第8話 パーティー

 『ステータス』画面の裏側。


 そこには『パーティー』という項目が存在する。


 今までずっと空欄だった場所に、田中六花と綾瀬凪という名前が追加された。


 二人と不思議な感覚で繋がりを感じる。


 これはいわゆる『パーティーメンバーの絆』と言われている現象で、長年分かり合うメンバーは本人達が大体どこの方向にいるのかが分かるという。


 でも僕達は今日パーティーメンバーになったばかりなのに……?


 六花は妹なので分かるけど、凪はどうして…………まぁいいか。


 凪から何か危険な事があった場合使えと高そうな短剣を二振り貰った。


 非常用に持っていたらしいけど、僕と妹用に一本ずつ。


 断りたかったけど、軍蔵の事が頭に過って、借りる形で受け取った。


 その短剣を手に、本日メンバーでダンジョン一階にやってきた。


「このフロアはゴブリンが主体の階だけど、基本は三体ずついるので気を付けてね」


 凪の言う通り、このフロアは最弱魔物ゴブリンだけの階層だ。


 三体ずつペアで現れるので、軍蔵のように強い人は取り巻きを使ってゴブリンたちを引っ張って来て一掃するのが定石だ。


「パーティーメンバーは経験値が均等に分けられるので、私一人で倒しても二人はレベルが上がると思う。最初は二人のレベルを少し上げる事にしよう」


「いいのか?」


「うん。でも一つ誤解しないで欲しいのは、まず六花ちゃんのレベルを上げる事が、私にとって一番優先事項だからだよ。彼女の才能はレベルを上げれば、ものすごい効果をもたらすと思う。それとケントくんは――――投資のようなモノね」


「投資…………」


「君が持つ才能は聞いた事がない珍しい才能だからね。しかも『モンスターカード』に関する才能だとすると、成長した際の効果は高いかも知れない。それに私が戦っている間に後衛を守ってくれる人が欲しいから、ケントくんにも頑張ってもらわないとね」


「分かった」「私も頑張る!」


 先頭を凪が歩き、僕達がその後を追う。


 少し進んだところにいつも見ている緑肌の人型魔物ゴブリンが三体いた。


「っ……気持ち悪い…………」


 妹が素直な感想を並べる。


 小さく笑った凪が、一瞬でその場から消えてゴブリン三体の後方に現れる。


 瞬きするとゴブリンたちがその場に倒れた。



 ――【経験値を獲得しました。】



 初めて聞くアナウンスに思わず持っていた短剣をより強く握りしめた。


 いつか自分もレベルアップして強くなって、妹に美味しいものを食べさせられると願っていた。


 それがこんなに簡単に手に入るとは思わなかった。


 それから凪がどんどんゴブリンを倒す中、僕は今までやった通り、ゴブリンの体を開いて魔石を取り出した。


「にぃ……いつもそれを?」


「ああ。もう慣れたから返り血も浴びなくなったな。あはは~」


「…………」


「でもな。こうして頑張ってきて良かったよ。凪に認めてもらえたからね。だからそんな悲しそうな顔はしないでな?」


「うん。ちゃんとにぃの頑張りを見届ける!」


「おう。その意気だぞ! って!? ゴブリンの死体がこんなにも増えていく!? や、やべ! 急がないと!」


 軍蔵のようにまってくれないうちの天使様は、ある意味人使いが荒いなと思った。



 ――【レベルが1から2に上昇しました。】



 無我夢中に魔石採取を行っていたら、レベルアップのアナウンスが聞こえた。


 妹も聞こえたようでお互いに顔を合わせて笑顔を浮かべた。


「そういや、六花の才能ってどんな感じの才能なんだ?」


「ん? ん~こんな感じ? スキル『浄化』!」


 僕に手をかざすしてスキルを呟くと、僕の体に淡い青い光が灯った。


「!? こ、これは!」


「どうよ! 凄いでしょう!」


「六花……お前…………」


「えっへん!」


「これができるなら今まで洗濯する必要なかったじゃん」


「だって……」


 いくら返り血に気を付けて入れても魔石を取り出す時に多少は付着して匂いがするのだが、妹のスキルで付着していたゴブリンの血が洗浄されて消えている。


 匂いもしないし、服がまるで新品のようだ。


「まあ、これからも頼むな。おっと、魔石採取を急ごう」


 妹のスキルがあるならと、返り血など気にせず少し速度を上げた。


 その日、まさか百個にも届く魔石を採取するとは思いもしなかった。


 短剣を握っていた右手が少し痺れたが、妹の「スキル『ヒーリング』!」というスキルで痺れすら一瞬で吹き飛んだ。


 うちの妹、万能すぎるんじゃ?




「お疲れ様」


 座って休んでいると、水筒を渡してくれる凪。


「こちらこそ。ありがとう」


「魔石採取がこんなに早い人も初めてみたよ。それにまさか全部成功するなんて」


「そうか?」


「うんうん。探索者ギルドに言うとみんなから驚かれるわよ?」


 そんなもんか? 僕は普通の事だから気にならないな。


「そういえば、二人ともレベル5に上がったんだっけ?」


「ああ! そうだった! ありがとう」


「ありがとう! 凪姉!」


「ふふっ。二人ともどういうスキルを手に入れたの?」


 レベルが5の倍数で新しいスキルを獲得できる。


 そして最初の5で得られるスキルは、才能を最も象徴するスキルだと聞いたことがある。


「私はね~スキル『サンクチュアリ』!」


 妹を中心に半径十メートルの床に淡い緑が光り輝く。


「……! 凄いわね。『ステータス』が凄く増えたよ」


 驚く凪に釣られて、僕も『ステータス』を覗いて、声を上げてしまうほど驚いてしまった。




---------------------

 名前:田中栞人

 才能:カードコレクター


 加護:聖域


 レベル:5

 魔素 :1

 力  :5+30% +50

 器用 :5+30% +50

 素早さ:5+30%

 魔力 :0


 武器 :鋼鉄の短剣(攻撃力+40)

 防具 :なし

 装飾品:なし


 カード:ゴブリン+

 カード:ゴブリン+

 カード:ゴブリン+

 カード:ゴブリン+

 カード:ゴブリン+


 アクティブスキル:なし


 パッシブスキル:

 『カード』『アップグレード』

---------------------

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る