第1話『森の奥の魔女』
薄暗い森の奥。
梟が不気味に目を光らせ、カラスが唸り、変な色のキノコがこそこそと動いているような不気味な森の奥。
魔女の暮らす大樹の家があった。
そんな大樹の家の底の、外につながっているレンガ積みの煙突からは、怪しげな色の煙がもくもくと上がっていた。
「ついに、ついに完成したわ、これで憎きヤツらを根絶できるはず」
魔女はひとり、そう呟いた。
大樹の根に囲まれた大地のそこで、黒く大きな鍋でぐつぐつと煮えたぎっている紫色の液体を大きな木の棒で混ぜながら。
「お嬢、何ができたのにゃ」
そんな魔女の様子を天井から吊るされている薬品棚から眺めていた黒猫は、魔女に問いかけた。
魔女は黒猫の方を見やると、にやりと不敵な笑みを浮かべた。
「ふっ、聞いて驚きなさい、キノコ駆除スプレーよ」
魔女はそう言って、鍋の液体に霧吹きの容器を浸して、容器から漏れる泡が出なくなったのを確認すると霧吹きを取りだして、鍋の蓋を閉めた。
そんな様子を、黒猫はあくびをしてつまらなそうに見ていた。
「アイツらと来たら、ただえさえ中身がすっぽりくり抜かれて元気のないこの木から、まだ養分を吸おうとしてるのよ?いい加減にしないと私のお家が枯れちゃうわ!」
「なるほどにゃあ、まあガンバにゃ」
きのこに激昂している魔女を黒猫は軽くあしらって、へんてこな薬草や目玉なんかが入った瓶をちょいちょいっと弄っていた。
すると外の煙突に繋がる穴から、猫と魔女がよく知る
「失礼主君、手紙が届いておりますぞ」
「え、もしかして私に!?」
手紙という言葉に興奮した様子、魔女は少し跳ねたりして見るからに落ち着きをなくしていた。
梟が上から降りてきて、本当に梟が手紙をくちばしに咥えているのをみると魔女の興奮は最高潮に達した。
「そんなわけないにゃ、どうせチラシにゃ」
「おいクソ猫、いい加減にしないとまた枝の上に乗せるぞ」
「マジでやめろにゃ」
手紙を魔女に渡した梟はまっさきに悪態を着く黒猫の元へ向かって、飛んで行った。
そんな様子を見て魔女は仲がいいなといつもは思うのだけれど、この時ばかりは魔女は手紙に夢中で周りが見えなくなっている様子。
「えっと、魔法……学校、入学試験!受付も当日だって!」
「お嬢、今更学校に行く気にゃ?」
素朴な疑問をしただけなのに、黒猫は梟に爪を立てられた。
実に理不尽な話ではあったが、猫は仕方なく黙った。
「いやいやいや、学校って言うのはきっと、こう隠語的なので、きっと私みたいな魔女の集会があるんだわ」
しかしそんな2匹の様子から何も察することがなかったのか、魔女は持論を自慢げに繰り広げた。
「……にゃーねえ」
「おい猫、お前が言ってやれよ」
「いや、そう言われてもにゃあ」
魔女は手紙を細部まで見入って、やはり2匹のことは気にも留めていない様子。
「えっと、
急いで、暦を確認する。
それらが過ぎると、
そして少し前までは、
いずれも二十四夜で移り変わり、循環する。
故に暦は何度も同じものが使えるため、魔女が使っている暦はかなり年季が入っている。
「明日!明日よ!どうしてもっと早く持ってきてくれなかったの!」
「一応毎日、森前のポストは確認するようにしていたのですが、ここ100年辺り手紙が届いた事が1度もなかったので、確認を疎かにしていました、失礼」
梟はバツが悪そうにする訳でもなく、むしろ堂々としていた。
猫はやれやれと言ったように目を回して、魔女はそんな梟の態度よりも明日の事で頭がいっぱいのようだった。
「行きましょう、明日、魔女の正装で行くべき、よね、うわあ、ホコリ被ってそう」
魔女はやはり有頂天になっている様子だ。
鼻歌交じりにスキップなんてして、上の階へと手紙を両手で抱えて登って行った。
「まあ、お嬢が楽しそうでなによりにゃ」
「主君はキノコのことは忘れているようだな」
一方キノコは、元気に増えていた。
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