【Web版】「戦国統一オフライン」転生婿入りモブ豪族の戦国渡世~転移先の戦国時代に歴史SLG要素が混ざってる!? 桶狭間前年の世に現れた少年歴史ゲーマー、新田護邦 関東の片隅から天下を睨む~
【永禄四年(1561年)十二月上旬/中旬】その一
【永禄四年(1561年)十二月上旬/中旬】その一
【永禄四年(1561年)十二月上旬】
河越城の守りが堅いと見た北条・武田連合軍は、松山城の攻略を目指した。川中島の再戦だとばかりに意気込んだ上杉方だったが、北条高広(きたじょうたかひろ)率いる南下軍は野戦で敗北した。ただ、松山城は太田勢が辛くも守りきり、腹いせ的に攻めかけてきた河越城でも、斎藤朝信の手勢と青梅将高率いる新田勢の連携で撃退に成功した。
北条、武田は野戦での勝利を喧伝しているようだが、戦略目標を達成させずに退去させたと考えれば、上杉方の勝利、あるいは少なくとも引き分けだと言えるだろう。
かくして、河越城、松山城、岩付城ラインは堅持された。この時代の武蔵国は、必ずしも穀倉地帯というわけでもないが、北条からすれば収入が見込める直轄地、河越城域と松山城域を奪回できないのは痛手であろう。
一方で、その軍勢を転進させるのが間に合わないタイミングで、関宿城が落とされた。
関宿から古河までは、半日ほどの距離である。恐怖を覚えたらしい古河公方の足利藤氏は、あっさりと古河を離れて足利へ落ち延びたようだ。藤氏の元服の手配をしたのが足利長尾氏の長尾當長だったそうで、縁が深いのだろう。
北条の軍勢が佐野氏の唐沢山城に向かう模様だとの情報を得て、新田は軍神殿に断りを入れた上で、佐野氏への援軍を急派した。指揮官は河越城から戻ったばかりの青梅将高で、俺も同行している。
足利長尾の領内を通過して、唐沢山城に接近した段階で、俺は十騎ほどで先行した。北条勢が進軍してくる鼻先を、のんびりと「静寂」号を駆けさせる。まさか新田の当主だとは思わなかったのか、急進してくる敵勢はなかった。
無事に到着すると、佐野昌綱が迎えてくれた。
「護邦殿……、よくぞご無事で」
「危ないところでした。……去就はどうされるおつもりかな? 北条方につくなら、引き返します。抵抗されるなら、共に闘いましょう」
「上杉殿は来られているのですか?」
「軍神殿ご自身は、厩橋で療養中でしてな。軍勢は、松山城を守り切った南下軍が、おっつけやってくるでしょう」
「承知しました。共に戦いましょう」
その言葉以前に、唐沢山城では防衛の準備が勢いよく進められていた。
同行してきていた愛洲宗通を連絡役として本隊と連携を取り、布陣を固める。それを遠望した北条軍は、踵を返して去っていった。そして、古河は包囲されたのだった。
新田と佐野が古河に入って防衛に参加していれば、その後の推移は別のものになっていたかもしれない。だが、それもまたややこしい展開となる。
唐沢山城で様子を窺っているうちに、足利公方勢は屈服した。足利義氏の返り咲きを認めるとなれば、甥の復権が難しくなるわけで、簗田晴助としては苦渋の選択だっただろうか。一方で、拒否すれば手負いの北条が何をするかわからないと考えたのかもしれない。
ともあれ、上杉軍にすぐに攻め寄せる気配はなく、ひとまず情勢は確定したのだった。
【永禄四年(1561年)十二月中旬】
手負いの上杉政虎は、厩橋城に滞在して体力、気力を回復させている。そして、新田が兵を退いたことで、古河方面は落ち着いた状況となっている。古河を手中にした状態でなら、佐野に手出しはしないつもりなのか。
上杉憲政は厩橋に戻ってきたが、特に失意に沈むわけでもなく泰然としている。もう、肩の荷は軍神殿に渡し終えた状態なのかもしれない。
新田領と北条に屈服した古河公方の勢力圏との間には、足利城と館林城が存在している。
その両城を領する足利長尾氏の長尾當長に対しては、北条はこれまで手出しをしていない。同じく親上杉勢力の佐野が攻めかけられたのとは対照的である。
軍神殿の同族だから手控えているのか、かつて古河公方家の家宰だった家柄なので尊重しているのか、あるいは……。
いずれにしても、小康状態は活用させてもらおう。碓氷峠も雪に閉ざされ、信濃方面に動きはない。現状で前線と言えるのは、利根川を挟んで関宿と向かい合う忍城の東方域と、鎧島くらいである。過度に楽観視すべきではないが、それ以外の土地では内政に注力できる状態だった。
忍城、本庄城を拠点とする、北を利根川、南を荒川に挟まれた地域が、現状の重点開発対象となっている。制圧したのが夏だったために開墾は軽めで、蕎麦、じゃがいもを植えた分がこの秋の増収分だった。
じゃがいもは、扱いに慣れないと芽や変色部に毒が生じ、保管法も難しいので基本的に買い上げるようにしている。その分、定期的に無償のポテトフライ屋台を回らせるよう手配していた。
