第14話 外食
その日はゴブリンを狩り続けて、怪我をすれば妹に回復魔法で治してもらい、危険そうになったら凪に助けてもらいながら、無理しない範囲でゴブリンと戦い続けて、合計15体程倒せた。
今までは魔石採取だけで気づかなったけど、狩りは思っていたよりもずっとずっと大変で、一歩間違えばすぐに死が隣り合わせという事実がこれだけ重いものだとは思いもしなかった。
しかし、妹も凪も似たような感覚らしくて、ゴブリンの返り血は全て浄化させているけど、採取する時は匂いだったり、僕が考えていたよりも繊細な作業が必要だったようで、二人ともへとへとになっていた。
「凪。六花。今日は外食にしようか?」
「そうだね……思ったよりも疲れたわ」
「私も……あまり動きたくないかも」
凪から聞いていた話では魔石採取に失敗すると買い取ってくれないらしいけど、十八個の魔石をちゃんと買い取ってくれたので、二人が一生懸命に取り出してくれたのが分かる。
最近は収入も増えたので、こういう日は外食でも問題ないくらい稼いでいる。
特に昨日の収入を考えれば、当分の生活は全く問題ないだろう。
家に帰る前に繁華街に向かう。
ダンジョンから少し離れた繁華街は、僕達が住んでいる町とはまるで違う華やかさがあった。
いろんな色のネオンが光って、通り抜ける人々も綺麗な服を身にまとっていた。
ふと、妹が来ている服を見る。
彼女自身の魔法のおかげで清潔は保たれているけれど、服のダメージは隠しきれない。
僕自身の服も傷が目立っていて、通り抜ける人々が僕達を見ては笑いながら通り抜ける。
その視線を見て見ぬふりをする妹。
絶対に……絶対に妹に同じ思いはさせないと心の中で誓う。
まだ僕は弱い探索者なんだけど、モンスターカードを集めれば普通の探索者と同じくらい戦えるかも知れない。
「ここがおすすめの食堂だよ」
凪の声が聞こえて来て、我に戻って前を見ると、繁華街から少し奥に入った道にある小さな喫茶店だった。
入口には丸い円の中に黒い猫が描かれていて、風に揺れて動く仕掛けになっていた。
扉を開いて中に入っていく。
「いらっしゃいませ~」
すぐに僕達を迎え入れてくれる声が聞こえてきて、可愛らしい白黒のメイド服を着た六花くらいの年齢の女の子が出迎えてくれる。
「あら、お久しぶりです。凪さん」
「久しぶり。今日は仲間と一緒に来たよ」
「わあ! 凪さんのお仲間さんなんですね! 喫茶店『黒猫』へようこそ! こちらにどうぞ」
わざとらしい笑顔とは違い、心の底から歓迎してくれる笑顔で案内された。
テーブルに座ると手慣れた運びで水とメニューを運んできた。
メニューを開いて六花と共に覗く。
どれも美味しそうなメニューが並んでいて、食べ物だけでなく飲み物も充実している。
「ここは量も多くてシェアがおすすめよ?」
「そうなんだ。じゃあ、せっかくならシェアして食べようか」
「賛成~!」
パスタ二種類とオムライスを頼んで、それぞれ紅茶を頼んだ。
先に運ばれた紅茶は今まで飲んだ飲み物の中でもっとも美味しくて、料理も楽しみだ。
「にぃ。昨日はあれを簡単そうにしてたけど、凄く難しかったよ?」
「そうなのか? ずっと採取を続けていたから気にしたことはなかったけどな……」
「魔石って思っていたよりもずっと柔らかくて、ナイフで簡単に傷つけてしまうし、ゴブリンとはいえ、中を捌くの凄く大変だった…………」
「ふふっ。初めてなのに凄く上手だったよ? 六花ちゃん」
「にぃが頑張っていたからねっ! でも自分から買い出てまでやりたいとは思わないかな……」
「少しだけ待ってな? 僕も頑張るから」
妹のためにも早めに強くなりたい。
初めて倒したゴブリンからモンスターカードがドロップして、特典まで獲得できたのはいいんだが、実はそれから倒したゴブリンからはモンスターカードがドロップしなかった。
通常スキルというのは、ステータス画面を選択した際に詳細が表示されるのに対して、僕が持つ『カード』というスキルは選択ができず、内容が分からない。
いま分かっているのは、スキル『カード』
ここで大事なのは特典が与えられるのではなく、スキル『カード』で獲得したモンスターカードという点だ。
色んな仮設を立てながらゴブリンを倒してみたけど、モンスターカードが出現する事はなかった。
そこで一つ仮説を立てるなら、初めてゴブリンを倒した時にモンスターカードがドロップした事から、もしかしてモンスターカードが確定でドロップする可能性がある。
これからその条件をも考えて色々検証していこうと思う。
妹と凪が魔石採取の難しさを沢山語ってくれる中、美味しそうな料理が到着してテーブル上を華やかに染めてくれた。
大皿に入っている料理をそれぞれ皿に取って食べ始める。
妹も凪も非常に料理が上手くて美味しいのに、お店の料理はそれに引けを取らないくらい美味しくて夢中になって食べ進めた。
というより…………僕達兄妹が久しぶりに忘れていた外食の味もあったのかも知れない。
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