第26話 五階
豪邸にソワソワしながら荷解きやら買い出しやら周囲の地図の確認やらで一日があっという間に過ぎた。
それでも元々身軽だった僕達は次の日には通常通りダンジョンに来る事ができた。
「ケントくん? これからどうするの?」
「ひとまず、五階に向かいたいんだけど、いいかな?」
「大丈夫だと思うよ~五階からはゴブリンがウォリアー二体とアーチャーが一体だね」
「六花用のゴブリンカードは全部揃えたから、次はゴブリンウォリアーのカードが欲しいな。欲を言えば四枚欲しいけど、それはゆっくり狩りながら考えよう」
ステータスの中でも最も恩恵が出ずらいのが器用だ。
ゴブリンカードが力+1と器用+1と今の六花にとって器用+14は無意味なモノとなる。
力を少しでも上げれば普段の生活でも活かせる体力やスタミナが上昇する。
そう考えると力というステータスを如何に上げられるかがダンジョン攻略の鍵にもなりえる。
元々才能によって魔力や魔素に不安はなさそうなので、妹はとにもかくにも力が上昇するカードを集めたい。
そう考えるとゴブリンウォリアーカードを確立上昇に使ったのは少し勿体ない判断だったのかも知れない。
「分かった。では真っすぐ五階まで進もうね!」
「「おう~!」」
慣れた足でダンジョンを駆け上がる。
一番前を走り抜ける銀の天使は、通り過ぎるゴブリンを一瞬で斬り捨てていく。
魔石も通り抜けながら採取できるので、楽に進む事ができる。
今更ではあるんだけど、凪の強さに驚くばかりだ。
もちろん強かったのは知っていたけど、弱い自分にとっては凪の強さも軍蔵の強さも一言で『強い』と漠然と感じていた。
でもレベルが上がり、カードでステータスが強化されて戦えるようになったら、凪の強さを肌で感じられるようになった。
ステータスが高いから魔物を一瞬で倒せるようにも見える。
だが、それだけではあれだけ鮮やかに倒すのは不可能だ。
僕は今回鍛冶師マスターのおかげでそれを教わった。
斬られたゴブリンの傷跡は美しさすら感じる程に鮮やかに斬られている。
きっと凪も何年も苦労しながら練習し続けたに違いない。
あっという間に五階にたどり着いた。
「六花? 疲れてないか?」
「全然平気! でも正直にいうと、ここからもう一階走るなら少し休みたいかな?」
「それは僕も同感だな。凪のおかげで戦いは全くなかったけど、真っすぐ走り続けるのは意外と辛いな」
「ふふっ。二人とも。これあげる」
リュックから飲み物を取り出した凪が僕達に渡してくれる。
「「ありがとう!」」
強いし可愛いし気も利く凪は凄いな。
入口から周りを見回す。
相も変わらず景色は変わらないが、ここからでも見える程に大きなゴブリンであるゴブリンウォリアーが見えている。
ただ、一つだけ気になった事があった。
「意外というか、下層よりも人が多くない?」
思っていた以上に探索者が多い。
寧ろ、今までのどの階よりも人が多い。
「それもそうよ。ゴブリンを倒しても探索者達には何のうま味もないからね? ここから経験値効率がぐっと上がるからね。ここからが探索者の本番というところね」
「なるほど…………魔石を採取しているパーティーは見当たらないな」
「余程の事がない限り、魔石を採取するようなパーティーはいないね。それこそがケントくんがアルカディアに誘われた一番の理由だと思うよ?」
「ん? どういう事?」
「国がいま最も欲しがっているのはカードでも素材でもないの。エネルギーを代用できる魔石なんだ。あれだけ大量の魔石を売っても、寧ろ喜ばれたでしょう?」
「店員さんはちょっと引いていた気がするけどな……」
「一番偉い人は嬉しそうに笑っていたよ?」
下の者と上の者では感覚が違うからな……。
「だからケントくんにこれからも魔石を大量に売って欲しいのも一つの狙いだと思うよ。それが引いて国のためになるからね」
「なるほどな…………ちなみにさ、残された魔物から魔石を勝手に採取するのはルール違反なのか?」
「ううん。それは自由にしていいよ。特に魔石に関しては国からもそうして欲しいと探索者ギルドに通達しているはず。だから探索者達も目くじらを立てたりはしないと思う。そもそも、倒したあと死体を捨ててるからね」
「分かった。では狩りの途中で魔石が残っている魔物の分も採取していこう」
この階からは魔物も強くなってくる。
倒すのにも時間がかかるだろうし、今までのように何百個も持って帰るのは難しいと思ってたけど、落ちているのを拾うくらいなら簡単だ。
休憩も終わり、俺達は初めての五階での狩りを始める。
凪と俺が注意を引く間に六花が光魔法でゴブリンウォリアーやアーチャーを撃ち抜く。
想像していたよりはずっとずっと簡単な戦いで、一番弱いのが俺だからこそ、俺が無理して戦わなければ問題なさそうだ。
常に俺の動きに合わせてくれる凪のおかげで、無理することなく五階での戦いを続けられた。
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