第6話 可愛い天使と美しい天使
「ああん? ――――――!? 銀姫!?」
その場にいた全員の視線が声がする方に注目すると、美しい銀色の髪を鳴り響かせた美少女――――孤高の双剣銀姫がこちらを見つめていた。
「それ以上やったら、その子、死ぬよ?」
「おいおい、銀姫とあろう者がこんな雑魚を気にするのか?」
「彼が弱い強いではなく人として命は平等よ」
「ぷっ、あははははは! 平等だ!? こんな雑魚の命なんざ、誰も気にしない! 国だろうが、探索者だろうが、こいつみたいな雑魚の命なんざ、どうでもいいんだよ! 世界は弱肉強食! こんな雑魚に構っている暇はねぇんだぜ!」
軍蔵の言う通りだ。
僕の才能はハズレ中のハズレのカード系才能だ。
才能だけでも強ければ国から援助して貰えるのだが、弱い才能に援助するほど、今の日本に余裕はないという。
「私は貴方より彼が生き残った方が世界のためになると思うけど?」
「…………はあ?」
「貴方みたいなのより、彼が生きてくれた方がずっとずっと人類のためになると思うよ? だって、貴方たちでは魔石を取り出せないんでしょう?」
魔石を取り出せない?
「魔石採取はとても難しい仕事よ。それを
「ちっ。それ以上言ったら、てめぇもぶっ殺すぞ」
「…………やれるもんならやってみたら?」
軍蔵と取り巻きが武器を取り出して睨む。
取り巻きが先に彼女に襲い掛かる。
続いて軍蔵も走り抜ける。
いくら彼女が強いと言われても多人数との戦いは分が悪いはずだ。
僕に何かできることはないか考えていたその時。
たった一瞬で、彼女の双剣が全員を吹き飛ばす。
何が起きたか目で追えないくらいに早い。
切り傷はないので、状況から考えると柄部分で叩き込んだように見える。
軍蔵ですら一瞬でその場に沈んだ。
「もし彼や彼の家族に手を出したら私が許さない。覚悟しておくことね」
そう言い残した彼女は僕の下にやってきて、細い腕で僕を抱き上げた。
まさか生まれてお姫様抱っこされるとは思わなかったけど、全身の痛みから一切動くことができず、現状を受け入れるしかなかった。
ダンジョンを後にして、彼女に聞かれるまま家まで道を案内した。
視界すら霞んでいたけど、きっと周りの人達から見られていたに違いない。
そもそも僕はゴブリンの血で酷い悪臭がするはずなのに、それをものともせず運んでくれる彼女から優しさが伝わってくる。
「にぃ!?」
遠くから驚く声が聞こえて、僕に目掛けて全力で近づいてくる妹が辛うじて見えた。
「六花……ごめん…………」
「ううん……私こそ……本当に……ごめんなさい…………」
なぜか妹が大きな涙を浮かべて僕に謝ってくる。
「悪いけど、今はゆっくり休ませた方がいいと思うの。家の中に案内してくれる?」
「は、はい! こちらです!」
妹の声が聞こえて、安心してしまったからか、僕の意識はそこで途絶えた。
◆
「ん…………っ……」
「にぃ! 目が覚めた?」
「六花……?」
「うん。六花だよ?」
不思議と体が軽い。
ゆっくり手を伸ばして涙を浮かべた妹の頬に触れる。
小さく笑顔になる彼女の目元の涙を親指で拭う。
「ごめんな。六花」
「ううん……私こそ本当にごめんなさい…………」
「どうして六花が謝るんだ?」
「…………私、ずっとにぃに嘘ついてたから」
「嘘?」
「うん」
ゆっくりと体を起こすと、意外にも体が軽くて驚く。
自分の体に触れてみると傷一つない。
「あれ? 傷が一つもない!?」
「うん。全部
「!?」
「ごめんね。にぃ。実は私ね。強い才能を開花しているんだ」
「ええええ!? 洗浄師という才能なんじゃないのか!?」
妹から聞いた才能は洗浄師という才能で、皿とか綺麗に洗浄する力を持っていると聞かされている。
それに妹が洗ってくれた皿は本当に綺麗で、その才能の名の通りだなと思っていた。
「えっとね。私の力で――――浄化していたんだ。だからにぃを騙せていたの」
「…………」
「本当にごめんなさい」
深々と頭を下げる妹。
しかし、理由もなく僕に嘘をつくはずもない。
「六花が理由もなく嘘をつくとは思えない。どうしてか聞かせてくれる?」
「うん。政府が強い才能持ちを探しているのは知っているよね?」
「ああ」
「実は強い才能持ちはね。強制的に探索者にされるんだ。政府直属のね。私の才能も恐らくそうなると思う。きっと待遇は良いと思うんだけど…………にぃと離れて生活しないといけなくなると思う」
「っ!? そ、それはダメだ!」
「えへへ~そう言ってくれると思った。だからずっと秘密にしてたの。でもにぃを治すために力を使ったから――――
「綾瀬さん?」
「にぃを連れて来てくれた人」
僕を…………?
「ああああ! 銀姫!?」
「そういうあだ名なんだ? たしかに綺麗な銀髪だもんね。綾瀬さんにもちゃんとありがとうって言いなよ?」
「もちろんだ。でも彼女といつ会えるか……」
「うん? いるよ?」
そう話す妹が扉を開くと、扉から見える厨房にエプロン姿で料理をしている銀姫が見えた。
「あら、起きたわね。おはよう?」
「お、お、お、おはようございますううううううう!」
うちに天使がもう一人いた。
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