そして、小麦も植えられ、水田の裏作にはれんげ草の種が蒔かれた。現在は来年の稲作のための開墾を進めている。その作業には、手近なところの開拓を済ませた地域の農夫が援軍としてやってきていた。もちろん、日当を出す形となっている。
産業も、だいぶ発展してきていた。本格的に始めたのは、厩橋城、和田城の土豪一斉蜂起が収まった頃だとすると、そこから約二年が経過している。
次の春に金山城を落とし、夏に軍神殿を迎え、冬に足利義氏が古河を脱出し、春には小田原攻めからの軍神殿の関東管領就任があった。
北条の巻き返しが進む中で、初秋に北信濃では川中島合戦が行われ、秋には侵攻してきた武田勢と矛を交えることを余儀なくされた。
河越城、松山城ラインは堅持されているが、関宿は落とされ、足利藤氏は古河を脱出し、足利義氏が返り咲いている。
史実をなぞれば、このあとはしばらく、上杉と北条の一進一退の状況となるわけだが……。
実際、北条は里見との決着を優先しているのか、古河に駐屯していた戦力のほとんどが南下を始めている。
古河、関宿が上野、武蔵と香取海北岸地域の結束点のようなところで、そこを確保したいのはわかる。だが、確保し続ける意志が北条に見受けられない。
継続的に確保したいのなら、それができるだけの軍勢を置けばいいし、そうでないなら古河公方家をまるごと、強制的に鎌倉にでも連れていけばいい。
あるいは古河公方に自活するだけの力があれば……。
いずれにしても、ここまでの流れで、新田の領内に戦火は及んでいない。特に厩橋城、箕輪城、和田城の辺りは二年間の平穏を謳歌していた。
食事情は大幅に改善され、用水路の整備により新たな村が次々と生まれつつある。領内に活気が溢れ、既存の村は潤い、購買力もまだ脆弱ながらも育ってきている。
そうなれば、他領への商いでは売り物となりづらい品質の商品も、捌きようは出てくる。産業の立ち上げ時期に、それが大きな助けとなるのは間違いなかった。
実際、加工食品の類いや、衣服、布団などは作るそばから売れている状態で、逆に供給側に回る村も増えてきている。
また、岩松親純によって猫の絵が描かれた絵馬ならぬ絵猫が、倉庫のネズミよけとして大人気となっていた。
絵の方では岩松親純と、里屋の絵が達者な青年、十矢が中心になって、新田学校で制作が行われている。技術を高め合いつつも、絵猫のように売っていくのも厭わないようなので、いずれなにかが生まれるかもしれない。あるいは中央画壇……、狩野派などとの交流、あるいは弟子入りなども考えた方がよいのだろうか。
ともあれ、現状でも彼らの絵は、蒔絵の下絵や薬袋の意匠などに重宝されていた。
薬といえば、羽衣路が愛洲宗通、岩松清純、辰三と共同で研究を進めていた、葛根湯中心の風邪薬、気付け薬、止瀉薬、熱冷ましなどが商品化されている。
ただ、特に普段は健康な者の病気については、身体が悪いものを出そうとしたり、熱でよくないものを打ち負かそうとしている作用なので心配し過ぎないのが大切だということと、一方で塩分、水分などの症状ごとに補給すべきものなどを伝えておきたい。その旨を薬袋に添えた紙片に、猫絵と共に記しておくようにした。その記載は、版画的な凹版印刷で実現している。
産業面では、鞍や馬具、刀や弓矢などの生産も奨励されていて、職人の招聘も進んでいた。ただ、やはり積み重なった歴史がモノを言う分野なので、古河の方が本場であるのは間違いない。
養蚕、牧畜、酒造り、菓子や保存食作りなども、順調に育っている。椎茸栽培も、干し椎茸としてかなりの量を出荷できるようになっていた。堺方面からは、新田物に限らず明で大人気なので、どれだけ作っても値崩れすることはないとの太鼓判が押されている。まあ、確かに高級品扱いだし、仮に輸出向けが途絶えても、引き合いは多そうだ。
鎧島での塩作りも引き続き行われて、貴重な収益源となってくれている。その他では、鉱山開発、粗銅からの錬金術、粗悪な永楽通宝の回収からの私鋳も継続されていた。
産業の範疇からは外れるが、里屋経由での鹿島方面、西の東海地方、上方との金銀取引、米の相場を比較しての買い付け、溜め込み、不足した土地での販売なども継続している。
新田家、水軍勢の保護があるにしても、だんだんと里屋の船団の規模が大きくなってもきているようだ。
一方で大泉で建造していた、南蛮船を真似つつ櫂も採用している外洋船もひとまず完成し、昴型試験船と名付けられた。勝浦までの試験航海は無事に済み、改善点を反映させた昴試作型の建造が進んでいる。それらが投入できれば、自前での商いも行っていきたい。
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