04
「ちょっと、もういい加減に帰してくれない!?」
「あの……私たち、いつ帰れるんでしょうか?」
「俺、明日も朝早いんだよ。もういいだろ?」
上から順に、黒のロングヘアの女性と、金髪ボブカットの女性と、がっしりした体格の良い男性。
殺害された女性――明美さんを含めて四人でキャンプにきていたらしいが、気付けば明美さんの姿が見えず、三人で探し回れば河川敷で遺体として発見されたとのことだ。
明美さんはワイヤーのようなもので首を絞められた痕跡が残っていたらしいが、証拠となる物品は見つかっていないらしい。
被疑者三人はすでに何度も事情聴取を受けた後らしく、疲れ切った様子だ。
「……もう一度言っておくけど、私はやってないわよ!」
数秒の沈黙が落ちた後、黒髪の女性が声を張り上げる。そうすれば、他の二人も各々自分は無実だということを訴え始めた。
「お、俺だって……! 俺はあっちの方でずっと魚を釣ってたよ! 現に釣ったばかりの魚が五匹もいるんだぜ? 立派な証拠になんだろ!?」
「わ、私は、お腹が痛くて近くの公衆トイレに篭ってて……でも、明美を殺すなんて、そんなこと絶対にしてません!」
「ふむふむ、なるほどねぇ……」
三人の証言を聞いた玲衣夜は、一人納得した様子で頷くと、明美さんの遺体があったであろう場所まで歩いていき、その場にしゃがみ込んだ。
――そうして、数十秒後。おもむろに立ち上がった玲衣夜は千晴たちの横を通り過ぎ、何処かに向かって一直線に歩いていく。
「……おい、どこへ行く気だ」
理が不信感を前面に顔に出して問いかける。けれど玲衣夜は答えることなく、その足を止めない。そして辿り着いた先は、遊歩道沿いにどっしりと構えている、鮮やかな緑が生い茂った大木の前だった。
大木を見上げ、そしてそのまま視線を下ろして地面をじっと見つめる玲衣夜。突然その場にしゃがみこんだかと思えば、その手で地面を掘り始める。
「あいつ、何してんだ……?」
被疑者の男が、不思議そうな顔で首を傾げている。それは黒髪の女性も同じで……けれど、金髪の女性は違った。その顔には、動揺の色がはっきりと滲んでいる。
近づいてきた理や千晴たちに見守られる中、玲衣夜は無言で地面を掘り続けている。存外地面が固かったようで、傍に落ちていた小枝を使って掘り始めたので、千晴は近くにいた刑事からスコップを借りてきて、掘るのを手伝った。
「あぁ千晴、ありがとう。助かるよ」
「うん。……ここに、何かあるの?」
「……今に分かるさ」
スコップでざくざくと掘り進めていけば、地面の色とは明らかに異なる、鮮やかな色をした“何か”が出てきた。千晴が手を止めれば、玲衣夜は埋まっていた“それ”をそっと手にする。
「やっぱり此処にあったね」
土で汚れてしまったその手に握られているのは、青いハンカチだ。よく見ると薄紫色の花が刺繍されている。
「それ、真知子の……」
黒髪の女性が呟きながら、ちらりと視線を金髪の女性に向ける。
「これは貴女のものですね? 高木真知子さん」
「……え、えぇ、そうです。此処に着いてすぐ、どこかに落としちゃったって思ってたのに……どうしてそんなところから出てきたんでしょう?」
金髪の女性――高木真知子は、玲衣夜からの問いかけに僅かに動揺しながらも、極めて平然を装って答える。
「ふむ、なるほど。これは落としてしまったものだったんですね。ということは、拾った誰かがこのハンカチを、此処に埋めたということになります。……それは何故でしょう?」
「そ、そんなの分かりません……!」
「ふむ、そうですか。……理くんは何故だと思う?」
黙って事の成り行きを見守っていた理は、玲衣夜からの問いかけに少しだけムッとした顔をしながらも、数秒置いて自身の考えを口にする。
「……わざわざ埋めてまで隠蔽したい何かが、そのハンカチにはあるからだ」
「うん、ご名答。さすが理くんだねぇ」
にこりと笑った玲衣夜は、握っていた青いハンカチを裏返して皆の前に広げて見せる。そうすれば、そこから何かが落ちてきた。
白い手袋をした藤堂が、屈んでそれを拾い上げる。
「これは、ワイヤーと……んだこれ、紫の爪か?」
「うん、そうだねぇ。ワイヤーとネイルチップだよ。そして、このハンカチをよく見ておくれ」
その場に居る皆が目を凝らせば、そこには線状になった黒い染みのようなものがくっきりと滲んでいる。
「……血痕か」
低い声で呟く理に、玲衣夜は頷いて返す。
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