【永禄四年(1561年)九月】
【永禄四年(1561年)九月】
川中島合戦……、第四次川中島合戦は、介入を控えた結果、史実通りに引き分けとなった。
山本勘助については不明だが、信玄の弟である武田信繁が戦死したのは間違いなさそうだ。家中での調整役だったようなので、史実比での大幅強化は避けられたと考えてよいのだろう。
そして、いよいよ対武田戦が間近に迫ったと考えるべきだった。
史実通りなら十一月に武田勢の本格的な西上野侵攻が行われる。ただ、実際には、これ以前にもちょくちょく仕掛けてきていたように記憶している。新田の動きを見て手控えているのか、ゲーム的に打診的な攻撃は端折られているのか。
いずれにしても、桐生城、金山城、忍城のラインで東方の防御を固めつつ、碓氷峠方面に主力を振り向ける形となろう。
そんな中で、近衛前久からは攻囲されている古河を救援してほしいとの要請が飛んできた。同時に軍神殿にも使者が向かったようだ。
ただ、正直なところ余力はない。さすがに関白殿を討ち死にさせるわけにはいかないのだが。
そんな折り、待ち人がやってきた。敗滅した青梅氏の一族、青梅将高が頼ってきてくれたのである。出現したのは天神山城だったというから、勝沼城域から山に分け入って秩父方面へと逃れたのだろう。一族の女性陣も一緒とのことだった。
知らせを受けた俺は、同世代で側近的な立ち位置でもある箕輪重朝と用土重連を伴って天神山城へと向かった。
面識のある将高はともかく、一緒に逃れてきた女性たちは新田の当主がやってきたことに驚愕しているようだ。
「やあやあ、よく来てくれた。まずはゆるりと身体を休めてくれ」
「既に厚遇をいただいていて、感謝しています」
「いやいや、援軍を送れずにすまなかった。河越城の軍勢を動かして落とされでもしたら、一気に劣勢に陥る情勢だったとはいえ、見殺しにしていい理由にはならない」
「いいえ。当家の位置関係で、軽々に長尾……、いえ、上杉勢に味方すべきではなかったのです。あそこは、勝沼に籠もっていても、攻められることはなかったでしょう」
「まあ、そうなんだがな。……さて、今後はどうする。新田に来てくれれば大歓迎だが、いずれ独立したいなら、よその方がいいかもしれない。まあ、うちで名を上げてから、どこかに仕官した方が話が早いかな?」
「護邦殿……。高麗山で話しかけていただいたときもそうでしたが、どうしてそこまでよくしてくださるのです?」
「ああ、事情を話していなかったな。俺は神隠しから戻ってきた関係で、ざっくりした人の資質が見えるんだ。将高の頭上には、眩しく煌めく才能が見える。天下人を目指すのなら、支えさせてもらいたいくらいだ」
俺の本心の吐露は、どこまで通じただろうか。
「逆でしたら、お受けしましょう。どうか、家臣の一人にお加えください」
「マジかっ。いや、ありがとう。……で、物は相談なんだが、すぐにも起こりそうな対武田戦の総指揮を任せてもいいか?」
「いや、それはちょっと……」
抗議は受け付けず、青梅将高は碓氷峠方面の総司令官に任命された。
対武田戦は、東方の抑え組、河越城への援兵組を残して、ほぼ全軍を投入する形となる。
新任の主将となる青梅将高の配下として、副将格の上泉秀綱、雲林院光秀と、軍師をしつつ手勢も率いる上泉秀胤、師岡一羽に、見坂兄弟、剣豪勢、澪の率いる弓兵隊、小金井桜花、美滝の鉄砲隊、そして雑賀勢も傘下に組み入れられた。忍者隊とは、枠外で連携してもらう形となる。
将高にとって同年代なのは見坂兄弟くらいで、それ以外は全員が年長者である。ただ、新田の家中は俺の新参抜擢には慣れているし、前線では少年指揮役もめずらしくない状態で、さほどの違和感は抱かれていないようだ。
まあ、本人にとっては、違和感しかないだろう。どうしてこうなったと頭を抱える姿を見ると、ちょっと悪いことをしたかなとの気もしてくる。
ただ、それもまた<人たらし>スキルの一環でそう思わされているのかもと考えると、捉えようも変わってくるのだった。
こんな時に、という話もあるが、海からの来訪者がまた到着した。伊賀と甲賀から、相次いで忍者が移住してきたのである。
それぞれ五十人弱の規模で、伊賀は藤林文泰(ふじばやしふみやす)、町井貞信(まちいさだのぶ)、小沢智景(おざわともかげ)という者達が中心となっていた。このうちの小沢智景は、自分の家は新田の子孫だとの伝承があるのだと明るい声で説明してくれた。うちは新田でも源氏の新田じゃないんだと話すと、怪訝な表情をされてしまったので、あまり深くは突っ込まないでおこう。
甲賀は、高峰数信(たかみねかずのぶ)、大河原重久(おおがわらしげひさ)、芥川晴則(あくたがわはるのり)、多岐光茂(たきみつしげ)が統率しており、その中では多岐光茂が人柄的にも能力的にも一歩抜きん出ているようだった……が、甲賀の序列では、どうやら低いらしい。
いずれにしても、武田戦が近づく中なので、いったん保留してもいいぞと伝えたのだが、むしろ手柄を立てて自分達の居場所を広くしたいとの意向が示された。そういうことなら、がんばってもらうとしよう。
城内では、軍備を急ピッチで進めているため、緊迫した空気が流れているが、城下はその限りではない。
江戸前の海産物は日々運び込まれてきており、鮨が流行の兆しを見せていた。
鮨と言っても、握り鮨までは発達せず、押し鮨と握り鮨の中間くらいの、箱で固めた米に刺身を乗せて切り分けたものが翡翠屋の目玉商品となっている。他では、海鮮ちらし鮨なども見受けられるようだ。
同じく海鮮を使った料理でも、天ぷらそば、天ぷらうどんは米の消費量を抑える文脈に沿っていたのだが、鮨には米が使われる。ただ、鮨の魅力は理解できるし、目くじらを立てる必要もない。逆に、それだけ購買力が上がっているのを喜ぼう。
そして、海鮮がある程度定着してきたと捉えて、糧食に海鮮を具材にしたブイヤベース的な煮込みも加えている。今のところ、概ね歓迎されているようだ。
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