第3話『今の街並み』

「すごい、魔女の格好をした人がたくさん堂々と歩いてるよ」


 魔女の帽子だったりローブをつけている人達が、お話をしながら堂々と道を歩いている。


 けれど道行く魔女の服装は、どれもこれも細やかな装飾が成されていたり、色鮮やかな生地が使われていたりしていて一人真っ黒な衣装の魔女は不思議な気持ちに包まれた。


「みんな、こっちの方に行ってるし、きっとこの道で合ってるよね」


 不思議なことはそれだけではなかった。

 普通の住人にまじり、鎧なんかをつけている人が歩いていたり、矢筒を背負っていたりする人もいて、なんだか物騒な気もするけれど雰囲気は全くもって和やかなものだったのだ。


「お店がいっぱいね」


 変わっているのはもちろん、街を行き交う人だけじゃなくて、その街自体もだ。

 道はレンガでしっかり舗装されていて、建物はどれもこれもオシャレなものばかり。


 昔来た時には、ただ人が住むことだけを考えた木造建築が並んでいたのに比べ。

 今は建物の外見そのものが、街を彩り人々の目を楽しませている。


「杖のお店とかあるのかな?」

「探してみるにゃ?」


 ふとガラスの窓の向こうに、素敵な猫の置物を見つけて魔女の顔がほころぶ。


 ガラス越しに商品を魅せるお店は多くあるらしい、それどころか外に机なんて並べて食事がとれるようになっているレストランもある様子。


「んー、いや、先に目的地に行きましょう、時間もそろそろだしね」


 遠くの大きな時計塔が、現在の時刻を指し示している。

 時間に余裕が無いわけではなかったけれど、どんなハプニングが起きてもいいように最善を尽くすのが魔女の性分だった。


 そしてその性分が、あくまで魔女の気まぐれであることも猫にはわかっていた。


「賑やかね、本当に」

「街だからにゃ、人が沢山いれば、賑やかになるものにゃ」

「そうよね、人が、たくさん居るんだもんね」


 昔とは比べ物にならないほど、人も生き物もお店も建物も活気づいている。

 それだけこの街にはたくさんの人がいて、そしてこの街はそのたくさんの人に愛されているということ。


 すれ違う人達の笑顔は魔女にとって、とても新鮮なものだった。


「道も建物も、売られてるものも、人の服装も空気も何もかも、あの頃とは違うわね……」


 魔女は猫にそう言ってみた、共感が欲しかったのだ。


「当たり前だけど」


 言葉尻にそうつけ加えて、今、渡っている赤いレンガの橋から下を走る列車を見送る。

 つい先程に列車を知った魔女は、言葉もなくただ走り去る列車を見つめていた。


「楽しそうでなによりにゃ」


 猫はそう言って、大きく口を開けてあくびをした。

 列車を見送ったあとも、魔女の格好をした人々が向かう方向へとなんとなく歩いた。


「何だか、私の格好が恥ずかくなってきたんだけど……」

「大丈夫にゃ、ちょっと古臭いだけにゃ」

「まさにそれを気にしてるんだけど!?」


 少しづつ、魔女の格好をした人々の姿が増えてきて。

 それにつれて自身の着ている服が、真っ黒で何一つ飾り気のない地味ものである事が際立って思えたのだ。


 けれど着て来たものは仕方がない、それに既に目的地には着いてしまったらしい。

 魔女の格好をした人達が、開かれた大きな門を通り中へ集まっている。


 門の奥にはこれまた大きな、お城のような建物が見えた。


「ここが、集会所……」

「学校にゃよ」


 魔女はどうやら、学校というなにかの隠語だと思っていたらしい。

 本当にここが学びの場である事に、心底驚いていた。


 手紙が自分のところに来たことにも驚きだが、それよりも今は立派な造りをした目の前に見えるそのお城が、学びのためだけに建てられたことが何よりもの衝撃だった。


「こんなに大きい建物が本当に学校なの?私が知ってるのはあれなんだけど、こう、小さい小屋みたいなの」


 魔女は小さく長方形に、手で形をなぞって見せた。

 猫は呆れたように、大切な質問をする。


「どこからの情報にゃ」

「本」


 魔女の家にはたくさんの本がある、本棚で囲われた小さな部屋があるくらいだ。

 そこに籠って本を読みあさり、丸一日出てこない日だってあった。


「帰りに新しい本買おうにゃ」

「そうしましょう……」


 魔女は、それと共に何かオシャレな服を買おうと心に決めたのであった。

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