第28話 初めての訪問者

 スキル『カードリンク』の検証も終えたので、モンスターカードは僕と六花で元々持っていた通りに戻した。


 今日は時間も遅くなってきたので、シェアハウスで休む事にした。


「にぃ? 外に変な人がいるよ?」


「ん?」


 妹に言われたまま、窓の外を眺めていると家の外からチラチラとこちらを見つめる人が見える。


 悪意みたいなのは感じないが、あまり良い気分はしない。


 どうするのかなと思ったら、そのまま玄関のチャイムを鳴らした。


 ピン~ポン~という綺麗な音色がリビングに鳴り響く。部屋にいるときっと聞こえないくらいの大きさだ。


「は~い。どちら様でしょうか?」


 インターホンを取ると、画面に挙動不審だった人が映った。


 どうやら女性らしい。


「あ、あの! 初めまして! 私は藤田ふじた花音かのんって言います!」


 綺麗な水色のウェーブがかかった髪の毛を揺らしながら深く頭を下げて挨拶をしてくれる。


 そもそもどうして自己紹介を?


「え、えっと! 『アルカディア』からの推薦で面接を受けに来ました!」


 そう話す彼女は一枚の紙をカメラに映してくれた。


「ケントくん。間違いなく推薦者だと思うよ?」


「そうなのか。初めて見たけど、推薦状ってこういう形をしているんだな…………って! 推薦状!?」


「は、はいっ! こちらに女性多めで実力があるパーティーのシェアハウスという事で、ぜひ私も一緒に暮らしたく……」


「僕は男性ですけど?」


「そうなんですよ! 女性の方が出られると思ったら男性の方が出られて……緊張しちゃう…………」


 少し顔を赤らめてアタフタする彼女は本当に緊張しているように見える。


「分かりました。ひとまず、話を聞かせてください。どうぞ」


 ボタンを押して玄関を開ける。


 恐る恐る中に入って来た彼女が画面から姿を消した。


「リーダーは座ってて。六花ちゃんは紅茶をお願い~私が出迎えるわね」


「り、リーダー…………分かった。よろしく」


 凪の指示通り、ソファに座って彼女が来るのを待つ。


 扉が開く音が聞こえて「美少女です~! 本物の天使様ですか?」という黄色い声が聞こえてくる。


 美しい銀の天使はどこにいっても人気があるよな。


 最近見慣れて来ても、やっぱり凪程の美女に会った事はない。うちの妹には少しだけ、ほんの少しだけ負けるけど。


 足音が聞こえて、凪と共に画面に映っていた女の子が入って来た。


 年齢は妹くらいか? 可愛らしい見た目で凪程ではないかも知れないが、どこに行っても人気者になれそうなくらいには可愛らしい。


「ひい!? や、やっぱりリーダーって……男性なんですか?」


「そうよ? うちのリーダーのケントくん。さあ、こちらにどうぞ」


「はいぃ……」


 あからさまに肩を落とされると何だか複雑な心境だ。


 僕の正面に座り込む彼女は視線を外しながらチラチラと僕を見つめる。


 さて、面接といっても何をするのだろうかと思っていると、彼女の方が先に口を開いた。


「あ、あの…………」


「はい?」


「スカートの中は覗かないでくださいね?」


「覗かないわ!」


「ふええ……男性はみんな狼ですから……きっと花音のスカートの中が見たいんですよね?」


 いや、言いたい気持ちは分かる。


 男児として生まれて、スカートの中がどうなっているのかは夢のまた夢である。


 だが!


 紳士たるもの。覗けと言われても絶対に覗かないモノである!


「ふっ…………花音さんと言いましたね?」


「は、はい……」


「さあ! あちらを見てください!」


 僕が指差す場所には紅茶を運んできた六花と、それを手伝う凪がいる。


「?」


「ふっ……花音さんは確かに可愛いです。それは男である僕から見ても分かるくらいに可愛いです。ですが! この二人を前に可愛さを語るには――――まだまだですね」


「ひい!? そ、その視線は!? 花音の体を上から下まで嫌らしい目で嘗め回すかのように見た上で、美少女二人よりも下だと位置付けして、花音のカーストがガクッと下がった視線!?」


「ふふふっ。さあ! 言ってみなさい! こちらの美少女二人よりも自分が可愛いかどうか!」


「ううっ! そ、それは……確かに花音も可愛いと自負しておりますが、銀の天使との天使には勝てません!」


「!?」


「ん? 金の天使?」


「こ、こらっ! 二人とも真面目にしなさい! 紅茶が覚めるから早く飲んで!」


 妹が珍しくアタフタして紅茶を置いて急いで厨房に帰って行った。


 どうしたんだろう?


「ごほん。それより花音さんはどうしてここに?」


「そうでしたわ。こちらをどうぞ」


 テーブル越しではあるが、招待状をこちらに押して渡してくる。


 前傾姿勢になった彼女の胸元が――――


「あ~! いま花音の胸をチラ見しましたね!?」


「見てないわ! 事故みたいなもんだよ!」


「ひぃ!? や、やっぱり見たんですね!? やっぱり男って狼です! 不潔です!」


 …………はぁ。めんどくさい人がやってきたモノだ。

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