第17話 覚悟
怖い。
目の前の大男からは、目力だけでも魔物を倒せるくらいにプレッシャーが感じられる。
それでもだ。
ここで逃げたら、いままで僕を支えてくれた六花と、期待してくれた凪を裏切ってしまうと思う。
絶対に逃げない。
そして――――――頑張る!
探索者として、僕に期待してくれた凪に応えるためにも、歯を食いしばって大男の睨みに耐える。
「根性はあるな。だが何もなっていない! 俺様が作った剣がこんな風に刃こぼれするなんざ、どうせ力に任せてただ振り回しているだけだろが!」
「えっ!? え、え、えっと…………は、はい…………」
「馬鹿もん! 剣は振り回すための道具じゃねぇ! 小僧! 強くなる気があるならこの言葉を繰り返せ!」
「は、はいっ!」
「剣は振り回すものじゃねぇ!」
「剣は振り回すものじゃねぇ~!」
「剣は自分の手と足と同じだ!」
「剣は自分の手と足と同じだ~!」
「剣は自分の心! 道具ではなく相棒だ!」
「剣は自分の心~! 道具ではなく相棒だあああ~!」
「ふぅん~小僧。やるじゃねぇか」
「も、もちろんです! 僕がまだまだ弱いのは知っています。でももう嫌なんです。――――妹が隠れて泣いているのを。そうさせている自分の弱さを。だから強くなりたいんです! マスターの言葉を胸に頑張ります! どうか僕に剣を売ってください!」
毎日ボロボロになって帰ってくる僕を見て、苦しそうに隠れて泣いている妹を知っている。
毎日誰からも期待されず、軍蔵に使われる毎日を送っていた生活から、助けてくれた凪の期待。
その全てに応えたい。
「いいだろう。だが次からは剣を道具としてではなく相棒として扱え。いいな!」
「はい~!」
満足してくれたようで口角を少し上げたマスターは後ろに雑に置いてあった剣を僕に軽く投げてきた。
「代用で使っておけ。
「マスター!? いいの?」
「男に二言はねぇ。小僧。分かったらさっさと出てけ! お前みたいな雑魚がここにいると他の客に迷惑だ!」
「は、はいっ! また来月来ます!」
さすがに怖いので妹と共にお店を後にする。
後ろから凪の「ありがとう。マスター」という声が聞こえて、凪も一緒に店を後にした。
「ケントくん凄いね。マスターが認めるなんて中々ないことだよ?」
「そうなのか? めちゃくちゃ怖くて夢中で言ってしまった……」
「ふふっ。きっとそういうところを見てくれたんだろうね。まさか――――――『覇気』にも耐えられるなんてね~」
「ん? ごめん。最後ちょっと聞き取れなかった」
「何でもありません! それよりもこれから頑張らないと! ここのオーダーメイド品ってものすごく高いからね」
「ええええ!?」
「当然でしょう? 鍛冶師のクラスの中でも最上級である最上級鍛冶師『
最上級鍛冶師!?
僕も探索者を目指している身として、最上級鍛冶師という言葉は知っている。
鍛冶師というのは、魔物の素材を使って武器や防具、道具を作る才能をいう。
しかし、鍛冶師という才能の中にも上下が存在する。
『下級鍛冶師』『中級鍛冶師』『上級鍛冶師』そして、その上であり、国中でも数人しかいないとされる『最上級鍛冶師』の才能はまさに選ばれし者だけが与えられるという。
「ぼ、僕なんかでいいのかな?」
「いいのよ。あの熱唱でも作ってくれない時は作ってくれないから」
「そうなのか!?」
「うん。私も納得してもらうまで三回も掛かったんだから」
「ええええ!? 凪ってあれを三回を言わされたのか!」
「そうよ? 最初は恥ずかしかったけど、最後はもう必死だったわね。次は――――――六花ちゃんの番かな?」
「ふえ? 私?」
何だか少し落ち込んでいた妹がはっとなって、可愛らしい大きな目を見開いた。
「…………六花。ごめんな」
「う、ううん! 私こそ……いろいろ……ごめんなさい」
どうやらさっき話した事を気にしているようだ。
妹が隠れて僕のために泣いてくれていた事。いまでも忘れるはずもない。
きっと、彼女の中に力を明かすべきか隠すべきかで辛い思いをさせてしまったんだと思う。
「でもさ。あれは過去だよ。過去ももちろん大切だ。でもそれは足を引っ張るためのモノではなく、未来に一歩進むためのモノだ。だからこれからは強くてかっこいい兄として頑張るからな」
「うん……期待してる。でも! 私も! 頑張るから!」
両手を上げる妹の顔にようやく笑顔が戻った。
「そうかそうか~頑張ってくれるのか~! ではこれから魔石を――――」
「うわああああ! 魔石採取だけは頑張らない!」
妹の慌てた返事に僕と凪の笑い声が裏路地に鳴り響いた。
◆
その頃、とあるダンジョン一階では…………。
「ちくしょ! てめぇ! また魔石採取に失敗しやがったな!」
大きな声を上げて取り巻きの一人を殴り飛ばす軍蔵。
「ぐ、軍蔵さん! 魔石採取はものすごく難しくて……その…………」
「ちくしょ! あんな無能でもできたんだからお前らもやれるようになれ!」
怒る軍蔵に、取り巻き達の表情が段々曇っていく。
そして、次第に一人、また一人、軍蔵の隣を離れる事になるのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます