【永禄三年(1560年)四月上旬】その二


【永禄三年(1560年)四月上旬】その二


 さて、今回の忍者部隊活躍の背景には、<忍術指導>スキルを持つ霧隠才助による三日月配下への再教育の効果もあったようだ。


 穏やかな人柄の才助は、自身が抜群な腕というわけでもなかったので、これまでは後輩にたまに意見する程度で、手練れ組が彼に指導を受けるなど思いもよらない状態だったらしい。


 けれど、俺の提案もあっていざ指導が行われると、当初は不平を漏らしていた格上の忍びたちの能力が、一気に高まっていったそうだ。元時代の野球やサッカーの世界でも、能力的には高くなかった選手が良いコーチになるケースはあると聞くので、そういう状態だったのだろう。三日月率いる忍群には、さらなる活躍が期待できそうだ。


 また、才助によって新設された忍者隊も、エース級が襲撃に参加した他、事前諜報も担当し、それぞれ戦果を上げていた。頼もしい展開である。


 今回は、忍者とクロスボウの相乗効果による戦果だったわけだが、さらに数を揃えて足軽クロスボウ部隊を組織する選択肢も考えられる。ただ、よそが模倣してきても厄介なので、ひとまずは見送るとしよう。


 その方向であれば、クロスボウは忍者隊限定の配備として、主に夜襲、奇襲で活用される形となりそうだ。


 そして、忍者隊の実力は、新規占領地での情報収集でも遺憾なく発揮された。頼もしいことである。




 由良家は退けたが、先日の攻勢を仕掛けてきた際に一緒だった、桐生佐野家と那波家への対応も必要だろう。


 金山城下に、今後は新田家が統治する旨の告知を行うと同時に、両者に降伏勧告を発してみた。いきなり過ぎるだろうか。


 とか考えていたら、桐生佐野家から降伏したいとの使者が届いた。やってきた里見姓の家老には、城を無血で明け渡すから、命ばかりはと泣きつかれてしまった。


 我らが新田家の領土拡張は、今回の金山城攻め以前は、どこまでも防衛戦の結果だったはずだが、どんな悪評が広まっているのだろうか。


 三日月に確認すると、領内から退去した土豪衆が触れ回っている内容が判明した。新田は先祖伝来の土地を奪って皆殺しもためらわない、血も涙もない連中だ……って、皆殺しはしたことないと思うんだが。


 なんにしても、明け渡してくれると言うなら、ありがたく頂戴するとしよう。桐生佐野家は、確か史実ではやがて由良家に滅ぼされていたはずだし。


 本家である佐野氏に合流したい向きと、別の道を歩みたいと望む者たちに分かれるとの話だったので、独立派には家禄付きでの厩橋城下への移住を提案したら、家老の里見勝広は感涙を流していた。いったい、どんな悪鬼扱いなんだ。


 移住組は、桐生姓を名乗るとの話でまとまった。そう言いながら、桐生は離れるわけだが、代官的な形であればいずれ任せてもよいのかもしれない。


 もう一方の那波氏の方は、東西を新田に挟まれた状態となったためか、決戦を挑む構えを取ってきた。攻撃部隊主力を陸路で厩橋城へ移動させるついでに包囲し、一当てしたら逃げ散っていった。


 当主はそのまま戻らなかったが、妻子ら一族から降伏の申し出があったので、同じく家禄付きで厩橋に移住してもらうとしよう。


 桐生、那波の両家は、冷遇されると覚悟していたようだったが、別にそんなつもりはない。当面の住まいと生活費は用意するし、郎党と田畑を開拓するなり、事業を起こすなりして繁栄してくれれば大歓迎である。そのための助力くらいはさせてもらうとしよう。




 金山城、桐生城、赤石城の確保によって、利根川流域の北岸に安定した領域を確保することができた。


 元時代の太田である金山城下の周辺では、北東の足利長尾氏とはひとまずの友好関係にある。


 東にある館林城は、由良氏と縁戚だったはずで仮想敵となるが、単独で仕掛けてくるとは考えづらい。そのさらに東には、関東の中心地の一つで、公方さまがおられる古河があり、さらには佐野氏や宇都宮氏の勢力がある。少なくとも現段階では手出しをしない方がよいだろう。


 となると、金山城がそちら方面の前進基地という形となる。


 南方については、利根川と神流川を境にして、赤石城、和田城で防備を固める形となろう。


 領域全般を見回すと、北の白井長尾氏とはひとまずの友好関係にあり、そこから三国峠を越えれば、長尾景虎の所領がある。


 碓氷峠の西にいる武田家には引き続き警戒が必要にしても、厩橋一帯の赤城山と榛名山に挟まれた利根川流域はひとまず安全地帯となった。人口も増えてきており、夏までは産業育成に本腰を入れるとしよう。


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