第七話 過去の枷
俺たちの姿を見た冬乃は、激しく激昂していた。
その怒り方は尋常じゃない。
「やっぱり、アンタたちはそういう関係だったのね! この嘘つき!」
「ち、違うんだ……」
「何が違うの!? この状況を見て、ほかにどんな解釈があるっていうのよ!?」
「お、おい、落ち着けって。とりあえず話を聞いてくれ。頼むから……」
「うるさい! 裏切り者の話なんて聞くもんか!」
「待ってくれ、話を――」
「この期に及んでまだ言い訳をする気なの!? このクズ男!」
冬乃は冷たい視線を俺たちに向ける。
その瞳には燃え盛る怒りの炎を宿していた。
ああ、これはダメだ……。
たとえ理由を説明したとしても、もう元の関係には戻ることは難しいだろうな。
「もうこんな穢れた家には居られない! アタシ、出ていくから!」
「お願いだ! 少しでもいいから俺の話を聴いてくれ! 本当に誤解なんだ!」
「うるさい! こんな汚い家に住み着いた害虫と話をするつもりはないわ!」
「そ、そんな言い方……」
「せいぜい二人で仲良くしてればいいわ! このゴミ虫クソカップル! もう二度とアタシの前に姿を現さないで!」
「冬乃っ!」
呼び止めようとする俺の声を無視して、冬乃は部屋を出ていってしまう。
そのあとに、玄関の扉が強く閉まる音が遠くで聞こえてきた。
「あーあ、派手に振られちゃったね、智輝くん。それにしても、散々な言われようだったね。大丈夫?」
「……何なんだよ。なんで俺がこんな目にあわなくちゃいけないんだ……。俺はただ好きな人と幸せになりたかっただけなのに……。どうしてこうなってしまうんだよ……」
「あれ? ショックのあまり壊れちゃった?」
季咲さんが俺を覗き込むように見つめてくる。
その表情からは感情を読み取ることができない。
まるで仮面を被っているかのようだ。
でも、今はそんなことはどうでもいい。
俺の心は完全に折れてしまった。
もう何もしたくない。
このまま消えてしまいたい気分だ。
「よし、とりあえず、あたしの目的は達成完了かな。お疲れ様、智輝くん。もう帰ってもいいよ」
季咲さんは俺に手錠の鍵を渡す。
そして、俺から離れていく。
季咲さんはワイシャツのボタンを止め、胸元が見えないように整える。
さっきまでの淫靡な雰囲気は、すっかり鳴りを潜めていた。
まるで、最初から何事もなかったかのように……。
俺はしばらく茫然としていたが、やがて手渡された手錠の鍵を使って手錠を外す。
すると、季咲さんがこちらを振り向いた。
その表情はとても清々しい。
だが、目だけは笑ってはいなかった。
その瞳の色は、底知れぬ闇が広がっているように黒々としている。
「あたし、ちょっとシャワーを浴びてくるね。まだここにいてもいいけど、本音を言うと帰ってほしいかな。智輝くんならあたしの気持ち、汲んでくれるよね?」
季咲さんはそのままリビングから出ていった。
その背中を見送ったあと、俺は髪をかきあげオールバックにする。
しかし、もう立ち上がる気力すらない。
くそっ、これでもダメか……。
俺は大切な人を傷つけてしまった。
今まで積み上げた、四季子との絆もきれいさっぱりなくなってしまったのである。
……俺はまた裏切られた。
人間とは所詮こんなもの、という現実を突きつけられた気分だ。
季咲さんがなぜこんなことをしたのかはわからない。
ただ、季咲さんの行動原理は、四季子のことを想ってのことだと薄々感じ取れる。
だからといって、普通ここまでするか?
……ダメだ、いろんなことがありすぎて頭がぼーっとしてきた。
もう……何を……するのも面倒……だ。
朦朧とする意識の中で、この一年間の出来事が次々と頭をよぎる。
一番最初に出会ったのは、四季子。
初めは、おかしなやつだと思っていたが、話してみると意外と普通の女の子だった。
……俺に土下座して告白を強要する以外は。
そのすぐあとに会ったのは、春風。
見た目はおっとり系だが、花見のときは積極的に俺を翻弄してきた。
あのときは、魔法のことを疑っていたが、今なら信じられる。
夏に会ったのは、夏帆。
天真爛漫で、こっちまで明るくなるような性格だったな。
しかしながら、彼女の上裸を見てしてしまった件は、本当に悪いことをしたなと今でも思っている。
秋になって出会ったのは、秋葉。
一見、我が強そうな性格に見えるが、俺の生きがいを肯定してくれる優しい女の子だ。
ちょっと恋愛脳すぎるのが、たまにキズだけど。
そして、冬になって出会った、冬乃。
彼女は常にツンツンしているように見えるが、それは愛情の裏返しで、本当は俺に『好き』と言ってもらいたかっただけだった。
そんな純粋な彼女を傷つけてしまい、俺は非常に後悔している。
最後に、季咲さん。
まだ彼女の意図はわからない。
でも、俺は彼女に今まで散々お世話になってきた。
俺と四季子が親密になれたのも、彼女という存在があったからだ。
ここで、彼女のことを嫌いになるのは簡単だ。
このまま、この家から出る。
それだけで、安曇姉妹と縁を切ることができるだろう。
だけど、本当にこれでいいのか?
彼女たちのことが頭に浮かぶたびに、俺の心が激しく揺さぶられる。
安曇姉妹にはまだ何か秘密があるはずだ。
俺はその秘密を知ったうえで、彼女たちの力になりたい。
だって俺は、四季子と季咲さんによって救われたのだから……。
そう思った瞬間、俺の心に再び火がついた。
「あれ? まだいたの、智輝くん?」
「季咲さん……。話があります」
「話……? 別にあたしはきみと話したくないんだけど――」
俺は季咲さんが話し終える前に、ソファーから降りて床の上に正座する。
そして、そのまま深く頭を下げた。
「お願いします! 俺の話をどうか聞いてください!」
「……ふーん?」
これが今の俺ができる精一杯の誠意の示し方だ。
その姿を見て、季咲さんがいつもより低い声を出す。
顔を上げると、そこには目を細めながら腕を組んでいる季咲さんの姿があった。
そして、季咲さんはやれやれといった顔をしてから、ソファーに座る。
「しょうがないなー。きみと会うのはこれが最後になるだろうから、大人しく聴いてあげる。だけど、それが終わったら、今度こそこの家から出ていってね? 約束だよ?」
「は、はい!」
どうやら季咲さんは俺の話を聞いてくれるらしい。
そして、俺は先ほどまで抱いていた想いとまだ誰にも話したことのない過去の出来事を、全部吐き出した。
すべてを話し終えたあと、しばらくの間沈黙が流れる。
その時間はまるで永遠のように感じられた。
やがて、季咲さんの口がゆっくりと開く。
「……なるほどね。話はわかったよ。それで、智輝くんはこれからどうするつもり?」
「俺は……俺はもう一度、四季子に会いたいです。会って、きちんと誤解を解きたいんですよ。そして、四季子ともう一度恋人になりたいんです」
「もう無理だと思うけどねぇ……」
「それは季咲さんも同じなんじゃないですか?」
「わかってないなぁ。四季子はあたしから一生離れたりはしない。……いや、離れられないんだよ」
「それはどういうことですか?」
「それ以上は、話せないなぁ。とりあえずさ、もう出てってくれない?」
「嫌です」
「……おまわりさんを呼ばれてもいいのかな?」
「それなら俺にも考えがあります」
「へぇー、それはどんな……。――キャッ!」
俺は季咲さんの後ろへ素早く回り込み、手錠をかけた。
そして、季咲さんをソファーへ押し倒す。
「へ、へぇー、や、やってくれるじゃない。これって犯罪だよ?」
「どの口がそんなことを言うんですか? これはさっきのお返しですよ」
俺は季咲さんに少し近づいた。
すると、季咲さんは予想外の反応を見せる。
「お、お願い……。ら、乱暴……するのだけは……やめ……て……。うう……」
なんと、季咲さんは泣き出してしまったのだ。
まいったな、ちょっと脅すだけのつもりがこんな反応をされるとは思わなかった。
これ以上季咲さんをいじめると、禍根が残りそうだ。
ここからは誠実にいかないとな……。
「……季咲さん。俺がそんなことをすると本当に思ってるんですか?」
「だ、だってぇ……あたしは智輝くんに……ひどいことを……たくさん……したんだよ?」
「確かに季咲さんのせいで俺は傷つきました。それもすごく」
「そ、そうでしょ……。だ、だからぁ……」
「だけど、俺は何度も四季子とあなたに救われたんです。だから、一回くらい悪さをしても水に流しますよ」
「と、智輝くん……」
「だから、お願いします。過去にあったことを俺に話してください。俺はあなたの力になりたいんです」
「う……うん……わ、わかった。智輝くんに……話して……あげる。で……でも……その前に……お願いが……ある……の」
「あ、ありがとうございます。それで、お願いとはなんですか」
「て、手錠を……外して……ほしい……の」
「わかりました。けれど、警察は呼ばないでくださいよ」
「……四季子に友達がいなかったのはあたしのせいなの」
俺は季咲さんの手錠を外すと、すぐに季咲さんから衝撃的な事実を聞かされた。
だが、俺は意見を言ったりはせずに、そのまま黙って話の続きを聴く。
「正確に言えば、あたしが選別していたのよ。四季子に近づいてくる人たちをね。実は、智輝くんもその有象無象の一人だったの」
まさか、四季子が友達に恵まれなかった原因が季咲さんだったなんて……。
俺は心の中で、季咲さんの言葉が嘘であってほしいと思った。
しかし、季咲さんの表情を見てそれが真実だとわかる。
「でも、安心して。あの子と恋人になったのは、智輝くんが初めてだったから。しかも、冬乃まで乗り切ったのも智輝くんだけだよ」
ま、まあ、そこは素直に喜んでおくことにしよう。
俺は改めて固唾を飲んで季咲さんの言葉を待つ。
「あたしは四季子に友達ができると、まず怖そうな人を雇ったのよ。それでね、四季子といるときにその雇った人を絡ませたの。そのときの対応の仕方で、切るか切らないかを決めていたのよ。それが、第一ステージ……」
花見のときの怖そうな男は、季咲さんに雇われた人だったのか。
それに、第一ステージということは、もしかしてまだ――。
「それから、夏帆になったときはね。雇った人たちとあたしが演技をして、また反応をうかがったの。これが、第二ステージ……」
あのときのチンピラたちも、季咲さんの差し金だったのか。
まったく、本気で心配してたんだぞ、こっちは。
「第三ステージと第四ステージは、ちょっと性格に難がある秋葉と冬乃と仲良くできること。それだけよ」
確かにその二人は、結構きつかったな。
いや、きついとか言ったら失礼か。
「そして最終ステージは、本当の四季子の姿が見えること。残念なことにこの条件をクリアしたのは、あたし以外誰もいないわ」
「……つまり、俺はクリアできなかったってことですか?」
「そうよ。だから、あたしは強制的にあなたたちを別れさせたの」
……そういうことだったのか。
しかしながら、季咲さんの業は結構深いな。
四季子がこのことを知ったらどう思うのだろう。
それに、個人的に気になった点が一つある。
とりあえず、そのことを季咲さんに忠告をしておくか。
「……季咲さん」
「ん? 何よ?」
「もう二度と、自分を傷つけるようなことはしないでください」
「あ、ありがと……。でも、智輝くんじゃなかったら、あんなことはしなかったかも……」
「……え? それはどういう――」
「まだ、あたしの話は終わってないわよ。質問はあとにしなさい」
どうやら俺の疑問には答えてもらえないらしい。
なので今は、季咲さんの話に集中するとしよう。
俺は心を落ち着かせて、季咲さんの言葉を待つことにした。
すると季咲さんは、俺の目を見つめながらこう言ったのだ。
「あたしが過保護になった理由はね。四季子が小学生の頃の出来事に関係しているの」
「四季子の小学生時代……ですか?」
「そう。四季子はね、小学校の頃はすごく明るくて活発な女の子だったのよ。でもね、両親が亡くなって以降、見た目や性格が変わる魔法が発現したせいで、周りから避けられてたの。そのうえ、誰も口をきいてくれなかったらしいのよ」
「……それって、いじめられていたってことですよね?」
「いじめ……。そうね。もしかしたら、いじめかもしれないわね」
「なんでそんなに歯切れが悪いんですか? 明らかにいじめじゃないですか!」
俺の言葉を聞いて、季咲さんは少し寂しそうな顔をした。
だが、季咲さんは話を続ける。
「四季子はね、最初からいないものとして、クラスのみんなから扱われていたのよ」
「そ、そんな、まさか……! 小学生がそんなひどいことをするはずが――」
「落ち着いて、智輝くん。あんたもその身をもって知ってるはずでしょ? 子どもの残酷さを……」
「――っ!?」
四季子のことで頭がいっぱいになっていた俺は、自分のことを棚に上げていることに気づく。
そうだ、俺は同年代の子どものせいで心にトラウマを植えつけられた。
どうやら俺は頭に血がのぼりすぎて、一瞬我を失っていたようだ。
「ある日、あたしが家に帰るとね。四季子が自分の髪の毛を抜いていたのよ。それも頭皮が透けて見えるくらい大量にね。……どうしてだと思う?」
「えっと、それは……」
「四季子はね、髪の毛を抜いたりすることで心の安定を図ってたのよ。もちろん、抜くのは髪の毛だけじゃない。眉毛やまつ毛もよ。そして、それを口に入れていたの。しかも、それだけじゃなく、深爪になるまで爪を噛んだり、血が出るまで皮膚を引っかいたりしていたわ。あのときの四季子は、それほどのストレスを抱えていたのよ」
「……っ!?」
「あたしは四季子を抱きしめて慰めようとしたけど、逆に拒絶されたわ。四季子は、『お姉ちゃんにだけは見られたくなかった』って言ったの」
「……」
「それから、あたしは四季子の担任の先生から話を聞いたわ。四季子がクラスメイトたちに何をされているのかを……。しかも、先生はわかっていたけど何もしなかったらしいわ」
「……」
「その日以降、あたしは四季子を休学させることにしたの。あたしも大学をいったん休んで、できるだけ四季子と一緒にいるようにしたのよ。四季子の心が癒えるまでね。そして、中学に進級すると同時に、遠くの学校に転校させたの。そこでは、幸いいじめはなかったわ。だけど、今度はあたしのほうが過敏になっちゃってね。それで、あたしは四季子にふさわしい人間を選別するようになったのよ」
俺は黙ったまま、ただひたすら季咲さんの話を聞いていた。
頭の中ではいろいろな感情が入り乱れ、胸が締めつけられるような気持ちになる。
今にも涙を流してしまいそうだ。
しかし、ここで俺が泣いても何も解決しない。
それに、季咲さんもつらい過去を思い出しているはずだ。
だから、ここは我慢しないと。
それにしても、俺はなんて無力なんだ。
俺がもう少し早く四季子と出会えてさえいれば……。
「……ごめんなさい」
「……季咲さん?」
「あたしの自分勝手な行いのせいで、あなたたちを傷つけてしまったわ。許されるなんて思ってない。だけど、あたしは罪を償いたいの。あたしにできることだったら何でもするわ……」
季咲さんは震えた声で謝罪の言葉を連ねる。
おそらく、今まで内に秘めていたものを全部吐き出して、冷静になったのだろう。
そして今、罪悪感に押し潰されそうになっているに違いない。
そんな季咲さんを見て、俺は改めて思った。
この人は、本当に優しい人なのだと。
だから、こんなに苦しんでいるのだ。
なら、俺がすることは一つしかない。
俺は大きく息を吸うと、ゆっくりと吐き出した。
そして、季咲さんの目をまっすぐ見据えながらこう告げる。
「……季咲さん」
「……何?」
「確かにあなたはいくつもの罪を犯してきた。いくらつらい過去があったとしても、今までしてきたことはそう簡単に許されはしないでしょう」
「そ、そうよね……」
「でも、俺はあなたを許します」
「……え?」
「あなたは自分の罪を認めました。そのうえ、罪を償いたいとも本気で思っているのでしょう? それはとてもすごいことです。だから、俺はあなたを許します。……まあ、私情が入っていることは否めませんが」
「……私情?」
「……さっきも言ったでしょう。俺はあなたに救われたんです。だから、俺自身のことは許します」
「あ、ありがとう、智輝くん。こ、こんなあたしを許してくれて……」
季咲さんは目に涙を浮かべながら、俺に感謝の言葉を述べる。
俺はそんな彼女の頭を優しく撫でてあげた。
「季咲さん、泣いてる暇はありませんよ。これから、四季子に会いにいきましょう。そして、今までのことを話して誤解を解くんです。もちろん、ちゃんと謝罪もしてくださいね?」
「……ええ、わかってるわ。ありがとう、智輝くん。でも、四季子が今どこにいるのか、あなたは知っているの?」
「それはもちろん……。……すみません、全然わからないです。どうしましょう?」
「そんなことだろうと思ったわ。あたしに任せなさい。たぶん、四季子はあそこにいるわ」
季咲さんに連れて来られた場所は、霊園だった。
日はすでに落ちかけており、人気もなく辺りは静寂に包まれている。
その中を二人で並んで歩き、ある場所を目指す。
やがて、俺たちは一つの墓石の前に立っている黒髪の四季子を見つけた。
「四季子……!」
「……穢れたゴミ虫カップルが何の用? もしかして、二人で私を笑いにでも来たの?」
「違う! 俺たちは――」
「智輝くん、落ち着いて。ここはあたしに任せてちょうだい」
「……すみません。お願いします、季咲さん」
「やっぱり、二人は仲が良いね。わざわざそれを見せつけに来たの?」
「四季子聴いて。あたしはあなたに謝罪をしに来たの」
「今さら謝罪なんて……!」
「あたしは今まであなたにたくさんひどいことをしてきた。今からそれを包み隠さずすべて伝えるわ。あたしはあなたに謝罪をしたいの。許してくれなくてもいい。だけど、話だけは最後まで聴いてほしいの」
「そんなのただの自己満足じゃん……」
「俺からも頼む! 季咲さんの話を聴いてやってくれ!」
「智輝……」
四季子は、俺の顔を見た。
その目には戸惑いの色が浮かんでいる。
そんな四季子に、季咲さんは静かに語り始めた。
自分が犯してしまった過ちについて。
そして、四季子に負い目を感じていたことについて。
季咲さんはすべてを正直に打ち明けた。
「……これであたしの話は終わりよ。四季子、本当にごめんなさい」
季咲さんは深く頭を下げ、誠心誠意謝った。
その姿からは、季咲さんの真摯な気持ちが伝わってくる。
すると、四季子は頭を下げている季咲さんにゆっくりと近づいた。
それから、頭を上げさせる。
季咲さんが顔を上げると、そこには笑顔の四季子が立っていた。
俺はホッと胸を撫で下ろす。
よかった……。
どうやら季咲さんと四季子のわだかまりは無事解けたようだ。
これで、一件落ちゃ――。
「……許さない」
「……え?」
「私、実は知ってたんだ。お姉ちゃんが裏でしてたこと。だけどね、私の家族はもうお姉ちゃんだけなの。私はお姉ちゃんを嫌いにならないように、こう言い聞かせてたのよ。『お姉ちゃんは私のためを想ってしてるんだ。これは正しいことなんだ』って」
「そ、そうだったの……?」
「でもね、今回だけは我慢できなかった。私ね、智輝のことが本気で好きなの。愛してるの。だからね、私たちの仲を引き裂こうとしたお姉ちゃんを……」
「絶対に許さない」
四季子は屈託のない笑顔でそう言った。
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