第9話 開花を始める力
「にぃ? 驚きすぎじゃない?」
「そ、そ、それが、が、が、が、が」
「同じ言葉を繰り返しているよ?」
知ってるよ! 驚きすぎて言葉がでないんだよ!
「声が心になっているよ?」
「あ、こっちが声か」
人間驚きすぎると声がでないというのは本当なんだな。
「六花のスキルよりも、僕自身のスキルで驚いてしまったんだよ」
「むぅ……私のスキルは微妙なの?」
「いやいや! 六花のスキルも
「ほんとぉ?」
「うんうん!」
ジト目の妹の頭を撫でて機嫌を取る。
「六花ちゃんのスキルって本当に凄いよ。全ステータスを上昇させる支援スキルなんてあまり聞かないし、内容も3割上昇なんて、世界中からオファーくるくらいだよ? だからこの事は秘密ね? 二人とも」
「「っ」」
両手で口を閉じる。
「ふふっ。兄妹、息ぴったり」
一緒に両手で口を閉じている妹と目が合って、三人で笑い声をあげた。
「さて、次は僕のスキルなんだけど、『アップグレード』というスキルを獲得したよ」
「「アップグレード?」」
「どうやら装着したモンスターカードがアップグレード――――進化するみたい」
「進化!?」
それがどういう意味か察したのか、凪が目を輝かせる。
「僕が持つカードはゴブリンカードしかないんだけど、装着している五枚が全部
「十倍!? という事は、力が50も上がっているんだね?」
「ああ」
すると何かを考え込んだ凪は、暫くして続けた。
「じゃあ、明日からケントくんも一緒に戦ってみよう」
「えっ?」
「元の力は恐らく5?」
「あ、ああ」
「という事は、1だった頃では分からないかも知れないけど、60くらいになるとゴブリンくらいなら余裕で倒せると思う。でも力に溺れてしまわないように、ゆっくり慣れていこう」
「僕が……魔物を…………そっか。もうこんな場所まで来たんだな……」
と言っても、レベル上げをしてまだ一日だけど、彼女の力だけで1から5まで上げられるなんて、思いもしなかった。
「レベルは、5までなら実は簡単に上がるのよ? 弱い才能でもゴブリンを一日三体倒せば、一か月もあれば5になれるからね」
…………はい。十歳から十五歳になるまで毎日魔石採取をしておりました。
五年もゴブリンの魔石採取をしていたらそりゃ上手くなるよな。
採取した魔石が百個を超えているので、持ち運びが難しいなと思ったら、凪が持って来た折り畳み式バックをいくつか取り出して、魔石を詰め込んでそれぞれが手荷物。
僕も妹と凪も両手にバックを持つ奇妙な光景だ。
ダンジョンを後にして外に出ると、すっかり日が落ちそうになっていた。
ふと空を見上げる。
空高く聳え立つ塔は、いつも不安と絶望ばかり覚えていたのに、こうして眺める塔は初めて清々しい感情が混みあがってきた。
遥かに高い塔のてっぺんは見えないが、どこまでも続いている塔の高さは、今なら希望のように感じる。
「にぃ?」
「ああ、ごめん。ちょっと懐かしくなってさ」
「懐かしい?」
「ああ。この塔を初めて見上げた時にさ。夢が膨らんでいたんだ。これからどんな冒険が待ち構えているのだろうか。これから僕はどんな探索者になるのだろうかと夢を膨らませていたんだ。でも上手くいかなくて今日までずっと下ばかりみて、空高い塔の高さには一切目をやる余裕がなかった。こうして見上げる塔は――――――最高だな」
「ふふっ。でもあまり見上げすぎると首痛めちゃうよ?」
「その時は六花頼むよ~」
「んも~私の力をそんな無駄な事に使うな! 治してあげるけどっ」
やっぱり世界一優しい妹が一番だな。
僕と同じく塔を見上げているもう一人の天使。
「凪?」
「…………私、塔を見上げた事なかったかも」
「そうなのか?」
凪に近づいて同じく見上げる。
六花も見上げて三人で聳え立つ塔に視線を奪われる。
「そうか。私達はこういう場所を登っているのね。そうか…………」
何か思いつめたような言葉のように聞こえる。
僕がダンジョンに入るのは、収入を得るためだけど、凪がダンジョンに入る理由は知らない。
当たり前のように考えれば収入を得るためにダンジョンに入る人が多い中、違う理由で入る人だっているはずだ。
「凪はどうしてダンジョンに?」
「…………私は、姉さんを追いかけたいんだ」
「姉さんがいるのか?」
「うん。とても遠い遠い…………いつか追いつけたらいいなと思う目標なの」
凪は一人でも既に強い探索者だ。
ダンジョンを上り続ければ、より強い魔物が現れるけど、その分レベルを上げられるようになり、結果的に自分も強くなれる。
凪が目指している場所は、そういう高い頂なのだろうな。
「僕には凪のような大層な理由はない。でも六花と一緒にこの世界を毎日生き抜きたい。僕達に手を伸ばしてくれた凪には感謝しているし、今は仲間だと思っている。まだたった一日しか経ってないかも知れないけど、凪が目指すなら僕はどこまでも一緒に行くよ」
「私も!」
「二人とも…………」
天使の曇っていた表情が少しずつ和らいで、満面の笑みを浮かべた。
「うん。これからもよろしくお願いします」
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