォリアーとはまた違う難しさを感じる。


 剣と盾。


 相手の攻撃を防げるのがここまでメリットだとは思わなかった。そもそも一撃でやられるとばかり思っていたから、少しだけ左手に盾を持ちたい気持ちが芽生えた。


 今度は剣で斬るふりをして、斬る寸前に体を盾の反対側に一瞬で移動する。


 つまり、ゴブリンナイトの右側を取ったことになる。


 あとは剣で斬るだけ。


 しかし、次の瞬間。


 ゴブリンナイトの体が虹色に染まり、ありえない速度で僕の後ろに移動した。


 移動する姿が見えていても手足一つ動けない程の一瞬に、僕は後ろを取られた。


 このままでは斬られる!?


 しかし、斬られたのは僕ではなく、ゴブリンナイトだった。


 動くを予測していないと刺さるはずがない光の槍が既に・・飛んで来ていたのだ。


 ゴブリンナイトの頭に光の槍が刺さって動きがガタついている間に、急いで僕も斬りつける。


「り、六花! ありがとう!」


「ううん。大丈夫? にぃ……」


「ああ。僕は問題ない。凪! 今のはどういうことだ?」


 昔の僕ならここで落ち込んで、前を向くことなく下を向いていただろう。自信を無くして、やはり僕ではこのパーティーメンバーにはなれないと思ったと思う。


 でも今は違う。


 僕には仲間がいて、僕はこれからも強くなれる。だから下は向かない。前を向くんだ。


「それは、『背後移動』というスキルだよ。相手との一定距離と自分より体型が大きく差がない場合にのみ発動できるスキルで、一瞬で背中に移動するんだ。一度使ったら数分は使えないから一度使わせたら、二度目はないかな?」


「ふむふむ…………ありがとう。となるとここから魔物はスキルを使うんだな。六花。さっきのはスキルなのか?」


「えっ!? う、うん! 仲間の危機を察知して、攻撃魔法か回復魔法のどちらかを先に撃つ事ができるの。でも次使えるようになるまで一分かかるの」


「分かった。では次の戦いから暫く遠距離攻撃から先制を取ろう」


「「了解!」」


「凪はメイジの方を。僕は少し様子を見させて欲しい」


「了解!」


 そして、止まる事なく僕達はまた狩りを続けた。


 ゴブリンナイトは僕が今まで相手したどんな魔物よりも強い。だからこそ、しっかり観察するんだ。


 花音の矢は盾で防いで、六花の光の槍は剣で叩くが、光の槍は魔法なので叩き割る事ができず、そのまま被弾する。


 続いて飛んできた花音の矢は避ける事ができず、致命傷となり倒れる。


 そんな戦いを何度か繰り返しながら九階への登り口にやってきた。


 そこを防ぐかのようにゴブリンナイトが佇んでいた。


「今度は僕に任せてくれ。六花は例のスキルを常に発動させてくれ。花音と凪は後ろをお願い」


「「「了解!」」」


 そして、ゴブリンナイトと僕の二回戦が始まった。


 観察して分かった事は、今の僕ではどう足掻いてもゴブリンナイトには勝てない。それくらい自分の実力が足りないことは分かっている。


 だから、自分ができる精一杯のことを試すんだ。


 さっきと同じく剣を振りながら体をずらしてゴブリンナイトの横を取る。


 当然、スキル『背後移動』が使われる。


 ただな。それは既に読んでいる。


 僕もそれに対抗するために、横に移動してからすぐに準備した事がある。


「――――スキル! カードスラッシュ!」


 剣に纏って水色のオーラを、既に脇から後ろに向けていた剣の先から放つ。


 後ろから斬りつけようとするゴブリンナイトに、カードスラッシュの虹色の光が直撃する。


 攻撃を受けたゴブリンナイトは何ともない事に不敵な笑みを浮かべる。


 でも僕の狙いはまさにそれ。


 お前が一瞬でも止まれば、こっちのものだ!


 剣を持つ腕に目掛けて全力で飛び込んで剣をぐるりと回しながら斬りつけつつ通り抜ける。


 右腕の傷に痛そうな声をあげながら剣を手放すゴブリンナイト。


 そして、大きな隙が生まれたのは言うまでもない。


 最後に僕の剣が首筋を貫いて、ゴブリンナイトはその場で倒れ込んだ。




 ――【スキル『カード』の特典により、ゴブリンナイトカードを使用し、ドロップ確率を0.3から0.4に上昇させました。】

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