第22話 意外な誘い

 次の日。


 今日もダンジョンの前で凪と合流した。


「にぃ? 今日は何をするの?」


 凪も興味津々に僕の言葉を待った。


「今日の検証は、スキル『カード』の特典がパーティーメンバーにも効くかどうかを試す。僕の予想では間違いなく効いていると思う。今日やるのは、二階のゴブリンを僕抜きで二人で倒し続けて欲しい。もし特典が二人にも反映されているなら、今日だけで一枚は落ちると思う」


「ゴブリンカードが一日一枚…………とんでもないわね」


 凪の言う通り、ゴブリンカードは性能が弱いので値段はそう高くはない。


 でもドロップ確率が0.001%であるのは変わらないはずだ。


 もちろん、強い魔物よりも倒される数が多いので、市場には多く流れているから値段は安い。


 ゴブリンカードはモンスターカードの中でも最安値だが十万円もするのだ。


 落ちる確率からしたら人によっては安いと思われるが、日本のダンジョンでもっとも多く出現するのがゴブリンであり、もっとも倒されているのもゴブリンである。


 それを考えると十万円というだけで非常に高額というべきだろう。


「ひとまず、ここで四枚を手に入れたい」


「六花ちゃんの分ね」


「ああ。凪は多分五枚装着しているんだろ?」


「そうね。素早さ主体のカードで揃えているわ」


「では、ひとまず二階でのゴブリンを倒しにいこう。魔石採取は僕に任せてくれ」


「「分かった」」


 クラウンダンジョンの二階に向かう。


 草原には多くのゴブリンと多くの探索者パーティーがうごめいている。


 ゴブリンは最弱魔物であり、それを狩り続ける上級探索者は存在しない。


 ゴブリンから収入として得られるのは、魔石とモンスターカードのみだからだ。


 その中を颯爽と走り抜ける凪と、後方から光の槍を放つ六花はまさに場違いの強さを見せつける。


 こればかりは以前もやっていたので、ここで狩りを続ける探索者は「またか……」みたいな顔で見つめていた。


 きっとあの中には、美少女である六花と銀の天使凪を見れて喜んでいる男もいるに違いない。


 見世物じゃないんだ! 見世物じゃ!


 その日は丸一日二階のゴブリンを倒し続けて、とんでもない数のFランク魔石が集まった。


 そして――――――


「にぃ~! 枚目ゲットしたよ~!」


「ケントくん。私も枚目ゲットできたよ!」


 どうやら二人の運気・・は数値以上のようだ。


 早速手に入れたモンスターカードを全て妹が装着する。


 これで力が十四も上昇しているはずだ。


「これなら明日から上を目指せそうだな」


「「うん!」」


 ゴブリンの魔石採取が大変だったのか、倒すだけなら二人ともとても楽しそうにしている。


 実際ゴブリンを倒したあとの表情は清々しいものだ。


 ダンジョンを後にして、今日も魔石を大量に売って、喫茶店『黒猫』でいつもの美味しい食事を行った。


 喫茶店を後にする際の事だった。


「本日もありがとうございました。三人は現在パーティーを組んでいらっしゃるのですよね?」


 いつもなら「ありがとうございました~」と爽やかな挨拶をするはずの店員さん。


 彼女はマスターの娘さんらしく、梨乃りのさんという。


「そうですね。いつも凪におんぶにだっこですけど……」


「ふふっ。みなさんのは既に広まっていますよ? クラウンダンジョンの二階でゴブリンばかり倒しているようですね?」


「そ、そうですね」


「それもこれも――――凪さんというより、栞人さんの力の方が大きいのではないですか?」


 あれだけ派手に狩り尽くしていたら、そりゃ噂にもなるか……。


「それでですね。栞人さんの実力から一つ頼み・・があるのですが、今から少しお時間宜しいでしょうか?」


 いつもなら誰かいるはずの喫茶店内なのに、今は誰もいない。


 だからこそなのか、このタイミングでこういう話を掛けて来るとは思いもしなかった。


「六花。凪。僕としてはこんなに美味しい料理を提供するこの喫茶店が好きだから聞いてみたいと思うけど、二人はどうかな?」


「私はにぃの判断に任せる! にぃが信じる人なら異議はないよ~!」


「私もケントくんに任せているからパーティーを組んでいるからね。それに――――ここを紹介したのも私だから」


「!? なるほど。凪は知っていたのか」


「ふふっ。でも強制したい訳でもないし、ケントくんがこの店を納得してくれればいいなと思ったくらいだよ」


 そういや、ここに初めて来た時、店員さんが凪の名前まで憶えている程だった。


 そもそも名前を呼び合う程の関係なのだから、凪がここと仲が良いのは察するべきだったかもな。


「分かった。梨乃さん。ぜひ話を聞かせてください」


「ありがとうございます。ではこちらにどうぞ。マスター」


「あいよ」


 いつも口数少なく珈琲を淹れてくれたり料理を作ってくれるマスターが頷く。


 マスターの後ろにある扉の中に梨乃さんから案内されて入った。


 この扉に入っていく人を何人か見かけていたけど、扉に『関係者以外立ち入り禁止』と書かれていたから気になっていたが、こういうための部屋だったんだなと納得した。

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