【永禄四年(1561年)一月上旬】
【永禄四年(1561年)一月上旬】
軍神殿と関白殿の滞在効果もあってか、草津温泉と伊香保温泉から、新田酒、長野酒とうどん切り、そば切りを提供する見返りに、周辺での硫黄などの採掘権を借り受けることができた。
やはり温泉地だけに、名物は欲しいらしい。
火薬の原料の一つである硫黄の確保の目処が立ったのはもちろんだが、料理人を配置して情報を得られるのが地味に大きいかもしれない。武将こそそれほど多くないものの、各分野のビッグネームが現れたりするそうだ。
早速、澪選抜の料理人と給仕を派遣することにした。
内政方面についても、ざっと見ておこう。
鉱業としては、秩父金山が露天掘りでもなかなかの産出量で、財政面の助けとなってくれていた。特に金に特化した状態ではなく、金、銀、鉄などが混ざった鉱石が多いらしい。
細かく砕いて、水中で比重によって分けてから冶金処理を加えることで、効率的な金属確保ができているそうだ。金銀の確保は、今後も踏まえると意義が大きく、とても助かる。石灰石も、順調に確保できている。
その他では、国峯城の奥地の各種鉱石、桐生あたりの鉄鉱石が中心となっている。
鍛冶では、引き続き鉄砲を作ってはいるものの、仕上がり具合が安定しない状態が続いていた。いい出来のものは家中向けに確保し、そこそこのものは販売して資金獲得手段の一つにしている。
船大工や養蜂、畜産などは、既に生業として活動している先達から知識をもらえているが、鉄砲鍛冶は一からなので苦戦を余儀なくされている。根来や国友などの産地に弟子入りするのもなかなかむずかしいだろう。それでも、実用に耐えるものができつつあるのだから、スキルの力はすごいということか。
大砲は構想段階に留まり、試作まで進んでいない。まあ、これはもうちょっと先だろうか。
配備した鉄砲を扱う部隊は、今のところは弓巫女の一人で鉄砲系スキル持ちの美滝と、鉄砲鍛冶にも参加している小金井桜花とに分かれて組織づくりを進めている。
現状で五十挺ずつまで確保しているから、ある程度の戦力になるだろう。そして、初手から早合と呼ばれる、玉薬や弾を一発分ずつ小分けにして、短時間で詰められる仕組みを採用していた。
畜産は順調で、牧場も当初の榛名山麓のところに加え、各所に設置している。
里猪と呼ぶようにしている豚は、肉食の習慣がないために農村には広まっていないが、城下町では、そのまま肉としての利用に加えてハム、ソーセージ、ベーコンを中心にたんぱく源として受け容れられつつある。飼育頭数もだいぶ増えてきていた。
鶏は、牧場で数を増やしながら飼育しているのに加え、卵目当てで農村に広がりつつある。関東は比較的緩めとは言え、やはり禁忌扱いではあるため、肉食には抵抗があるようだが、まあ、無理強いすることもない。兵糧として使っていくとしよう。ただ、町衆は意外と受容しているので、時間の問題かもしれない。
上方などでは卵を食べるのも禁忌のようだが、食べるものだとして普及させているためか、わりとすんなりと受け容れられていた。
戦陣に参加する奇特な公卿である近衛前嗣は、どちらも好んで食べているが、参考外と考えた方がよさそうだ。
牛乳を得るための牛は、妊娠期間の関係からペースは緩いが、徐々に増えつつある。副産物として、肉となる牛も出てきそうだ。牛、馬への肉食の禁忌感は鶏より一段高い。狩りで得られる猪、野鳥のような、似た存在がないからか。
産業振興についても、概ね順調に進展している。
新田酒、醤油、味噌は安定していて、新規拠点への展開も順調だった。特に醤油は品質も安定して、高く売れるようになってきている。
果実酒も、本格的に醸造する準備が進んでいる。葡萄酒については、今年は白ワインからシャンパン的なスパークリングワインまで一気に広げていきたい。その他の果実酒も増やしていくとしよう。
養蚕も、今年はさらに拡大させる予定で、糞の集積も進んでいた。
蚕の糞や、鶏、豚など家畜の分を原料にした硝石作りは、そこそこの確保状況となっている。何年か必要だった気もするので、気長に進めよう。一部は試験的に売っているが、備蓄中心である。逆に玉薬は、将来的な値上がりが見込まれるので、西方からじゃかじゃかと購入しつつあった。
まちづくりとしては、厩橋は拡大の一途をたどっている。よそでは、金山・大泉の軍需産業拠点も活況だし、その他の城域でも、生産拠点と浴場、常設市場、食事処を中心に城下町が形成されつつある。そこに翡翠屋と号する居酒屋と、菓子処の那波屋、茉莉屋が加われば、さらに活気が出るだろう。
城下町の形成は、防衛の必要が出てくるので、いいことばかりではない。けれど、ひとまずは流れに任せようとしている。
軍備面のうち、根幹となる常備兵は動員可能数で三千五百人に達している。新規参加比率が多いため、どうしても熟練者と新兵を混ぜる形の構成となるが、調練で埋めていくしかない。史実では、小田原攻めでの戦闘は限定的だったので、その間に経験を積んでもらえるといいのだが。
水軍関係では螺旋洋櫂船方面が試行錯誤中である。スクリューを直接ハンドルで回す形での小舟での試作機は良好だったが、ガレー船への適用となると一気に難度が上がるのは間違いのないところだった。まあ、ダメ元でいいのだけれど。
一方で、試作していたなんちゃって南蛮船は、一応は完成の域に到達し、試験航行は済ませたものの、使いどころのない状態となっていた。こちらも、経験が積めたのでよしとしよう。
既存の武家人材の確保は、正直なところ進んでいない。他家に仕官していた武士としては、大道寺政繁と里見勝広で、どちらも降伏からの登用となっている。
新田としての支配領域は拡大しているが、武将たちからすると、ぽっと出の家に仕える気にはならないのだろう。そのため、子供達からの育成組が主力となりつつある。そうなると、内政はともかく外交面では軽んじられかねないとの危惧があった。
一方で、旧態依然たる武家に慣れた武将が我が新田家で働けるかと考えると、やはり難しい面はありそうだ。特に指揮役は適性と統率力を兼ね備えることが求められる、家柄がモノを言う家中ではないという事情もある。
そして、人材の観点からは、地上戦力よりも内政系の各分野と水軍、忍者、土木系に偏ってしまっているかもしれない。まあ、水軍は陸に上がれば普通に戦えるし、忍者も陸戦ができないわけではない。内政方面に向かうのは武力に秀でていない者達がほとんどなのだが、適性を見分けられるのは非常に大きかった。
鎧島は、品川湊との交流も進んで、いい状態のようだ。海賊の襲撃を撃退したり、塩も良質なものを供給したりと、商人たちに喜ばれていた。そう、彼らを潤していけば、自然と関係性も良くなるのだった。
出入りしている商人には、里見水軍系や北条水軍系、今川水軍系までいるようだが、排除するつもりはない。
挑戦してくる水軍は撃退し、捕虜は土産を持たせて送り届ける動きを続けている。
そして、厩橋に駐留していた軍勢がそろそろ出立準備というところで、香取神社、鹿島神社に参拝する流れとなった。軍神殿が弓と剣をそれぞれ奉納してくれ、関白殿は筆と硯を納めてくれた。どちらも、神社の宝となるのだろう。
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