第18話 新たな力
今日から僕達が挑んでいたダンジョン――――クラウンダンジョンの二階に進む事となった。
全世界にいくつものダンジョンが生まれて、日本でもいくつものダンジョンが生まれている。
その数、全部で七十に上る。
さらに、その大半が首都である東京周辺に集まっていたりと、東京にいるだけでいくつものダンジョンに入ることができる。
全てのダンジョンは塔の形状になっているが、中に入るとまるで別世界が広がる。
僕達が挑む『クラウンダンジョン』はダンジョンの中でも比較的に初心者向けのダンジョンとなっている。
各階には草原が広がっていて、廃墟の跡が残っている。
他のダンジョンでは山になっていたり、森や川、中には不思議な水の中のダンジョンまであるという。
一階にはゴブリンが出るだけで、初心者向けであるクラウンダンジョンだが、上の階に上ると一階からは想像もできないような強い魔物が出て来るそうだ。
こういう構成のダンジョンは多く、一定の階までは簡単でも、それを超えると急に難しくなるダンジョンが多く存在し、その逆もまたあるという。
それらは探索者ギルドで情報を提示しており、分かりやすいようにランクに分けられている。
例えば、クラウンダンジョンの一階は最低のFランクだ。
「二階も変わらない景色だね?」
「そうよ。私が行けた二十階までずっと草原だったわ。一定の階を超えると景色が変わる場合もあるらしいけど、基本的には一辺倒の景色みたい」
「ほえ~でも出て来る魔物は変わるんでしょう?」
「そうね。二階に出て来る魔物は――――残念なことに同じゴブリンだよ」
「え~」
不満を口にする妹だが、二階でも現れるのは同じゴブリンだ。
ただし、レベルは上がっている。
その理由は、この階に現れるゴブリンは一階の三体に対して、倍の六体だからだ。
ゴブリンがいくら弱い魔物として有名だとしても、出現数は暴力になる。
「でもここからは私も戦っていいんだよね?」
「そうね。ここからはメイン火力は六花ちゃんにして、私とケントくんで防衛しつつ、魔石採取を頑張りたいね」
「分かった~! 私の魔法でボコボコにしてやるんだからっ!」
妹は余程ゴブリンが嫌いになったようで、随分とやる気になっている。
草原を進むといつも見慣れた醜い緑色の人型魔物ゴブリンが六体ずつ群れを成しているのが見える。
随分と遠いのに、妹がスキルを発動させて『ライトスピア』を放った。
放たれた光の槍は重力を無視するかのように真っすぐ飛んでいき、ゴブリンを貫通させる。
すぐに四発の光の槍が届いて、こちらに敵意が向く間もなく、ゴブリン六体がその場に倒れ込んだ。
「六花の魔法って凄いんだな……」
「そうね。回復魔法まで使えるのに、光の攻撃魔法まで使えるんだから、六花ちゃんの実力がバレると色んなパーティー…………いや、クランから誘いがあるかもね」
「クラン!?」
クランという言葉に思わず大きな声がこぼれた。
日本の秩序を守るために作られたのが探索者ギルドだ。
これは長年探索者で活躍した人達によって構成されており、政府ですら簡単に口を出せず、探索者達の受け皿になっている。
そして、クランというのは探索者ギルドが認めた
クランが認定されれば、特定の名前を名乗れて、探索者ギルドから大きな支援を貰えることができる。
僕でも知っているのはクラン『蒼の牙』。
構成メンバーが最上級の才能のみで構成されていて、全員がダンジョンの最上位を目指している第一線のクランだ。
「ケントくんがこの先どうやっていくかは分からないけれど、私と六花ちゃんがここにいる以上、クランを考えておくのは大事かも」
「僕が!?」
「そうよ。私にクランマスターは務まらないし、ケントくんはずっと探索者として下積みを頑張ってきたんだから、良いクランマスターになれると思うわ」
考えたこともなかった。
僕はただ強くなって、妹の生活を楽にさせてあげたかった。
それがまさかクランを結成するなんて、考えてもいなかったことだ。
「か、考えておくよ……」
「うん。でもそう遠くない未来にそうなるかもね。さ~て! 今日も魔石採取頑張りますかぁ~!」
「凪。魔石採取は僕に任せてくれ。それより六花の護衛をお願いする」
「うん? 私なら問題ないわよ?」
「いや、もちろん凪が魔石採取を嫌っているとかの話ではなくてな…………どうしてか無性に魔石採取を頑張りたいんだ」
「そ、そう? それならいいけど…………お願いするね?」
「ああ。任せておけ」
草原に倒れたゴブリンに急いで駆け寄って、慣れた手付きで魔石採取を行う。
どうしてか魔石採取を無性に行いたい。
いつもの悪臭に襲われながら、ゴブリンの魔石を一つ一つ丁寧に取り出していく。
その日はずっと魔石採取を繰り返した。
そして、最後のゴブリンから魔石を取り出した時、僕の頭の中にアナウンスが響いた。
――【新しいスキル『魔石採取ノ極』を獲得しました。】
初めて聞くスキルを獲得したアナウンスだった。
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