特殊警察人獣防衛隊

@izuizu23

第1話 夢を見た日

あの日のことは今でも夢に見る。


すべてが始まった日。

目指すべきものが見つかった日。

こうなりたいと思った日。

夢を見た日。


あの日、僕は小学6年生の時だった。

防災訓練か何かで全校生徒が校庭に集められていた。多くの生徒が長い校長の話に飽きて近くの友達と話し始めてしまいざわついていたように思える。

僕、一ノ瀬 碧もその例にもれず周りにいた3、4人と年相応なくだらない会話をしていた。

そんな時だった。


隣にいた一人が突然動きを止めた。

瞬間体を巨大な肉塊が覆いつくし近くにいた僕を含めた数十人が弾き飛ばされる。

何が起きたか理解できず、弾き飛ばされた衝撃で目に涙が浮かぶ。しかし、自分を覆い隠す巨大な影を生み出す正体に目を向けると、泣く余裕すら吹き飛んでしまう。

そこにいたのは、体がバラのような植物で作られた巨大な怪物。テレビでしか見たことのなかった『人獣』と呼ばれる人を襲う生き物。

四階建ての校舎と並ぶほどの巨体。軽く腕のような蔓を薙いだだけで子供だけでなく大人である教師でさえ吹き飛ばされる。

ほとんどゼロ距離にいたため吹き飛ばされ距離をとることができているが、中途半端な距離にいた子供たちは潰されたり蔓で体を絞められ被害者が出始める。

近くを巡回していた警官が駆け付け応戦するが意にも介さず人獣は人を襲う。

多くの者が命を落とすことを覚悟し、放心する者も現れ始めたそんな時だった。


どこからともなく現れた一人の青年により、人獣の首は落とされた。

刀身の長い片手剣を軽く振り刀身についた血を払う。ゆっくりとこちらを振り向いた暗い青色の髪をした青年。テレビで見慣れた、人獣と戦う者たちのトレードマークである黒いマント。それが風で軽くなびいていた。

その時僕の夢は決まった。決まってしまった。

命を懸けて人々を守るその者たちに、見惚れてしまった。惹かれてしまった。憧れてしまった。


(いつか…いつか僕もあの人と同じ防衛隊に───)



カーテンの隙間から入り込むわずかな光しか存在しない暗い部屋にスマホのアラームの音が鳴り響く。

少し高いところにおいてあるスマホをベッドの中から手探りで探し今日の日付を確認する。


『四月八日』


スマホを置きベッドから起き上がる。カーテンを開けると日光とともに向かいの家に植えてある桜の鮮やかな桃色が目に入る。

今日は記念すべき高校二年の始業式。数年、待ちに待っていた日。

顔を洗い、身支度を整え制服に腕を通す。春休みの間着ることがなく、久しぶりに腕を通した制服は入学の時ほどではないが、気持ちを新鮮な気持ちへと変える。

一階に降りると母が朝食の準備を終えてテレビを見ていた。

「おはよう、母さん」

軽く挨拶をして、席に着き朝食を口に運ぶ。

「おはよう、今日はどうしたの?いつもは起こしに行くまで起きてこないのに」

軽くこちらを見るとテレビに向き直り質問を投げかけてくる。

「別に。新学期の始まりくらい良い気分で始めたかっただけだよ」

テレビで流れる天気予報を見ながら話し半分で母の質問に返事をする。

朝食を手短に口に詰めこむと、歯磨きをし部屋からスクールバッグを持って玄関へと向かう。靴を履いていると、リビングから母が顔を出している。


「碧、そういえば今日進路選択の日でしょ?詳しく聞いてなかったけど進学するのよね?」


靴を履き終え、扉を開ける。まだ少し肌寒い春の風を感じながら母のほうへと振り返る。今日、夢を叶えるための第一歩を踏み出せると思うと口が緩むのを抑えきれない。少しはにかみ、母のほうへと振り返ると言った。


「いや、母さん。僕は防衛隊に入るよ」









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