第2話 弱者の覚悟
ゴブリンの返り血の匂いが鼻に付く中、急いで家に帰って来た。
ボロ屋が多く続いていて、その一角に入ると窓際から影が動き出して、すぐに玄関の扉が開いた。
そして、中からマスクを付けた可愛らしい女の子が一人、外に飛び出してくる。
「にぃ! 用意してあるよ!」
「でかした! すぐに入るよ!」
「うん!」
靴にだけは返り血が当たらないしているので、靴はそのまま脱ぎ捨てて真っすぐ風呂場に入る。
着ていた服を全て脱ぎ捨てて、大きな桶の中に入れて、用意された湯舟に入る。
ぬるい水だが、あの悪臭から解き放たれる最高の風呂なのは間違いない。
「にぃ」
「!? こ、こら!
「いいじゃん。風呂中も服で臭いだろうし」
ずかずかと風呂場に入っては、僕の裸(上半身)を見てニヤッと笑っては脱ぎ捨てた服の洗濯を始める。
強烈な匂いに嫌な顔一つせずに洗濯する妹に少し情けない兄だなと悲しくなってしまう。
僕達兄妹は僕が八歳のころ、スタンピードに巻き込まれてしまい、両親を亡くしてしまった。
頼れる親戚もなく、スタンピードによる被害で多くの被害者が出てしまった日本で、国からの援助は最低限なモノのため、僕達はこうしてボロ家で二人で生きている。
食事も最低限しか手に入らないので、唯一やれそうな仕事――――魔石採取のバイトをしているのだ。
だから毎日悪臭の服を洗濯する必要があって、こうして妹が嫌な顔一つせず洗ってはくれる妹には感謝するばかりだ。
ダンジョンによって色々事情が変わった日本は、昔は毎日の大半を学校に通っていたそうだが、今は月火水の三日で午前中のみの必要最低限の授業しか受けられない。
授業がない木曜日からは毎日軍蔵の所でバイトだ。
「にぃ。申し訳ないな~とか思わないでよね」
「えっ!?」
「えっ、じゃないの。私は楽に暮らしたいと思ってないから。にぃと一緒に暮らせるならそれでいいの。贅沢なんてしなくていいから…………だからね? 探索者を目指すのはいいけど…………絶対に無理はしないでよ」
探索者とは、ダンジョンに潜り、素材を持ち帰り富を築く者をいう。
探索者にもランクが存在して、ダンジョンの攻略を進めばランクが上がり、ランクが上がれば国からの待遇も良い。
しかし、探索者の一番怖い所は――――いつでも命を落としてしまう危険が付きまとうという点だ。
あと少しと無理をして命を落とす探索者が後を絶たないのだ。
妹もそれを知っているから、探索者を目指している僕を心配している。
「絶対無理はしない。約束するよ」
「うん。分かってるなら良し」
探索者にはなりたい。でも全く無理をせずにはなれない。でも妹を泣かせる事だけはしたくない。
◆
次の日。
今日は軍蔵のバイトは休み、買取センターにやってきた。
売るためではなく、買取ポイントを使った特典と交換するためだ。
買取センターの右手にある一角に受付があって、そちらの整理券を取ると、思いのほか早いタイミングで呼ばれた。
「いらっしゃいませ。こちらの手をかざしてくださいませ」
受付嬢に言われて不思議な魔方陣が描かれた板に手をかざすと、ポイントが表記される。
「1,000ポイントを確認しました。これで交換できる特典を案内致しますが、種類が多いので、才能を教えて頂ければ、私からおすすめを案内させていただきますが、いかがなさいますか?」
「は、はい。それでお願いします。僕の才能――――――『カードコレクター』という才能です」
「カード系の才能ですね。ではそちらのモノをいくつかピックアップしますので、少々お待ちくださいませ」
才能には大きく分けて四種類に分けられている。
一つ目は、身体能力が上昇する物理系才能。
二つ目は、魔法が使えるようになる魔法系才能。
三つ目は、魔物の素材を使って加工する製造系才能。
四つ目は、そのどれにも属していない特殊系才能がある。
僕は四つ目の特殊系才能で、その中でも『モンスターカード』系統の才能になる。
才能はレベルが上昇すれば、それに伴うスキルを手に入れる事ができるのだが、僕が持つ唯一のスキル『カード』は内容が全く分からなければ、そもそも僕の力を活かすには『モンスターカード』を手に入れなければならない。
『モンスターカード』というのは、魔物を倒した際に稀に現れる不思議なカードで、『ステータス』に計五枚まで装着する事ができて、装着した事で特殊な力が手に入る。
特殊な力は全てのカードで内容が決まっているので、人気があるカードを狙って固定狩りをする探索者も多くいたりする。
獲得できる確率があまりにも低いので、一枚だけでかなりの額が稼げたりする。
買取センターの横には、カード専用のお店なんかもあるくらい、世界は『モンスターカード』を欲しがっている。
高額なカードを手に入れないとスキルを活かせられなければ、カードを手に入れても他の才能より強くなれる訳でもない。
だからこそカード系の才能は
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