僕と彼女

「君はどうして青くいられるの?」


気が付いた時には僕の口から言葉がこぼれていた。

独り言にしては大きく、彼女を正面に見据えていた。

誰がどう見ても彼女に向けて発せられたものだという事がわかる。

いきなり知らない異性から声を掛けられる。

ナンパにしたって下手すぎるし意味不明だ。

胡散臭いことこの上ない。


「なに?」


案の定、彼女の瞳には警戒心と猜疑心が揺らめいている。

そこに先ほどまで僕が見ていた青さはない。

その時の僕はそんなことに落胆する余裕はあるのに口を開く余裕はなかった。

変なことを口走ってしまったことへの動揺が思いのほか大きく、僕は彼女からの問いかけに答えられずただ立ち尽くことしかできない。


「ねぇ、何なの?」


再び彼女の口が開かれる。

少しだけ動揺の収まっていた僕はこの時にようやく彼女の白鳥のように美しい音階を持つ彼女の言葉を言葉として認識することができた。

美しく気高い。

それに強さも兼ね備えた彼女の声はきっと多くの人を引き付けるのだろう。

僕のフクロウのような人の神経を不安にさせてしまうような声とは大違いだ。


「なんでもない、です。すみません。」


ここでようやく僕の口から言葉が出てきた。

途中で彼女が僕よりも年上であろうことを思い出し、一応敬語を付けた。

今更取り繕ったところで意味はないかもしれないが。。。。


僕は半ばやけっぱちな気持ちになりつつも彼女のことを見た。

彼女の陶磁器のように白く細い手足は簡単に折れてしまいそうだ。

そしてそんな真っ白な手足とは対照的な真っ黒い髪に瞳。

真っ直ぐに伸びた艶やかな髪は彼女の長身と相まって彼女の美しさを引き立たせている。

きっと彼女のような人が町を歩いていたら周囲の視線を集めるだろう、ということは その辺に疎い僕でもわかる。

そのくらい彼女は美しかった。


女性に免疫などあるはずのない僕は今すぐにでもこの場から消えてしまいたかった。

だけど彼女のなにか僕を引き留めて離さない。

ここで立ち去ってはいけない、僕の中の何かがしきりにそう叫んでいた。



「青いってどういう意味?」


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