第23話 秘密結社

 梨乃さんに案内されて喫茶店の裏に入っていく。


 意外にも三人くらい並んで歩ける廊下が続いていて、下に降りる階段に真っすぐつながっていた。


 階段を降りていくと、下には少し広い部屋になっていて、いくつかの階段が見える。


「ここは『アルカディア』という場所になります。栞人さんのパーティーは喫茶店『黒猫』からしか入場できませんので、気を付けてくださいね」


 つまり、ここに繋がっている店がいくつもあると示唆される。


 階段が長く続いていて、この街の地下に大きな倉庫があるような感じだ。


「もしどこからだと聞かれたら『黒猫』と答えてください」


「分かりました」


 階段から広々とした倉庫を降りていく。


 高さ的には十階相当か。


 ここまでの深い階段はある程度レベルが上がった探索者じゃなければ、上るだけで疲れそうだな。


 六花にゴブリンカードを装着させて力を増やしたのが功を奏したかもしれない。


 やっぱりレベルが上がり、ステータスが上がることで生活でも大きな差が広がるんだなと、つくづく実感する。


 下まで降りると、大きな倉庫というよりは――――――まるで、買取センターそのものである。


「では、説明させていただきます。ここ『アルカディア』は日本政府を通さず、裏の取引となります」


「!?」


「ただ勘違いしないで頂きたいのは、裏金類ではありません。ここは――――表にしたくない人々のための買取センターであり、ここを営業しているのも政府・・でございます」


「えっ!? 政府!?」


「はい。ただし、ここを知っているのは政府でもごく一部でございます。つまり、皆様は選ばれし探索者でもあります」


 選ばれし探索者…………。


「ここを運営している理念の一つに、どうしても表では出せない秘密がある探索者が一定数いらっしゃいます。例えば――――栞人さん。貴方もです」


「僕!?」


「はい。まだ世間には栞人さんの噂は流れていません。ですがクラウンダンジョンの二階で毎日何百体ものゴブリンを倒している。買取センターでFランク魔石を大量に売っているパーティーがいると噂が流れています。その事からそのパーティーが栞人さんのパーティーであるのは間違いない事実だと確信しております。何より、凪さんが参加なさっていますから」


 そもそも僕一人をチェックしていて、それがバレるとは思えない。


 間違いなく僕と行動を共にしている凪のせいでもあるんだと思う。


 それでも、彼女が口にしている情報は僕達がバレないように気を付けていた情報だ。


 ここに来る探索者は一癖も二癖もありそうな連中だと考えると、情報に長けている探索者がいても何らおかしくない。


 もしかしたら、スカウト的な役割の探索者もいるかも知れない。


「Fランク魔石とはいえ、ここ最近までゴブリンすら倒せなかった栞人さんが、毎日とんでもない数の魔石を買取センターに運んでいる。それだけで栞人さんの実力が高い事が分かります。それに――――恐らく表に出せない魔石があるのではありませんか?」


 梨乃さんの鋭すぎる予想に、思わず息を呑んでしまった。


「ですから、そういう表では目立ちたくない探索者達が利用するための、秘密結社のように思ってくださいませ。それに秘密結社というからには、個人的な依頼を出す場合もあり、その報酬は表よりもずっと高いモノとなっております。いかがですか? 『アルカディア』を利用して頂けますか?」


 ニコッと笑う梨乃さんだが、ここに連れて来て説明した以上、こちらに拒否権はない。


 ここが政府の裏と繋がった以上――――――。


「栞人さんって意外と用心深いのですね」


「妹と凪を背負っていますから。しっかりここを見て判断させてもらいます」


「ええ。もちろん構いません。ここの事を他言さえしなければ、この先、ここを利用しなくても全く問題ありません。ちなみに、買取ポイントは貯まりませんが、代わりに何かを買う場合、格安で買えたりしますので、あちらの相談所に相談してくださいね」


「分かりました。梨乃さん。ありがとうございます」


「いいえ。私も素晴らしい探索者を案内できて嬉しいです。これからの活躍を楽しみにしていますね。それと喫茶店もこれまでと同じく利用してくださいね~」


 挨拶を終えた梨乃さんが一足先に喫茶店の方に戻って行った。


 『アルカディア』を見回すと、僕達が行っていた買取センターと同じ作りになっている。


 広さも通常買取センターと同じくらいに広いが、ここにいる人の数は圧倒的に少ない。


 ただ授業員と思われる受付嬢の数は通常買取センターと同じ人数がいる。


 もちろん、受付に立っている人数は少ないが、奥で何かしらの作業をしている人達が多い。


「ここって、大手口のお客さんが多いの。表だといらない騒動に巻き込まれたり、いちゃもんをつけられたりするからね」


「そんなもんなのか?」


「ええ。それがパーティーだとしても、以前ケントくんが使われていた彼のような世間知らずも多いから」


「いらぬ迷惑ってやつか…………凄い納得いったよ」


「ここなら、今まで貯めたFランク魔石を全部売れると思うわよ」


「それは助かるな」


「そこで、私から一つ提案があります!」


 銀の天使がいたずらっぽい笑みを浮かべた。

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