第6話 初めての友だち

階段を上がり、秘翠は未来に手を引かれてある部屋の前に立った。未来がドアノブを捻り、それを開ける。


「秘翠さん、どうぞ」

「お、お邪魔します」


 扉に『ミク』と書かれた札が下がっている。未来にいざなわれて秘翠が中に入ると、もふもふのうさぎや犬のぬいぐるみがベッドの上に鎮座して彼女を迎えた。

 ピンクや白を基調とした可愛らしい部屋の中、秘翠は棚に飾られたあるものに目を吸い寄せられる。シンプルな白い板の上に並べられていたのは、ペンダントやリングといったアクセサリー。秘翠がじっとそれらを見詰めていると、未来が覗き込んで来た。


「なになに。秘翠さん、アクセサリーとか好きですか?」

「あっ、ごめんなさい。こういうものを見るのが初めてだったから」


 思わず手を伸ばそうとしていた秘翠は、未来に声をかけられてその手を引っ込める。顔を赤くする秘翠に、未来は彼女が見ているものが何かを探して手に取った。


「秘翠さんが気になるのって、これ?」


 未来が手のひらに乗せたのは、銀色の三日月に小さな緑色の星がくっついているペンダントだ。秘翠はそれを目にし、ぱっと顔を輝かせる。そして小さく頷いた。


「そう、それ」

「気に入ってくれたなら嬉しいな。これ全部、作ったのあたしだからさ」

「これ全部!?」


 思わず声を上げた秘翠に、未来はニヤッと笑って頷く。

 棚の上に置かれているのは、ざっと数えても十以上のアクセサリーだ。それら全てが未来の手作りだという。驚く秘翠に、未来はアクセサリーを手作りするためのビーズやテグスなどの道具を見せてくれた。そのどれもが輝いて見えて、秘翠は恐る恐るビーズに触れる。小さな青色のビーズは照明にきらめいて、美しいものだと感じた。

 しげしげとビーズやアクセサリーを見詰める秘翠をそのままにして、未来は音もなく彼女の背後に回った。そして手にしていた三日月のペンダントを秘翠の首にかける。


「これっ」

「あげる。良く似合ってるし、あたしと秘翠さんが友だちになった記念に」

「ともだち……」

「うん。兄さんも含め、あたしたちは友だちだよ! ……って、どうしたんですか!?」


 未来が驚くのも無理はない。彼女の目の前で、秘翠の両目から涙が溢れて来たのだ。おろおろと手を彷徨わせる未来に、秘翠は「大丈夫」と目元を拭う。


「とっても、嬉しかったんだと思う。こんなに素敵なものを貰って、友だちも出来て。こんなこと……今までなかったから」

「そうなんだ……。じゃあ、あたしと兄さんが友だち第一号だね」


 これから宜しく。未来が抱き付くと、秘翠は彼女を受け止め切れずにバランスを崩し、ベッドに仰向けに転がった。二人して横になり、小さく笑い声を上げる。


「ふふふ、あー可笑しい。……もう寝ましょう。明日も、たくさんお話しましょうね? 約束ですよ?」

「うん、約束。おやすみなさい」


 照明を消し、二人は同じベッドで毛布を被った。




 その夜、秘翠は夢を見た。

 暗闇の中、自分が何処にいるのか何となくわかる。幼い頃から閉じ込められ続けた社の本殿だ。灯りは太陽や月、星の光だけ。誰と話すことも触れ合うこともない孤独な闇。

 しかし違う所もある。それは、外へと繋がる格子戸がないこと。秘翠は何処までも続きそうな闇の中に手を伸ばし、掴めるものはないかと指を動かす。何にも触れられないことに言い知れない不安を抱えていた矢先、物音がした。


「誰か、いるの?」


 秘翠が問いかけても、何も返事はない。その沈黙が不気味で、秘翠はぎゅっと目を閉じた。そして、この夢が早く覚めることをひたすらに願う。そうしているうちに、徐々に意識が薄れていった。

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