第11話 初めての勝利
次の日。
ダンジョンの前で六花と一緒に待っていると、美しい銀色の髪が視界に入る。
嬉しそうな笑みを浮かべた凪が楽しそうにやってきた。
「「おはよう~」」
「おはよう! 今日も頑張ろうね!」
やけにテンションが高いのだが、あからさまに両手を後ろに向けているのが気になる。
「ふふっ。じゃじゃ~ん!」
わざわざ効果音を言葉にするのがまた可愛らしい。
彼女が前に出してくれたのは――――1メートル程の長さで刃がキラリと光る長剣だった。
「これは?」
「今日初めて戦うんだから、短剣よりもこっちの方がいいと思って! 高い物だと受け取らなさそうだから、安いの買って来たよ~」
「!?」
「昨日の稼ぎの一部だから気にしないで。それにケントくんには早く強くなってもらいたいからね」
「分かった。ありがたく使わせてもらうよ」
受け取った長剣は、短剣とは違い、ずっしりとした重みを感じるが、ステータスが上昇しているからか、重くて邪魔な感じは全くしない。
柄を握り、軽く振り回してみたが、なんの違和感もなく振り回せた。
「私は刃が長い刀を利用しているけど、もしそれに慣れたら盾と剣を使うといいかもね。一番バランスの取れた装備と言われているから」
「分かった。参考にさせてもらうよ」
「うんうん。何はともあれ、まずはそれで戦ってみよう~!」
「にぃ! ふぁいと~!」
二人の天使に背中を押されながら、僕はダンジョンの中に入っていった。
いつもダンジョンに入った感じと少し違う感覚がある。
今までは魔石を採取する事しか考えていなかったけど、今度は戦う事を意識すると、一気に全身に力が入る。
強張る体を動かして先頭を走っていく。
後ろから妹の支援魔法のおかげで少しだけ落ち着きを取り戻して、平原になっているダンジョン一階を歩き始める。
前方にゴブリン三体を確認した。
一人でゴブリンと対峙すると、より醜くおぞましい姿に緊張が走る。
ゴブリンたちが一斉に僕を見つめて、殺気が放たれる。
魔物が人を捕捉するとすぐに敵意をむき出すのは知っていたけど、そこら辺の動物どころじゃない。
昨日、夕飯を食べ終えて、凪から少し教わった通りに剣を構える。
両手で剣を握り、左足を前に、右足を後ろにして軸を右足にするために力を込める。
まっすぐやってきたゴブリンが長剣を振り回すと届く範囲に入ると同時に、思いっきり右から左に薙ぎ払う。
剣の鋭い刃が左のゴブリンの肌を易々と通り過ぎると、何度も見て来たゴブリンの血が噴き出した。
感傷に浸る間もなく、薙ぎ払うと同時にゴブリンがいない方向に真っすぐ飛び跳ねる。
僕が元々立っていた場所にゴブリンたちが飛び上がり、その手に持った棍棒で叩きつけていた。
着地と同時に左足を回転させ向きを変える。
まだ地面に棍棒を叩き込んでいて、その視線が僕に向く。
またもや右足に力を込めて地面を踏み込んで走り出す。
ゴブリンたちが体勢を整える前に、手前にいるゴブリンの首を狙って、通り抜けざまに思いっきり剣を振り回した。
先とは違い、剣に何か引っかかるモノを感じたが、全力で振り回した剣は止まる事なく僕の視界に映った。
剣と共に僕の体も一回転しながらゴブリンを通り抜けて着地して、足で勢いを止めて視線を向けると、ゴブリン一体がその場に倒れていた。
残ったゴブリン二体がこちらに向かって勢いよく走ってくる。
手に持つ棍棒が僕に向かって叩きつけられる中、大きく振りかぶった隙に長剣を前方に突き刺す。
伸ばした長剣がゴブリンの首に刺さり、隣のゴブリンが容赦なく僕に叩きこんだ。
剣はすぐに戻せず、両手を放して叩きつけられた棍棒を両手を防ぐ。
強烈な痛みと共に僕の体が後方に大きく吹き飛ぶのが分かる。
飛んでいる最中にも思考を止めない。
一撃を貰ったが、両手を急いで止めたのが功を奏したのか、まだまだ動ける。
体勢は崩れておらず、飛ばされた先に素直に着地できた。
「にぃ!」
後ろから妹の声が聞こえる。
しかし凪が止めているのか、それ以上は何も聞こえなかった。
正直に言えば、とてもありがたい。
彼女達の介入なしでゴブリン三体を倒したかった。
だからこそ、今も冷静に現状を確認する。
残るは一体のゴブリン。
僕が突き刺した長剣のゴブリンは既にこと切れて倒れているが、残ったゴブリンの後方にある。
両手が自由に動ける事を確認する。
以前聞いた話では、力というステータスが増えていれば、腕力だけでなく防御力も増えるから、こうして殴られてもそれほど被害はない。
念のため腰の後ろに付けていた短剣を取り出す。
前よりも間合いがぐっと短くなった。
ゴブリンがこちらに走ってくるのを見て、僕も走り出した。
策があるわけではないけど、短剣でできる事は何かを考えると、
視界の先、約十メートル。
九……八…………五……四……今だ!
右手に持っていた短剣を全力でゴブリンの足下を目掛けて投げ込む。
ゴブリンは知性が低いと聞いていたから、それを避けられないと知っているからこそ、短剣がゴブリンの足下に刺さって転ぶ。
僕はそのまま全力疾走でゴブリンを飛び越えて、その先にある僕の長剣の下にたどり着いた。
ゴブリンの首元に刺さり、倒れ込んだゴブリンのせいで地面に真っすぐ刺さっているようになった長剣に手を掛ける。
ゆっくりと引き抜いて振り向く。
足に短剣が刺さって動けないゴブリンにゆっくりと近づいて、僕は
「っしゃああああ! 勝った!」
走ってきた二人が僕に抱き着いて、勝利に酔いしれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます