【永禄八年(1565年)正月/二月】
【永禄八年(1565年)正月】
大晦日には恒例の連歌会が開催され、鮑やら伊勢海老やらの豪華版天ぷら蕎麦で年越しとなったようだ。楽しんでくれたのならなによりである。
その裏で行われていた酒宴の方に顔を出してみたが、どうも落ちつかない。結局、年少組のお菓子を食べながらの年越しに混ざる形になった。
俺の子たちは、最年長の柚子でもまだ三歳なので早々に退場してしまった。城で暮らす中では、九鬼一族の姫君である初音が最年少となる。美少女ぶりが色濃くなってきた彼女は、他の子の世話を焼くのが得意なようで、我が子もだいぶ手をかけてしまっているようだ。
若年組も、智蔵と虎房……、大浦為智と佐野虎房は北方にいるので、羽衣路と岩松清純の医療組、製菓職人の第一人者となっている拓朗、年末でさすがに冶金業務が休止中の小三太らが中心となっている。
岩松親純は新田学校に入り浸りで、十矢と制作に集中しているようだし、箕輪繁朝はお兄さん的に顔を出しこそすれ、基本は仕事に趣味にと多忙であるようだ。かつての、見坂兄弟や藤田氏邦・大福夫妻がいた頃と比べると、やや寂しい印象は否めない。
それとは別に、託児所計画は進んでいて、城勤めの女性陣の赤子を試験的に預かるようにはなっている。そうなれば、またにぎやかになるだろう。
年が明けると、四つの神社での奉納が連日行われる。今年は正月二日に香取神社の奉納射が行われ、三日に矢宮神社の鉄砲演武、四日に鹿島神社の奉納仕合、五日に摩利支天神社の芸事奉納の順で、どうやらこれで定着ということになりそうだ。摩利支天神社の芸事については、希望者が増えれば連日やってもよいわけだし。
奉納仕合には、塚原卜伝の一門から、諸岡一羽、雲林院松軒、真壁久幹、林崎甚助らが参加した。一方の上泉一門からは剣聖殿本人と蜜柑のみとなる。疋田文五郎、神後宗治が北方に滞在中のためで、嘆き節を聞かされる羽目となった。
真壁久幹は、嫡子の氏幹を連れてあいさつにやってきた。小田領を制圧したために、真壁城域とは境を接する状態となっている。よしなに、とのことだったのだが、こちらこそである。
小田、小山、結城から放逐された元家臣達は、多くが佐竹に、一部は北条に吸収されたらしい。先般の攻勢を騙し討ちだと表現する者も多く、新田の評判はよくないようだ。まあ、今に始まったことではないのだけれど。
【永禄八年(1565年)二月】
二月に入ると、軍神殿が始動を宣言した。この時期からとなると、例年よりはだいぶ早めとなる。
上杉勢の南下と時機を合わせたかのように、太田資正が松山城を強襲、奪回した。ただ、乱戦の中で息子の太田氏資が討たれたそうで、岩付太田の家中はだいぶ混乱しているようだ。降伏させていれば、まだ融和の目もあったのだろうが。
上杉勢は松山城には向かわず、世田谷城を強襲した。新田は江戸城攻めを担当し、無事に攻め落とした。青銅臼砲とバリスタは、対北条では初お目見えとなった。
軍神殿の手勢は、滝山城から甲斐侵攻の構えを見せつつ、小田原を牽制している。この動きで、海ノ口城、深志城への武田の攻撃が少しでも緩めば、守っている上杉勢が楽になるわけで、意義は大きい。
そこからは、かつての小田原攻めの再現となった。ただ、今回は上杉と新田、佐野だけで、かつての公称十万の威容から比べればだいぶ寂しい。
ただ、佐野昌綱が手勢を引き連れてやってきたのは、予想外の事態だった。いつぞやの訪問時に見かけた剣豪志願の山上氏秀も一隊を率いており、その際には武者修行に出ていたという当主の弟の天徳寺宝衍(てんとくじ・ほうえん)とも対面がかなった。
現状では、佐野氏が南関東まで兵を進める実益は少ないはずだが、これまで新田が援軍を出してきたことへの感謝も兼ねてと言われると、うれしくなってしまう。
岩付太田氏は、親子での争いの痛手から参加できない旨を通知してきた。里見勢も、千葉氏との抗争の絡みで不参加とのことだ。ただ、勝浦水軍は、独自に参加してくれている。
新田は、今回も海沿いの地域を担当していて、佐野氏はその内側を、上杉勢が山側を進んでいる。今回は、城を落としながらの侵攻となり、城が近づくと三勢力が集合して攻略する流れとなった。
かつての公称十万からは兵数は半数以下となるが、連携ぶりを考えると実戦力は上かもしれない。そう思える相手と行動を共にできるのは、幸運なことなのだろう。
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