【永禄三年(1560年)二月下旬】
【永禄三年(1560年)二月下旬】
短めの準備期間を経て、霧隠才助が率いる忍者隊が結成された。俺がステータス、スキルで選んだ▽印持ちと、才助によって常備兵や孤児から選抜された合計三十人ほどが最初のまとまりとなる。彼らは忍者的な動きをする戦闘集団と位置づけられ、教育が開始された。
体術面よりも情報収集に特化した集団も別に設置し、訓練が始められている。こちらは、もしかすると商人働きと兼任する形になるかもしれない。
また、三日月配下の忍びに才助が再教育を施す展開ともなっていた。結果として、忍者候補生と現役組の交流が進んだようで、なによりである。
戦国時代に、特に関東周辺では忍びの利用は一般的ではなく、乱破や透破と呼ばれる、荒くれ者らを臨時に雇って使う場合が多いとされている。ただ、この世界に、「戦国統一・極」の状況が敷衍されているとしたら、北条には風魔衆、後に上杉となる越後長尾には軒猿衆、武田には三ツ者がいると想定され、実際に風魔、軒猿からの諜者は入ってきている。
まあ、ゲーム内でも、東国の者たちは伊賀、甲賀の忍者とは規模が違うとされていたわけなので、後に真田忍びとなる出浦衆をこの時点から強化できれば、互角にやり合える可能性はある。ただ、三日月が出浦衆全体を押さえているわけではないかもしれないが。
忍者絡みでは、城に詰めている静月に密かな注目が集まっていた。十四で俺と同年代ながら、腕は確かで、報告もしっかりしている。ただ、会話は最低限に留まるし、とにかく無表情なのである。
嫌な感じではないのだが、どうにか餌付け……と言うと表現が悪いが、笑みをもたらすような好物を見つけ出したいとの共通の目的が、一同を奮い立たせているのだった。
ルールは、その日のおやつを交代で考案し、どれだけ静月の表情を緩められるか、という一点に尽きる。
俺もここぞとばかりに、元時代知識でパフェやらシェーキやら準備してみたのだが、反応はいまいちだった。
蜜柑の独創的で破壊力高めの創作菓子も、まったく普通の表情で食していたし、澪の凝った和菓子にも笑みはこぼれなかった。
やや諦めの雰囲気が漂う中で、挑戦したのは見坂兄弟だった。弟の智蔵は皆さん考えすぎなのでは、との言葉とともに砂糖をそのまま出してきた。
甘味が貴重なこの時代には、確かに万人に好まれる菓子と言えるのかもしれない。ただ、物静かな女忍者の顔が綻ぶことはなかった。
その様子を見ていた武郎は、静月に問い掛けを投げた。
「なあ、静月のねえちゃん。どんな菓子が好きだい?」
「……特に、なんでも」
「なら、これなんかどうだろ」
武郎が取り出したのは、筍の皮だった。と、静月の表情が動いた。
「それは……」
手に取った彼女の表情が、どこか幼子のように見えた。筍の皮に口をつけると、そのまま吸い出す。すると、梅干しの香りがその場に広がった。
「懐かしい……。小さな頃に、婆ちゃんがくれたのと同じ味」
「おいらも、爺ちゃんにもらったのを思い出して作ってみたんだ。早い筍を探すのは、ちょっと苦労したけど」
「ありがとう」
にこりと笑った静月に、勝者の少年は、でも、おいらは砂糖の方がいいな、と笑ったのだった。
畜産方面では、鶏は順調で、多めに産卵する雌鶏の一族の第一陣が揃って、卵の量産体制に入った。いや、ほんとに助かる。
豚は、二巡目が生まれた頃で、一巡目も成長しているはず。牧場は鶏と豚で溢れかえって悲鳴を上げているようなので、畜産系スキル持ちを送り込むことにしよう。
馬産についても、上方からのまた毛色が違う馬が数頭到着して、奥州馬と上方馬、それに上州馬代表として「静寂」号を掛け合わせる計画が進んでいる。
さらには、乳牛のための牛も増やしたいので、さらに人手が足りなくなりそうだった。
農業面では冬の農閑期で、開墾こそ断続的に進められてはいたが、穏やかな進行となっている。
その中でも、食用油が今後不足しそうなため、油を自力で調達する計画は急ぎ気味の対応となっていた。
天ぷらが蕎麦、うどん屋で好評なので、一気に広げたいのも確かなのだった。野菜を美味しく食べる習慣が根付けば、健康面にもいいし、米の消費量が減るとの思惑もある。
油を得るための作物としては、菜種とごまが基本になりそうだ。新規開墾地に加えて、蕎麦畑として切り開いた土地で二毛作的に作ってみるとしようか。相性まではわからないが。
この時代、菜種は野菜として流通している。油の原料としては一般的ではないようなので、菜っ葉から油を取ると言われてもピンとこないと思われる。こちらも、油を搾るための器具を笹葉に試作してもらっているので、実演の上で天ぷらを揚げてみて、さらには買い上げ価格も示して栽培を促すとしよう。
ごまについても、川里屋の岬に種の入手を進めてもらっていて、順調に集まっていた。
雪はだいぶ積もっているが、せっかくなので利用したいところである。洞窟にでも雪を貯めておけば、氷室として夏場に冷たいものが飲食できそうだ。そう考えた俺は、現地の面々に適地について相談してみた。
寒さと運搬の便から、箕輪城から榛名山を少し登った辺りに幾つかある洞窟なんかどうだろう、との話になった。そこからなら、小舟で川を使って箕輪城までは運べそうだというのである。
まずはお試しとして、人を派遣して雪を洞窟の奥に積み上げるよう依頼した。その氷を使って軍神殿をもてなすという展開に、果たしてなるのだろうか。
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