03
「おぉ、こっちだこっち。ワリィな、呼び出しちまって」
「なぁに、いつものことだろう? 虎さんに頼まれたら、いつだって駆けつけるさ」
「ははっ、そりゃ頼りになるなぁ」
藤堂に呼び出されたのは、事務所から電車で二十分ほどの場所にある河川敷だった。すぐ近くにはキャンプ場もあるらしく、河川敷沿いの遊歩道は桜並木が続いている。
陽の光を浴びた木々は青々と輝いていて、休日には散歩する人々がたくさんいそうだなと想像がついた。川を挟んだ向こう側では、釣りをする人の姿もちらほらと見える。
藤堂への挨拶もそこそこに、きょろきょろと辺りを見渡し始めた玲衣夜だったが……目的の人物を見つけたのだろう。目を輝かせてそちらに近づいていく。
「やぁやぁ、理くん。二週間振りだねぇ」
玲衣夜が声を掛けた先にいるのは、ダークグレーのスーツを着こなした、これまた綺麗な顔をした男性。名前を
玲衣夜と苗字が同じだが、特に血縁関係があるわけでもないらしく、単なる偶然が重なっただけらしい。
話しかけられた理の顔は不機嫌そうに歪んでいて、眉根には二本線がくっきりと刻まれている。せっかくのイケメンが台無しとはこのことだ。
「お~い、理くん。聞こえているかい?」
しかし無視を決め込む理を物ともせずに、へらへらと笑いながら声を掛け続ける玲衣夜。むっつり口を噤んでいた理だったが、とうとう観念したのだろう、その薄い唇を渋々といった様子で開いた。
「……気安く話しかけないでくれないか? 大体、何故君はいつも俺に話しかけてくるんだ」
「どうしてって、そうだねぇ。……私が理くんのことを、好いているから、かな」
「なっ……」
玲衣夜の言葉に動揺を顕わにした理は、その顔を薄っすら赤く染め、口許を手の甲で覆っている。そんな理の姿に、玲衣夜は肩を震わせて楽しそうに笑う。
「あっはっは、理くんはかわいいねぇ」
「っ、お前なぁ……!」
揶揄われたことにようやく気づいたらしい理は、怒りに震えながら鬼のような形相で玲衣夜を睨みつけた。
「わぁ、怖い怖い。ザキくん、君の上司がお怒りみたいだ」
「ええっ!? ちょっ、何で俺のところにくるんですか……!」
「しくしく、ザキくんが冷たい……私のことが嫌いなのかい……?」
「えぇ!? いや、別に嫌いとかではなくてですね……!」
理の部下である新人刑事の
そして――そんな玲衣夜と山崎の絡みを、物凄い形相で睨みつけている理。
静観を決め込んでいた千晴だったが、玲衣夜に構われ慌てふためく山崎が不憫に思えたため、溜息を吐いて制止に入った。
「玲衣さん、そこまでにしなよ」
「お前ら~、お喋りもそこまでにしとけよ。被疑者三人とこに行くぞ」
千晴に続いて聞こえてきた藤堂の呼び声で、ふざけていた玲衣夜の表情がぱっと切り替わった。それは理も然りで、「行くぞ」と表情を引き締めている。
藤堂の後に続いて、被疑者である三人が待っているという現場に向かいながら、千晴は隣に並んだ玲衣夜にそっと耳打ちする。
「玲衣さんってば、駄目だよ。一ノ瀬さんのこと揶揄ってばかりいちゃ」
「いやぁ、理くんの反応が面白いから。つい、ね」
「……はぁ」
千晴の溜め息にさえも楽しそうに笑っている玲衣夜は、これから事件を解決しようとしている探偵とはとても思えない。けれど仕事に関しての姿勢はいつだって真面目で、そんな玲衣夜のことを、千晴は尊敬しているのだ。
――今回の事件も、きっと電光石火の如く解決してみせるのだろう、と。頼もしい横顔を見て、千晴は思ったのだ。
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