第7話 卑怯な騎士様

「他の者は手を出すな!こいつは私の獲物だ」


ロイ殿下は剣を抜いた。


「おいおい。本当にいいのか?手伝ってもらったほうがいいぜ」

「へらず口を叩けるのも今のうちだぞ」


ロイ殿下は剣を構えた。

この構えは、王宮剣術だ。

貴族や王族のみが習得できる秘伝の剣術。


「ははは。いい構えですなあ。殿下!」

「貴様、早く構えろ」


平民の俺は王宮剣術は使えない。

俺の剣術は我流だ。

辺境のスラムで覚えた卑劣な剣。

だからご立派に剣を構えたりなんかしない。


装備も、俺とロイ殿下じゃ全然違う。

ロイ殿下は、豪華な金ピカのごつい鎧だ。

対する俺は、皮の鎧だ。殿下の剣を受けたら、ひとたまりもない。

たが、防御力が低い分、早く動ける。


俺はスラムで「血風のナイフ」と呼ばれていた。

風のようにふわりと、相手の喉を切り裂くからだ。


「どうぞ。先にやらせてあげます。俺に瞬殺されたら、殿下も格好がつかないでしょう?」


俺はやれやれと肩をすくめた。


「貴様!死ね!」


ロイ殿下が剣を振り下ろしてきた。

正々堂々、真正面から来る。

ひょいっと、俺は避けた。


「殿下!惜しい!」


俺は手を叩いて笑った。


≪あいつ、殿下の剣を避けたぞ≫

≪あんなに易々と避けるとは≫

≪見たことない動きだ……≫


後ろの近衛兵たちの声が聞こえる。

貴族の坊やたちは見たことないだろう。

本当の殺し合いってものをな。


「貴様!騎士だろう!本気で戦え!」

「……本気出しちゃって、いいんですか?」

「ふざけるな!」


今度は横からだ。

俺は身を屈めて、剣を避けると、ロイ殿下の背後に回り込んだ。

鎧には、膝の裏に僅かな隙間がある。

その隙間に、するりと剣を差し込んだ。


「ぐわ!」


ロイ殿下はよろけて、膝をついた。

鎧の左足から血が流れてきた。


「あんたじゃ、俺に勝てないよ」

「卑怯な手ばかり使いよって……」

「喧嘩は勝てばいいんだぜ」

「お前たち!さっさとこいつを殺せ!」


ロイ殿下は後ろの近衛兵たちに叫んだ。


「あら?他の者は手を出しちゃいけないんじゃ?」


自分が負けそうになれば、平気でルールを破る。

卑怯なのはどっちなんだよ。


「お前ら。一歩でも動けば、両手がなくなるぜ。こいつみたいにな」


俺は床に転がっている近衛隊長を指差した。

痛みに耐えきれず、のたうち回っていた。


「早く治療してやれよ……さあ、どけ!俺と聖女様は出て行くからな」


俺は聖女様の手を取った。


「アルフォンス……本当に大丈夫なの?」


聖女様は怯えていた。

不安で押しつぶされそうなんだろう。


「大丈夫ですよ。ほおら」

「きゃ!アルフォンス!」


俺は聖女様をお姫様抱っこした。


「これで安心です。私の首にしっかり捕まってください」

「なんだか恥ずかしいわ……」


恥ずかしがりながらも、俺の首に縋りついた。


「ふふ。どこまでも俺はお供しますから」




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