彼女
彼女はそこに居た。
僕よりも少しだけ年上に見える彼女は一人でキリンの前に立っていた。
彼女も一人だったから少しだけ親近感を覚えたがそれだけだ。
特に気に留めるでもなく僕はいつもと同じようにキリンへと向かう。
年老いた彼はいつもと同じようにそこに居た。
ただ何をしているでもない。
キリン特有の長い首を伸ばしてはいるが上を見ているわけでも、餌を食べているでもない。
ただいつも遠くを眺めている。
それは自身の死期を悟ったが故の行動なのか、檻の中の生活で身に沁み込んでしまった諦めの眼差しなのかはわからない。
だけど少なくとも僕は彼のそんな瞳を見ていると安心する。
僕は彼の瞳から今日も何かを読み取ろうとする。
僕がキリンを眺めている間も彼女はそこに居た。
僕と同じように何をするでもなく、ただキリンを見つめていた。
キリンは僕の目の前にいるから彼女の位置からは側面しか見えないはずだ。
それでも彼女は動くことなく、ただそこに居る。
僕はこの辺りから彼女のことが気になり始めていた。
初めは全く気にせず自分の世界に入っていたがさすがにずっといられると気にもなる。
彼女が見ているのはキリンであって僕ではない。
そんなことは分かっていても見られているのでは?という意識が顔を出すのは仕方がない事だと思う。
自意識過剰などではないはずだ。
僕はついに我慢ができなくなり、周囲を見渡すフリをして彼女のことを盗み見た。
彼女の顔はキリンに向いている。
だが、彼女の瞳はキリンを映してなどいなかった。
その瞳は何も映していない。
目の錯覚かもしれない。
だけど僕は確かに彼女の瞳に空と同じ青さを見た。
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