第29話 花音の答え

「二人ともいい加減にしなさい!」


「えええ!? 僕のせい!?」


 厨房からいつの間にかエプロン姿になって料理をしていると思われる妹が、お玉を片手に出て来た。


「花音さんも今日はうちで夕飯食べますよね!?」


「ひぇ!? は、はひ!」


「よし! 二人ともお風呂とテーブルの準備をしてください!」


「「は、はい!」」


 妹に逆らったらいけないと気配を感じ取った僕と花音さんは、急いで支度を始める。


 花音さんには手拭きを渡してテーブル支度を進めてもらい、僕はお風呂の準備に向かった。


 いつもなら浄化魔法で掃除を済ませておくのだが、花音さんが来ているからか、手で掃除を進める。


 なんだか懐かしいなと思いつつ、綺麗な風呂を洗ってお湯を溜めるボタンを押した。


 風呂掃除が終わってリビングに戻ると、意外にも花音さんがテキパキと動いてテーブルだけでなく、リビングの掃除を続けていた。


 意外にも繊細であらゆる場所のゴミを綺麗に拭き取っていた。


 驚く程に洗練された動きに見入ってしまう。


「それにしてもここは綺麗すぎますわね…………こんな広い家なのにこれしか汚れがないなんて…………おかしいですわね…………」


 そりゃ……うちの妹が浄化魔法でいつも綺麗にしてくれているからね。


 厨房に入っていくと美味しそうな匂いが充満していた。


 今日は妹が当番で、凪が手伝ってくれている。


「花音さんがどれくらい食べるか分からないから多めに作ったよ~」


「いいんじゃないか。無駄遣いはよくないけど、足りないよりはずっといいと思う」


 いつもよりも多めに並んだ料理をよそってくれて、皿をテーブルまで運んだ。


 花音さんはソファの下で拭き掃除をしているが、お尻を向けてあられもない姿になっている気がする。


「花音さん~そろそろ掃除はいいですよ~」


 そもそもお客様でしょうに……。


 少し不満そうに立ち上がる花音さん。そして、目が合った。


「ひい!? いま花音のお尻を凝視しましたね!?」


「してないわ! 不本意だ!」


「やっぱり男ってみんな狼だわ! 花音のお尻で――――」


 次の瞬間、後ろから凄まじい殺気めいた視線が僕達に向けられる。


「さあ、ご飯にしよう。花音さん」


「そ、そうですね。ありがとうございます。栞人さん」


 何もなかったかのようにテーブルに料理を運び続ける。


 そして、テーブルを囲んで四人で美味しい食事を食べた。




「花音さん。今日泊まっていきます?」


「いいんですか?」


「もちろんですよ。花音さんもうちのパーティーをもっと見たいでしょうし」


「ありがとうございます」


 結局花音さんとは凪が対応する方向に話が決まった。


 僕といるとまた変な方向に話が向くからね。


 とりあえず、うちで一晩過ごすらしい。


「そういや、花音さんはどうしてうちに?」


「喫茶店『黒猫』の梨乃さんから良いパーティーがあると教えてもらえたんです。男性とパーティーが組めなくて…………それを梨乃さんに相談していたんです。良いパーティーが見つかったら声を掛けてくれるって約束してくれていて、やっと見つかったと教えてもらいました!」


 そりゃ……花音さんの性格的に男性とパーティーを組んだら色々誤解が起きそうだものな。


「でも結局はうちもケントくんがいるから難しいのでは?」


「え、えっと……その…………ケントさんは他の男性と違うというか。嫌らしい目つきも少ししかないから……」


「いや、嫌らしい目で見た事ないわ!」


 思わずノリツッコミをする。


「なるほど……分かりました。じゃあ、次はこちらの番・・・・・ですね」


「は、はい?」


「ふふっ。うちのシェアハウスはケントくんのパーティーに加入する人が前提なんです。それには厳し~い実技試験が要りますからね~」


 実技試験!?


「分かりました……! これでも一人でずっと探索者をしていましたから、戦力としては自身があります!」


「それはいいですね~うちのリーダーは人使いが荒いですから、覚悟しといてくださいね」


 人使いが荒い……うっ…………凪も妹も魔石採取のことをまだ根に持っているな?


 その日はゆっくりと休む事にして、花音さんが泊まる部屋は凪の隣の部屋になった。




 ◆




 次の日。


 早速朝支度を終えて、ダンジョンにやってきた。


「あれ? 五層でいいんですかぁ?」


「はい。私達の主戦場はまだ五階なんです」


「う~ん。花音が聞いた情報と違いますね」


「梨乃さんから?」


「ええ。二十階に到達していると聞いていたんですが……」


「もちろん二十階に到達していますよ。私だけですけど。でも今のリーダーはケントくんで、まだまだこれからなんです」


 そんな彼女は僕に疑惑の視線を向けて来る。


 弱くてすいませんね……。


 なんだか花音さんがいると調子が狂うというか、色々溜息が出てしまう。


「それでもよろしければ実技試験として実力を示してもらいますけど、どうしますか?」


 少し考え込んだ彼女が答えた。


「もちろん。受けさせて頂きます」


 そう話した彼女は、背中に付けていた――――大きな弓を取り出して構えた。

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