第32話 三度目のドロップ率上昇
いま僕は心から楽しんでいる。
狩りというものが、剣を自由自在に使い魔物を斬り捨てていく。
一応魔石採取はしっかり行う。
目の前のゴブリンウォリアーには苦戦を強いられていたのに、今では一撃で斬り捨てる事も可能だ。
それもこれも凪と花音の強力なモンスターカードのおかげだ。
後方から僕を狙うアーチャーも手足も出ずに花音と六花の遠距離攻撃によって倒れていく。
凪というと、一人で一つの群れを瞬殺していた。
今日は試しに来たので五階である程度狩りを進めて、シェアハウスに戻って来た。
◆
「ず、ずるです!」
「いやいや、そう言われても……」
目の前には花音が顔を赤らめて僕を指差して半泣きしている。
「栞人さん…………そんなずるい人間とは思いもしませんでした!」
「ずるじゃないってば! ちゃんとスキルなんだよ!」
彼女が怒っている理由。
それは目の前に置かれたゴブリンアーチャーのモンスターカード三枚だ。
これは花音が倒したゴブリンアーチャーからドロップした物で、珍しいモンスターカードに舞い上がっていた彼女だが、そこから立て続けに凪と六花も同じカードをドロップさせた。
そして、帰って来た彼女に僕のスキル『カード』によるドロップ率上昇の効果だと説明するとこう怒り始めたのだ。
「これは探索者達への冒涜です! 酷すぎます!」
「そう言われても……得られた才能がこれなんだから仕方ないじゃないか」
「そうですけど…………モンスターカード程の高価な物がこうも簡単に……こんな低層で一日百万円近く稼げるなんて……」
探索者の大きな収入源となるのは、魔物の素材だ。
それは階を上がれば上がる程に強くなる魔物であればある程高額に取引される。
素材も持ち帰りが簡単なモノならまだマシだけど、難しいモノもある。巨大な角とか爪とか。
その中でも手にさえ入れれば持ち運びがしやすいのはモンスターカードであり、ドロップ率から高額で取引される。
今日ドロップしたゴブリンアーチャーカードは一枚二十五万円程になる。それが三枚と魔石を足すと軽く百万円になるので、一日で簡単に稼げる額ではない。
凪や花音くらい強い探索者なら頑張れば届かない額ではないらしいけど、五階という低層で狩りも楽に行えてこの額を稼ぐのが問題だ。
「花音さん? そんなに難しい顔をしなくてもいいじゃないですか。だって花音さんはもうにぃのパーティーメンバーですし、その恩恵にあずかったらいいと思いますよ?」
「六花ちゃん……それはそうだけど……こう何年も苦労した私は…………」
「それを言うならにぃの方が苦労してますよ? そうよね? ナギ姉」
「そうね。花音ちゃんにも教えてあげようか」
「料理は私とにぃが運ぶから後はよろしく~」
「は~い」
妹に腕を引っ張られて厨房に連れて行かれた。
凪と入れ替わり、せっせと料理をテーブルに運ぶ。
合計六回往復したんだけど、往復するたびに花音の顔色が悪くなって、最後に至っては僕に抱き着いて「ごめんなしゃいいいいいましゃかあんにゃに酷い人生をおおおおお」と泣きじゃくった。
軍蔵たちとの生活は確かに辛かった。でも…………感謝するわけじゃないけど、そもそも魔石採取者は嫌われる。
そんな僕を受け入れてくれたのも事実ではある。もちろん感謝はしないけど。
だから、昔のことは忘れる事にした。
そういや、あいつら、今頃何しているのかな? 凪に痛い目に遭ってからクラウンダンジョンには顔を見せなくなったみたいで、たまに一階を通り抜ける時に他の探索者達から感謝されたりしてる。余程目障りだったんだろうな。
花音のパーティーメンバー加入とシェアハウスに引っ越しを兼ねたささやかなパーティーが開かれた。
◆
今日は五階を越えて、六階にやってきた。
ここでは四体のゴブリンが現れた。
ゴブリンウォリアーが二体、ゴブリンアーチャーが一体、そして新しいゴブリンメイジが一体である。
事情を伝えているので、僕が真っ先にゴブリンメイジに向かって走り込み、後ろから凪が続いて前のゴブリンウォリアー二体に対応してくれる。
ゴブリンメイジまでたどり着くまでの間は、花音の弓矢が飛んでいきゴブリンアーチャーを一撃で仕留めた。
モンスターカードで底上げされた僕のステータス。特に速度が既存の20から50も増えて70となって、倍の速度で走り込める。
通り抜ける風景が美しいとさえ思える。
僕を目掛けて飛んできた火の玉が後方から援護射撃光の槍によって粉砕される。
火の玉が散った後を通り抜けて、僕の鋼の剣がゴブリンメイジの首を跳ねた。
ドロップした美しい光を輝かせているカードに手を伸ばす。
――【スキル『カード』から生まれたカードには特典が付与されます。以下の特典から選んでください】
もちろん今回の特典も――――――
――【スキル『カード』の特典により、ゴブリンメイジカードを使用し、ノーマルモンスターカードドロップ確率を0.2%から0.3%に上昇させました。】
これでドロップ率上昇を三回追加した。残り二十七回となった。
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